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十二話め。茶番に付き合うって大事


「…………」

 さっきまで馴れ馴れしかった天道君がさり気なく距離を置いてる。


 『茶番に付き合ってやれ』とか言ってたくせに恥かしいネタには関わりたくないらしい。


 天道君は絶対酷い死に方するだろうな……後ろから刺されそう、とか考えてるうちに河合君が動き出した。


 私の方に、必死な感じで走ってくる。

 くるっと私の方に背を向けると河合くんは剣を構えマントをたなびかせて見せる。


「とうとうここまで来たぞ! 魔王ベンザブロンめ!!」 

 河合くんが格好良く声を上げる。

 それに対してベンザブロン? が高らかに笑う。


「フハハハハハハハ!! 良くぞここまで来たなサートヌッ!」

 両手を広げ。同じようにベンザブロンの服がたなびく。


 ……二人とも下に扇風機を設置している。

 変な所に力入れるね河合君って。


 河合君……じゃなくてサートヌが私の方を振り向く。


「チュートヌ……君は見ていてくれ……戦いが終わったら……」

 そこでサートヌは恥ずかしそうに視線を前に戻す。


「いや、良いんだ……君はそこで見ててくれッ!」


 チュートヌは確かヒロインの魔法使い……。

 やっぱり巻き込んでくるんだね。

 サートヌは前に走り出す。

 大切な人を守る為に、魔王に剣を振るう。

 ……という予告で終わった気がする。


 剣と杖が何度も当たり火花を散らす。


 戦闘が無駄に激しい。

 しかし均衡していた戦いは少しづつサートヌが押されていく。


「フハハハハ! どうした勇者サートヌよ!」


「っく! やはり魔王! なんて強さだ!」


「フハハハ! 私は誰かの笑顔でパワーアップした勇者じゃないと倒せないからな!!」


 ……魔王が何か狙いすぎなような発言してる。


「な、なにぃ!? 誰かの笑顔でパワーアップした勇者じゃないと倒せないだとォ!?」


 勇者まで復唱し始めた。

 サートヌがチラッと私の方を見てくる。

 ベンザブロンもチラッと見てくる。


「………」


「………」


「………」


 私達三人分の無言が一瞬だけ続く。


「クッソォ! 誰かさんの笑顔があればパワーアップして世界を守れるのにィ!」


「フハハハハハハ!! ヒロイン的なポジションの誰かが笑顔で『頑張って!』とか言った瞬間に謎のご都合パワーアップで私は一撃で倒せるぞォ!」


 リテイクしだした。


 そして再び私の方をチラッと見てくる。


 再び沈黙。

 私は小さく肩を竦めてみせる。

 天道君の言った言葉が脳裏を掠める。

 茶番に付き合う。


 それで何か変わるの。

 これで最後にして、目の前から消えてくれるのかな。

 私は一人がいいのにな。


 ……もしかして私が行動するまで目の前でずっと同じリテイクする気かな。

 河合君ならやる。


「が……ガンバッテー」

 凄く棒読みだけれどいつまでも目の前で続けられても困るので。

 取り敢えず、小さな声で言ってみる。


 その瞬間に、河合君の表情が明るくなる。

 本当に咲いたように、思いっきり。

 嬉しそうに笑った。

 笑ってないけれど、茶番に付き合ったのが、そんなに嬉しかったのかな。


「こ! これは! パワーが漲ってくる! これが愛の力!!」

 良く解らないけれどパワーアップしたらしい。

 愛の力って凄いね。


「これで! 倒せる! 世界を守れる! 帰ったら告白するんだァァァァァ!!」

 勇者は剣を構え直し、魔王に向かって飛び出す。

 魔王に向けて、漲った力を横一閃。


「ぐ、ぐおおおおお! これが愛の力ァァァァ!!」 

 魔王の叫び声。

 剣が当たるから当たらないかの瞬間、


「ハイドーン」

 突然の無感情の低い声と共に、勇者の顔に魔王の右拳が振り抜かれた。


「へびょぉ!?」

 間抜けな声と共に河合君が吹っ飛ぶ。

 ごてごてした剣も床に転がる。


「は!? は!? お前そこやられるシーンだろ!? 何やっちゃってくれてんの!?」

 慌てふためいた河合くんが殴られた頬を摩りながら涙目で訴える。

 あまりにもいきなりの事で素に戻っている。

 それに対して筋肉質な魔王は目の前で拳を鳴らしながら先ほどの魔王らしい表情より悪い表情で笑っている。


