十四話め。笑顔は大好き。お前の笑顔は嫌い
「いやー。先程は失礼な態度をもうしわけありませーん、差支えなければあの女の事教えてくれませんかねェ?」
突然の俺の性格の変動に、何やらドン引きしたような表情をしているが。
そこはスルーしておこう。
「何なのよ気持ち悪いわね。にしても……フーン、アイツまだ学校通ってたんだー」
意味深な言い方に少し首を傾げる。
「なんだよ、どういう事だよ?」
「いいわよ? アタシも今丁度ムカついてたから愚痴程度に話してあげる」
お前の派手過ぎる化粧と無駄に高そうなバッグの方が気持ち悪いんですケド。口には出さないですケド。
「アイツさー……自分の事を幽霊とか言ってるでしょ? それで苛められてたのよ。 もうクラス中で団結してイジメ始まってェ」
そこから聞いた話は。
楽しくなかった。
笑えなかった。
俺の嫌いな内容だった。
ただ、女は嬉しそうに楽しそうに前の学校でアゲハが苛められていたことを喋った。
何をしても反応が無い、それは本当に幽霊のようで薄気味悪かったとか。
頭から水を掛けただの、上履きにネズミの死骸だの。
在り来たり過ぎるイジメ。
イジメのせいで、あんな風になったとかでは無く。
元から薄気味悪く感情が動かないとか。
で、誰がキモチワルイ? そんな言葉嫌いだ。
キライだ。 楽しくない。
「……っへー」
話を聞いていて俺が最初に出た言葉は、間の抜けた声だった。
特に感情が出るわけでもなく、ただただ無関心に。
「アンタも近づかない方がいいわよォ? 気持ち悪いのがうつるからさーキャハハハ!!」
ああ、いるんだな。
お前みたいなの。
笑顔は好きだ。だけどそんなんで笑った汚い笑顔はドブよりも薄汚く思える。
ん、んーんー。
イカンな珍しく俺がシリアスな気分になっちゃったよ。
ノンノン! 俺はこういうのじゃない。
「……それはそうとお嬢さん、とても高そうなバッグを持っていますな?」
気分を変える為に派手女に話しかける。
「あ、あらァ? アンタ解ってるじゃない! これは有名なバタフライっていうメーカーのブランドなのよ? 十数万はするかしらァ?」
金色の刺繍が派手に入っている。
おしゃれな感じでバタフライの字が英語でBのスペルが逆にしてんのは何だろう洒落てる感じなのかしらん。
自慢げな様子なギャルに、凄い無表情なまま俺は言葉を続ける。
「ほァーバタフライ? すごいっすねー!」
そうは言って見ても女のブランドとか知らないですけどねハイ。
「良ければ手にとって見せていただけませんか? 美しいお嬢さんは手に取る事は出来ませんがせめてソレに見合う高価なカバンを是非に……」
服従のポーズで両手を差し出してみる。
「……フ、フゥン? 良いわよ少しだけ触らせてあげる」
俺の下からの行動に妙な優越感に浸っている様子。
俺の手の上に高価ならしい、カバンが置かれる。
結構な重量感。
そりゃそうか、財布やら携帯やら色々入れるもんあるもんねぇー。
「ほぉー、これが、ほぉー……」
無感情だった俺の瞳が突然燃え出す。
カバンを持っている手に力が漲る。
「おーーーーーーーーっとぉ! 手がァーーーダイレクトにィーー滑ったァーーーーーーーー」
叫び声を挙げながら思いっきりカバンを空中へとブン投げる。
宙に舞うカバン。
思いっきり力入れたので思いっきり飛ぶ。
顔がみるみる強張っていくギャル女。
「な、なにしてんのよォォォォォォぉーーー!!」
悲鳴を挙げながら慌てて飛んでいくカバンを追いかけて行く。
その後姿に俺は中指を立てて思いっきり悪態を吐いた。
「ぶわーかぶわーか!! そのバタフライのスペル、Bが逆向いてんじゃねーか!! それニセブランドだよバーカ! 何が数十万だ!! ギャッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
消えていく後ろ姿に俺は高笑いを続ける。
「……アレ、本物よ」
「っ!?」
突然の後ろからの声に俺はビクッと体を揺らす。
いつからいたのか知らないが、無表情の幽霊娘がそこに居た。
「……ブランド、バタフライはBのスペルが逆向きなのよ」
淡々とした様子は一部始終を見ていたらしい。
「え!? そうなの!?」
数十万ぶん投げた男は驚愕の表情を浮かべて固まる。
そう私です。
「河合君……こんなところで何してるの?」
「え!? あー……いやァー……そのぉー……」
流石に貴方の事、ストーキングしてたんです! テヘッ☆
とは言えないし。
「ちょ、ちょっと今ギャルのカバン投げ大会しててさー! いやぁー偶然偶然! 今回の投げっぷりは新記録達成かなー! ナハハハハハハハハ!!」
く、苦し紛れ過ぎるか!? 何ナハハーって笑ってんだよ!
何ギャルのカバン投げって! どういう風に記録つけるんだよ!
「……私の事、つけてた?」
わあ直球!
バレてないと思っていた行動はがっつりバレていたようで。
というか知ってるなら変な言い訳口走る前に言って欲しかったんですけど。
「……」
相変わらずの圧力のある無言が俺に向けられる。
ど、どうなるんだ俺。
警察呼ばれたら流石にグッバイだぞ俺!!
ぶるぶると震えている俺を見て、アゲハは一呼吸置いて、予想外な言葉を零した。
「……良いよ、私に用事があったんでしょ? さっきの御礼にお茶くらい出す」
「へ?」
アゲハの言葉はあまりにも以外で、間の抜けた声が出る。
それも俺は嫌われていると思っていたからだ。
バカみたいな顔をしていると、アゲハはそんな俺を無視してサッサと歩き出した。
慌てて俺は後を追う。
ん? っていうか。
「お礼って何だよ?」
「……さっきの」
アゲハはそれ以上は言わなかったが、ソレでも俺は言葉の意味を理解した。
さっきのって……俺がカバンぶん投げた女の事か。
そこで俺はニヤッと気持ち悪い笑みを浮かべてしまう。
「何笑ってるの……気持ち悪い……」
アゲハが少し眉を動かして気持ち悪さをアピールしてくる。
それでも俺は表情を崩すことが出来なかった。
幽霊女もスカッとしたのかな。