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ハムラビノート  作者: 三毛猫
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ケルさんのご飯係⑤



「とりあえず、あの子は大丈夫かな」



少女の姿が見えなくなると、ショウは自分が蹴り飛ばしたナイフ男の元に歩いていった。

ナイフ男は腹を抱えて倒れていたが、まだ意識があった。



「ごめん。軽く蹴ったつもりだったけど、やっぱ力の加減が上手く出来なくて……」




「て………てめ…てめぇ………」



ナイフ男がヨロヨロ立ち上り、ショウを睨みつけた。




「(見た感じ真面目なサラリーマン……だっけ?……と言うか真面目なサラリーマンはそんな事しないか……)」



ショウはスマホを操作する

そんなショウの様子に男は苛立ちを隠さなかった。



「おいっ!聞いてんのかクソガキ!!」



「えーっと……シバタ・ナオキ。28歳。職場のストレス解消で、初めはナイフを見せて女子高生を驚かすだけで終わっていたけど………徐々にエスカレートして顔を切りつける事に快楽を感じる様になったんだよね?あってる?」



「!………なん……で……俺の名前……知ってんだよ!?」



自分の素性と動機を話され、ナイフ男……ナオキは動揺した。

だが相手は自分より小柄で非力そうな子供。



「(近くに落ちてるナイフを拾えば………)」



ショウに気がつかれない様にナオキは落ちているナイフをチラッと見た。


ナオキのそんな素振りも気にする事なく、ショウはスマホを操作していた。



「何で知ってるって……姉ちゃんのメールに書いてある通りにしゃべっただけだし」



「姉ちゃんって……警察かよ……」



「警察……だったら、まだ良かったかもね」




ショウがスマホをポケットに閉まった瞬間、ケルが毛を逆立て勢いよくナオキに向かって鳴き始めた。



「がぅ!がぅがぅ!!」




「ケルさん。ちょっと待ってね。今から食べやすくするから」



「…食べやすく……?」



「がぅう!がぅう!はぁ!はぁっ!」



「ちょっとケルさん。まだだって。今食べたらお腹壊すよ」



ショウが暴れているケルに目を取られている隙に、ナオキは近くに落ちていたナイフを拾おうとした時だった……



突如、真っ黒の手がナオキの腕を掴んだ。




「うわっ!?…な………何だ!!」



真っ黒の手がメキメキと音を発ててナオキの腕を離さない。

しかも黒色の腕は一本だけでは無く徐々に本数を増やしナオキの体、全体にみるみる内に、まとわりついてきた。

触れたところは氷の様に冷たく更に身体中、虫が走り回っている様な感覚に襲われた。



「な、何だよこれ!触んじゃねえよ!!離れろ!!このっ!」




「その黒い腕、あなたが切りつけた女子高生の恐怖心を具現化したのと……あとサービスで女性の怨念もプラスしました」




「さ……触んな!なぁ!何なんだよ!!お前も何なんだよ!!!」



振り払おうと必死にもがきながら、抵抗するナオキの質問にショウは答える。



「僕はケルさんのご飯係ですよ」



「ご!ご飯係って!!意味不明だし!答えになってねーよ!!」



「意味不明って言われても……んーなかなか食べやすい状態にならないなぁ…」



困ったなぁ…っと思っているとケルが前足で首輪を外そうと暴れていた。



「がぅがぅ!ばぐぅばぐぅ!はぁ!………はぁ!!」



「あ、ケルさんの首輪外すの忘れてた」



ごめん、ごめんっと言いながらショウはケルの首輪を外した。



「ぐぁう!……ぐるるるぅ!!」



首輪を外した瞬間、ケルの体に異変が起き始めた。

まずは黒色の瞳が赤色の瞳に変化した。

更にビキビキと音を発ててながら、徐々に体が大きくなっていく。

まるで地獄に住んでいる 番犬そのものの姿にケルは変化した。



「…何だよ……それ?」



ナオキは混乱した。

自分の体には恐ろしい腕がまとわりつき、更に目の前には化け物がいる状況に頭が付いていけなかった。



「これが本当の姿をしたケルさんです。このサイズだと、こっちで生活出来ないもんで……ちなみにケルさんは基本的に何でも食べます。でも一番好きなのが罪を犯した人間の心と体の機能…」




「罪を犯したとか……心とか……お前…人間かよ………」



「人間では無いですよ」



あっさり答えたショウ。

ケルにお座りっと命令し、話を続けた。



「さっきも言った様に僕はケルのご飯係兼、新しくあの世を支配する事になった姉の雑用係です」



「支配………姉………?」



「簡単に言うと………僕の姉ちゃんがあの世の女王様って事です……あ、やっと食べやすくなったかな?」




食べやすくなったっと聞いた瞬間ナオキは青ざめ、恐怖に震えた。

さっき、この化け物の好物は罪を犯した人間の心と体の機能……

ナオキは何とか逃げようとしたが、ガッチリっと黒色の腕が掴んでいる為、身動きすら出来ない。



「は………なせ!離せ!!や……やめ…止めてくれよ!!なあ!!おい!!悪かったよ!もう止めるから!!」



「がるがる!……うぅぅぅぅ!はぁぁぁ!!」



待ちきれないっとばかりにケルの口からは唾液がボタボタっとこぼれ落ちている。



「なぁ!おい!止めろ!止めろって!!」



「はい。召し上がれ」



ぱんっとショウが手を叩いた瞬間、ナオキを頭から食べ始めるケル。


ケルに食べられている間ナオキはずっと激痛に襲われ、獣の様な悲鳴をあげ続けた。

そんな様子をショウは冷静に眺め、ひと言呟いた。



「そんなに叫んでも誰にも聞こえないのに……」



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



ケルが食事を始めてから1時間がたった頃。

少しずつ恐ろしい姿から、ゆっくりっと豆柴犬サイズに戻ったケル。



「がふぅ!………がっぷぅ……」


満足そうに尻尾をパタパタ振りケルはショウ飛び付いた。



「はい。ごちそうさまだね」


ケルに首輪をし、ぽんぽんっと背中を軽く叩く。



「ぐあぁぶぅ!!……はふぅ……」



豪快なゲップが出し、そのまま爆睡するケル。



「(凄いゲップ……)」



こっちの病院で診てもらった方が良いかな……など思いながら、ショウは倒れているナオキに目を向けた。


ナオキは心だけを食べられている為、体に外傷はない。

たが、心と体の機能を全て食べられた事により、まず恐怖以外の感情を奪われた。更に一人では動く事も出来ない体。


もうナオキは一人では生きていくのに困難な状態になったのだ。




「でも死ぬよりマシだと思うよ。まぁ、黒色の腕の恐怖とケルに食べられた恐怖………この2つからは逃げられないけどね…」



ショウは肩にかけてある黒色の鞄を開け、中に入っているノートを取り出しページをめくった。



「えーっと、今日のケルさんのご飯はシバタ・ナオキ。罪状は連続で女性の切りつけ……っと」



空いているページにケルのご飯になった人間の名前・罪状を書き終えると、スマホを取り出し姉にメールした。

送信を確認すると、まとめて黒色の鞄に仕舞い爆睡しているケルを抱き上げた。



「ぐぶぅ……ぐぶぅぅ………」


「じゃあ、帰ろっか」




何事も無かったかの様に倒れているナオキを放置したままショウは公園を後にした……


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