アヤカシロード
アヤカシロード・・・それは世界のどこにでも存在する妖世界へつながる道。
その道は、視える者と視えざる者がいる。
僕は視える人だった。
いつからか、人でないものを視るようになった。それ等はきっと妖怪や霊。いつの間にか居たり、居なかったりするものたち。
ある日、妖怪たちの後を付けてみると、妖怪たちは近所の公園の噴水の中に、いや、噴水の中に開いた穴の中に、入っていった。
それから僕は、妖怪たちの世界と僕たちの世界をつなぐその穴を、『アヤカシロード』と呼ぶようになった。
1回だけ、友達に話したことがあるが、その子は僕のことを嘘つきと言い、噂は瞬く間に広がり、僕は独りになった。
そんなある日、こんな田舎に転校生が来た。
「廻キララです。これからよろしくお願いします」
茶色の瞳、ピンク色の唇。顔は丸めで、茶色の髪をツインテールにしている、可愛い女の子だ。
「じゃあ席は音切の隣だな」
「うぉ!マジで!イェーイ美人の隣ぃ!」
「喜びすぎだってー」
ちなみに音切は女だ。何時もハイテンションで五月蠅い。
「よろしくね!」
「うん」
「あたしも!あたし葉菜山咲華、よろしくね!」
「うん、こちらこそ」
葉菜山は音切といつも一緒にいる。席も今、音切の前で、授業中も喋っているから授業が進まない。ただ、二人とも勉強は出来る。
授業が始まった。いつも通り、二人が授業をボイコットしようと、廻に話しかけている。
「ねぇねぇ、どこから来たの?なんでこんな田舎に引っ越してきたの?」
「スゴッ!肌白ッ!どうやったらこうなるの?」
廻に質問をどんどんぶつけていく。そんな二人を廻は、
「今授業中だよ?静かにしないと」
と言って黙らせた。普通はこんなことで諦める二人ではないのだが、余程迫力があったのだろう。この後の授業、一言も喋らなかった。先生たちは、どうしたのかと二人を心配したり、中には保健室に行くか?と聞く人もいた。正直、いい気味だ。
弁当の時間、早速廻の周りに輪ができた。音切と葉菜山も居る。
「さっきはすごかったね!」
「ねぇねぇ友達になろ!」
廻はどんどんぶつけられる質問に付いていけず、困ったような顔をしている。
そんな様子を横目に見ながら、僕は弁当をもって屋上に行った。
~~~~~~~~~~
昔から、人でないものを視た。それは、妖や幽霊など。この村に入ってから、今までの倍以上のそれを視る。理由はきっと、妖道の数が多いからだろう。私も、これ程多い場所は見たことがない。
「廻キララです。これからよろしくお願いします」
廻と言う名は師匠にもらった。私を守ってくれた師匠の形見。
クラスの全員が私を見てる。慣れないな~注目されるの。
皆が笑顔なのに、一人だけ、無表情の子がいた。紺色の髪に青い瞳の男の子。じっと私を見てる。
その子は最前列の窓側なので、席は離れてるけど、一人、異様な雰囲気を放っている。
昼休み、その子は教室を出て行ってしまったので、周りに居る女子たちに聞いてみた。
「ねぇ、今教室を出て行った男の子、誰?」
すると女子たちは微妙な顔になり、皆喋りにくそうな雰囲気になった。数分後、音切さんの話によると、
「あいつは稲芭シオン。嘘つきだよ」
とのことだった。え?それだけ?と思ったが、皆それ以上喋ろうとしなかったので、お開きとなった。
放課後、近寄って来る女子たちをまきながら、稲芭君を追いかける。校門を出て、右に曲がったと思うと、稲芭君が急に走り出した。私も走り出す。
裏門的なところから、中に入って行くところが見えたから、私も柵を飛び越え追いかける。
そのままずっと稲芭君を追いかけていくと、いつの間にか、屋上に来ていた。
「よく着いてこれたな」
「稲芭君」
彼は微笑んだ。メッチャかっこいい。
「ねぇ、稲芭君、嘘つきってどういうこと?」
「それは・・・・・・廻さんには関係無い」
「誰にも言えないことなの?」
「言っても、どうせ信じない」
「そんなことない、私は信じるよ!」
「あっそ。・・・・・・僕は妖怪が視えるんだよ」
「え!?」
「ほら、な」
どうせ信じる奴なんていないんだよ。でも、返って来た言葉は、予想外の言葉だった。
「貴方も視えるの?」
「・・・・・・今なんて?」
「稲芭君も視えるの?人じゃないものが」
「な・・・!?」
「私も視えるの。妖怪や霊が」
「そんな、じゃあ、アヤカシロードは?」
「アヤカシロード?・・・妖道のこと?」
「妖道って言うのか」
「妖道はこちらの世界・・・人間界と妖界を結ぶ道。妖気と霊気で出来ている。その用途は確か・・・」
「待ってくれ、こんなところで話すのもなんだし、場所を移さないか?」
「それもそうね、それで、どこにするの?」
「この近くにいい店があるんだ。マスターが妖怪なんだけど、そこでいいか?」
