彼女は意識しだす?
彼女は恋愛をすることができない。⑥
彼女は意識しだす
暑い
今日は特別暑い…
教習所を無事に修了し、マニュアル免許を手に入れた。
実家にはマニュアルの車はさすがに無い、尚且つ都内に住んでる以上今は必要は無いが…
でも、免許センターで渡された、社会の仲間入りともいえる運転免許証を
受け取ることが出来たことはなんだかうれしく誇らしかった。
先日の”覗き穴気にしすぎ”からの”苦い思い出の人との再会電話”…
色々ともやもやしながらも学業をしながら(半分ぼやっとしてたけど)、
教習所を頑張った、とりあえず一安心だった。
自分の部屋から見える都内のコンクリートジャングル…大きなビル群は蜃気楼が揺らめいている。
まるで先日の自分のようだ…
「暑い…」
自らの地元である北関東も暑いことは暑いが、ここまで日本は暑いのか、と思ったのは
高校生の時の修学旅行で沖縄に行った以来だ。
しかし今日は朝から受けたい講義がある。
現在7時前。
そろそろ支度しないといけない。
重い身体に鞭を打って何とか学校に行く支度を始める。
と、いっても晴加は特にメイクなどはしないのでただ髪を少し整えて、服に着替えるだけ。
よく姉からは「花の18歳がメイクもしないで!」と怒られたものだが
工業高校で男ばかりの環境にいたのもあったのでメイクも洋服も特別関心がなかった。
ただ市販でよくあるようなTシャツに、ふくらはぎ丈くらいの夏ズボンを履く。
ショートの髪なのもありまるっきり傍から見ればその辺にいる男の子と変わらない。
大学に行くと女の子はみんなキラキラしてる。
これが大学デビューか…と思うほどの煌びやかさ、すごく眩しかったし…
何より、自分の姿と思わず比較してしまったことで
コンプレックスのようなものが生まれてしまった…気がする。
クローゼットの服が、物語る。
洗面台にはない、メイク品。
本棚は工業雑誌であふれている。
そして自分は今日も街でよく見かけるようなファストファッションのTシャツとズボン。
見慣れたショートカットの髪。
高校まではよかったな、制服が女だと言ってくれるようで。
制服がなければただの男にしか見えない自分。
そして坂島の行動。
昔なじみの友人。
今まで異性の友人は多くいたが、なぜだろうか。
自分が何なのか、性自認は女である。…そう思っているが。
高校時代は男の子と年相応なりに馬鹿みたいに遊んでいたが。
特に自分は男という自覚は無い。
しかし大学に入ってからというもの、違和感に悩まされてしょうがない。
自分の容姿も気にしたほうがいいのか…?
意識してみると周囲からの視線が痛いような…そうでもないような…
変に思わないほうがいいのだろうけど、
思い始めたら気になりだしてしまった。
「…ズボン…はかないほうがいいのか?」
とにかく、いわゆる“大学デビュー”というものは通らなかったので
さらに工学部。女子は圧倒的に少ない。
当然、ファッションなど興味も関心もなかったので参考になるような友人も…居ない。
今まで姉に言われたことが少し胸にザクリと刺さってきた。
上京前にメイクくらい教わっておけばよかった…と後悔しながら
大きくため息をするころには大学へ着いてしまった。
暑い。
日差しが余計悶々とした脳に響くような感覚がある。
今日は、会わない、会わないよな、まさかなぁ…
違う、そもそも同じ学部なんだから履修授業同じだったら会う可能性あるじゃん…!
どうしよ…とりあえずバレないような席に座っておくか…
バレないことを祈る、ひたすら…
とりあえず講義室のすみっこのほうに着席をし、授業に必要なノートや筆記用具を準備する。
窓際、一番後ろの席。
さすがにわからないだろう、こんだけ広い(広い基準が分からないけど)んだから…
しかし日差しが暑い…
講義の時間になると教授がダル重そうに入ってくる。
「じゃー始めるぞー」
鶴の一声、ではないが、真夏の講義が始まる。
教科書を立て、そっと周りを見渡すが、ぱっと見、坂島はいないようだ。
「ふー…」
なんか暑さの汗とは別に違う汗も出てきた…無駄に気張りすぎなんだな…
とかなんとか思っていると、少し前の席にいかにもイマドキ女子という感じの子がいた。
ヘアアレンジが凝っている。
後姿しかわからないが、服も渋谷に居そうな…(田舎者の偏見)読者モデルのような、そんな子がいた。
それに比べて…と朝から悶々としてることがふと出てくる。
やっぱり、スカートくらい、着たほうがいいのかな。
ショートの髪はアレンジしようがないと思っている。
だが服は…
え、でも自分が?今まで無頓着だったのに…
何を気にしてるんだ、今まで特に思わなかったのに…?
うーん、誰かに相談したい…!このなんかモヤっとした感じ…自分だけでは解決できん…
もやもやもやもや、講義を受け、出席カードを提出して、講義室を出た。
次の講義は午後一。
まるで数メートル先の蜃気楼が自分の心を物語るように見えてしかたがなかった。
つづく