「ハーイざんねーん笑顔でパワーアップ出来なかった勇者様は無残に魔王にタコ殴りにされるのでしたァ……」


「おまっ! やめろ! ヤメテ! ヤメテクダサイ!」

 馬乗りで河合くんが本当に殴られているのを他所に席を離れる。


 沢山の人の視線を感じる。

 私もまるで仲間だって見られているみたい。


 私はその場を後にしようとドアに向かった。


 ……もう帰ろう。


「やればできるじゃん?」


 後ろからの天道君のからかうような声が聞こえた。

 無視。

 私に関わらないで。


 いない、みたいに。

 扱えばいいのに。


  本当に……なんなんだろ。





「おーい、河井起きろー」


 誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。

 折角いい寝心地なのに起こすんじゃねーよ……。


「うるせー……暴走して食べちゃうぞコラ、おいしく俺の糧にされたくなけりゃ起こすんじゃねー」


「いいから起きろって」

  ……なんなんだよ。

 めんどくさい気持ちもありながらも顔をあげてみた。

 そこにいたのは。魔王の格好をしていた筋肉だった。



 少し間が開く。


 その瞬間にタコ殴りにされた事を思い出す。

「ギャアアアアアアアアアア! 肉体も魔王ウウウウ!! 」

 取り合えず最初に浮かんだ突っ込みはコレだった。

 バッチリ目も覚めたわ。


「あん? テメェそれは筋肉に対する侮辱かコラ。乳酸でパンパンにするぞコラ」

 筋肉が魔王の姿のまま、ヤンキーちっくにガンを飛ばして来る。

 いや、何かシュールねこの絵。


「お前殴られすぎて意識ぶっとぶとか珍しいな」

 物騒な現状を教えてくれたのは筋肉とは別の方向から。 

 この声はイケメンだな。


「うるせぇ勇者は魔王にやられて気絶するシーンがあるんだよ!」


「俺お前らのそういう思考解らないんだよね……」

 格好良く髪をかき分けながらオタクを否定してきやがる。

 コイツとは趣味の方面ではあんまり合わないな本当。

 イケメンの後ろの方では「キャー私達の王子が髪かきあげてるわー! 素敵ー!」とか騒いでいるので奴等に威嚇のポーズでもしてストレス解消。


「こっち見るんじゃネーよ! バカ河合! ボケ! 殺すぞ!!」

 逆にストレス溜まったよ!?

 俺とイケメンの差はなんなんだ。なんで俺の時はこんなにボロクソに言うんだ!?

 ……アア顔か。


「おい筋肉、あそこのお嬢様達がお前のコスプレについて語りたいとよ」

 筋肉出撃。


「へい彼女達! 一緒に上腕二頭筋のコスプレしようぜ!」

 魔王の姿のまま、マントをたなびかせながら筋肉が颯爽と飛び出す。


 再びキャーキャーと騒ぎながら筋肉から散り散りに女達が逃げていく。


「で? お前どうするよ? あの子、保健室行って早退しちまったよ?」

 イケメンが筋肉を総スルーして話を戻す。

 そんなに俺のコスプレが酷かったのか? 保健室行く程って素で凹んで良い?


「……マジかよ、また明日までにネタ考えないと、そろそろマジでネタ切れだってのに」

 頭を抱える俺にイケメンは考える素振りを見せる。


「そうだなァもっと相手の事知らなきゃ行けねーんじゃねーのか?」


「知る?」

 首を傾げるバカな俺にイケメンは態々説明をしてくれる。


「だってお前、アゲハちゃんの事なんも知らねーだろ? ちょっとは探ってみたらどうだ?」


「……ソレだ!」

 イケメンの言葉に俺の中の何かが弾けた。

 やはり情報が足りなかった! 奴の事を隅々まで調べて一からネタ作りに励もう!!


「よっし! それなら早速尾行だ!! 俺も早退すっから先生に適当に言っといてくれ!」


「おー、頭が破裂したとか適当に言っといてやるよ」


「流石に適当過ぎじゃね!?」

 突っ込みを返してから俺は走り出す。

 後ろから「それストーカーって言うんだゾー捕まるなよー」とか何とか、最後の方は聞こえにくかったな。ストッキング? あぁ大好きさ!

 今は急いで幽霊娘に追いつこう! 



ツイッター @adainu1


同時進行でやってる下記もよろしくね!( `・∀・´)ノヨロシク



オンラインシャッフル

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