「いいよ!妖怪が店を経営しているなんて、面白そう」
彼女は嬉しそうに笑った。物凄く可愛いと思った。
~~~~~~~~~~
「いらっしゃ~い。お、シオンか!よく来たな!その嬢ちゃんは何だい?彼女かぁ?」
「違うよ。コーヒー2つね」
「はいよ~嬢ちゃんはコーヒー飲めるかい?」
「はい、飲めます」
「そうかい、そりゃよかった。ここはコーヒーしかないんでね。どうぞ」
出てきたコーヒーはとてもいい香りがする。一口飲んで、目を丸くする。
「・・・美味しい」
こんなに美味しいコーヒー飲んだことない。
「美味いだろ?ここはコーヒーが売りだからな」
「それ以外ないからな。メニューが」
「まぁ~な」
「そうだマスター、あの部屋見せてあげてよ」
「おぉ~いいぞ~普段は立ち入り禁止なんだが、シオンの頼みならな」
カウンターの奥の扉を開ける。そこは倉庫らしく、色々なコーヒー豆が置いてあった。それと、
「これ、もしかして妖道?」
マスターが驚いたような顔で私を見た。
「嬢ちゃん、これが視えるのかい!?」
「そうなんだ。廻は視えるんだよ!」
「そうか、それでシオンがこの部屋を・・・」
なるほど、稲芭君がここに呼んだ目的が分かった。これを見せるためだったのか。
「でもおかしい。妖道・・・稲芭君で言うアヤカシロードは、同じ場所に在り続けることはないはず。どうやってここに止めているんですか?」
私はマスターに聞く。今言うのは何だが、マスターは浅黒い肌に、くせっ毛の伸ばした黒髪を後ろで一つにまとめた、渋い三十代のイケメンだ。なんの妖怪か、全然わかんない。
稲芭君が驚いたような顔で聞いてくる。
「え!これって固定じゃなかったの!?」
「知らなかったの!?」
「うん全然知らなかった・・・」
「まぁシオンは知ってる方だぞ。嬢ちゃんが詳しすぎるんだろうなぁ」
「・・・常識だと思ってた・・・」
「まぁそれは置いといて、これを固定する方法はな、妖力を抑える装置で向こうとこっちを繋ぐだけだ。この方法は、何時でも向こうに行けるが、妖道が見つかるとこっちの出入りも出来るようになっちまう。妖の目的はそれぞれだから、まぁ必要な奴はこの方法使うんじゃないか?」
「そうなんですか・・・」
「そうだったのか・・・」
私たちはうなずく。
「・・・・・・行ってみるか?向こうの世界・・・『妖世界』へ。この時期は確か、紅葉が綺麗だったはずなんだが」
妖世界か・・・そういえば、行ったことないんだよな。紅葉も観たいし、私はいいけど、
「・・・一回行ってみたいと思ってたんだ、向こうの世界。僕は行くよ。廻は?」
「私も行く!」
稲芭君も行きたかったみたい。
「うし、じゃあ準備いいかぁ?ちゃんとつかまってろよっ!」
マスターがアヤカシロードに踏み込む。すると、体が引っ張られるような感覚がして、
「着いたぞ」
と言われた時には、目の前が真っ紅に染まっていた。ところどころ黄色もある。舞い散る紅葉がなんとも美しい。ところどころにある銀杏の葉は、光を反射して、キラキラと光っていた。横を見ると、
「マ、マスター!尻尾が、生えてる!!」
「うぉ、ホントだ!」
「まぁな。おれぁ九尾の妖怪だからよォ」
((そ、そうだったのか・・・))
と、二人は思った。
「おれぁちょっくら散歩してくるわ。迷子にならねぇようにな!」
と言い残して、マスターはどっか行ってしまった。
稲芭君の方を見ると、紅葉を見て微笑んでいた。彼の紺の髪の色が真っ紅な紅葉の中で、異様な存在感を出していた。その光景に見惚れていると、不意に声をかけられた。
「廻ってさ」
「あ、キララでいいよ」
「じゃあキララってさ、なんで転校してきたの?」
「・・・・・・私さぁ半分人じゃないんだ」
「え?」
「父が悪魔と人間のハーフ、母が天使と人間のハーフでさ、元々英仏米地区に住んでたんだけど、生活の関係で家を追い出されちゃって。そこである人と出会ったんだ。その人は私に生き方を教えてくれた。私はその人を探してるんだ。稲芭君は?」
「僕は生まれた時から親がいなくて、親戚の家で育った。最初は大変だったけど、最近は一人で暮らしてるんだ。あと・・・シオンでいいよ」
顔を赤くしているシオンはめっちゃ可愛い。
「私シオンみたいなの好きだな」
「えぇ!」
「友達としてね」
「え、あ、そうか、そうだよな・・・」
ちょっと落ち込んだ感じがまた可愛い。
「また見たいなぁこの景色」
「何時でも見れるって」
「じゃあ、今度は二人だけで来ようね」
「え、それって・・・」
シオンが私を見る。私はクスッと笑って、言った。
「さぁ、マスターを捜しに行こう!」
お読みいただき、ありがとうございます。
キララたちは、また別の話で登場させる予定です。気に入っているので。