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後編

 双子と会ってから数日後、私と双子の弟である友人は、とあるパーティーに参加していた。その席で私はすっかり出来上がってしまっていたのだが、それより深刻だったのは友人の方であった。彼は元々あまりお酒が強い方ではないのだが、つい飲みすぎてしまったらしく、フラフラになってしまっていた。会場近くの公園へ、他の友人とともになんとか彼を連れ出し、ベンチに座らせた。友人はしばらくの間ずっと項垂れていて、何度か鼻をかんだ。一時間ほどたってようやく起きて歩けるようになったが、やはり心配なので、私がその友人を、彼の家まで送ってやることになった。ここから彼の家までは、歩いて約20分であった。

 道中、彼は私に、兄がまだ彼の家に泊まり込んでいる。ただ、その兄も用があって夜遅くに帰ってくる。弟は家に着いたらすぐに寝たいのだが、そこで鍵を閉めてしまうと、兄が家に入ってこられない。だから、兄が家に帰ってくるまで代わりに待っていてくれないか、と頼んだ。勿論、私は了承した。

「本当に悪いね」

「別に、大丈夫だよ」

 私としては、彼も無事なようだったし、迷惑どころかむしろ面白そうだと思って、彼に付き添っていた。

 家までたどり着くと、友人は自分で言った通りすぐにベッドに向かい、すぐに眠り込んでしまった。私はソファーでお兄さんの帰りを待っていた。


 お兄さんはなかなか帰ってこない。私はソファーでぼーっと座っている。何故だか日課の読書もする気になれない。無言の世界の中で、時間だけが進んでいく。やがて最終列車の時間も過ぎてしまい、私はとうとうこの家に泊まらざるを得ない状況になってしまった。

 日を跨ぐ時間近くになって、私はいい加減明かりを消し、ソファーに横になる。まどろみかけたところで、ベルが鳴る。帰ってきた。私は起き上がって玄関に向かい、双子のお兄さんを迎え入れた。この人とこんなに早く再会できるとは、夢にも思わなかった。彼も私を見てやや驚いていたようだったが、私が事情を話すと納得してくれたみたいであった。

 お兄さんと私は、早速弟の眠っている部屋に入り、明かりをつけた。弟は体を一寸も動かす気配なくじっとして、目を閉じたままでいる。兄がそんな弟の近くにより、

「お兄さん、大丈夫かい?」と尋ねる。弟は、

「うーん」とうなる。

 兄がこの時弟を「お兄さん」と呼ぶものだから、私はまたどっちが兄だったかわからなくなってしまう。

 弟は眠りからは覚めたようだったが、ベッドから動こうとはしなかった。兄が話しかけても、

「こういう時には水飲んだ方がいいぞ」

「いらない」

「気持ち悪かったら吐いちまった方がいい」

「いやだ」

といった具合である。

 それでもお兄さんは弟の様子から判断して、『まあ明日になって冷たくなっていることはないだろう』と結論を下した。医術を学んでいる人の言うことなので、そこにはなかなかの説得力があった。

 寝室を出て、ソファーのある部屋でお兄さんと私は適当に雑談をする。

「お兄さんも今日は飲み会だったそうですね」

「そうそう。にしても、やばくなったら、ためらわずにとっとと吐いちまった方がいいんだよ。俺なんかすぐにトイレで出すよ」

「ですよね。自分は一回しかそういう経験ないですけどね」

 つらそうにしている双子の弟を横目に、お兄さんと私の間では笑いが起こる。今思えば、少しひどい話ではある。

 寝るときになって、私は双子の兄に、

「ソファー使いますか?」と尋ねるが、

「いいよ。俺はどこでも寝られるから」と返される。というわけで、私がソファーで、お兄さんはカーペットの上で眠ることに決まった。明かりが消される。双子に囲まれるという奇妙な暗い空間の中で、私は一晩を過ごすこととなった。


 カーテンの隙間から光が差し込んでくるぐらいの時間に、私は目を覚ました。その時双子はまだ寝ていたが、しばらくしてから二人とも起き上がってきた。弟は何も問題ないようで、普通に歩き回っていた。皆、朝の身支度を始めた。

 朝食は誰もとらなかった。私な元々朝は少食であったし、双子も特に必要ないようであった。お兄さんが歯を磨き始めた。もちろん雑談しながらではあるのだが、これが非常に長かった。私は、これまでこんなに時間をかけて歯磨きする人を、見たことがなかった。   

 この日は丁度、お兄さんが元いた街に帰る日であった。彼は私よりも早いうちに荷物をまとめ、弟の家を出た。彼の弟と私は、玄関でお兄さんを見送った。さようなら。次会えるのは、いつだろうか。

 少し経ってから、私も帰ることにした。双子の弟である友人は私に、

「看病してくれてありがとう」と礼を言った。私も、

「こちらこそ、泊めてくれてありがとう」とお礼で返した。

 そして私も家を出た。


 帰りの列車の中で、私はこの世の奇妙さを噛みしめていた。こんな朝に自分の家の方に向かうなんて初めてのことだったので、今までにない感覚を味わった。服も昨日のままで、寝るときもこの格好であった。よってそこにも違和感があった。そもそも、不思議なことばかり起こっていたような気がする。

 そんな思いを抱きながら、私は車窓の外の白い世界を眺めていた。


 ここで話は終わりますが、もしかしたら続きが書けるかもしれません。その時は短編として発表します。

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