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彼女の昔の話。

彼女は恋愛をすることができない。⑤





彼女の昔の話。







ドッと疲れた。

こんなにも疲れることなんて人間あるのだろうか、と思うくらいの疲労。

晴加は、ここ2シーズン分の出来事に対してもやもやしながら大学でのやるべきことや

教習にも熱心に取り組んだつもりであった。


しかし、あまりにも坂島との出来事が大きすぎた。


なんなんだ、彼は。


そればかりが頭を駆け巡る。


晴加自身、中性的な容姿があってか、女子にも男子にも友人がいた。

中学生、高校生の頃なんかは仲裁に入ることもしばしばあった。

だが、自分から恋愛に首を突っ込むことはなかった。


いや、関心がなかった、関心を持つことができなかったのかもしれない。


心のどこかで、持ってはいけないのではないか?と無意識にも思ってしまっていた。


それは、何故かはわからない。


ただただ、恋愛に関しては、年頃の頃、女子の友人と恋バナになっても

苦く、ひきつった顔しかできなかった。

何がそうさせてしまったのかはなんとなくは検討は付いている…と思うが

その”検討”について、認めたくないのだ。


だから彼女にとっては苦い、苦い思い出となっているのかもしれない。




「坂島と再会してからだ…」




こんなにも女性に対しても、男性に対しても、急に疲れるようになったのは…


と、細々と考え込みながら晴加は自宅への帰路を歩いていた。

ただ、ピリピリと張りつめた空気感を装って。


坂島の彼女に、完全に、苦手意識を持ってしまった。


自宅のアパート…特に階段や駐車場などで出くわさないか、にらまれないか…



「…今日は来てな…いよね…」


はぁぁ~~~、胸をなでおろす。


「怖いな」


こんなにも苦手意識を持つことなんてなかった…と思う。

元々女らしくないし、少しは気にしていた部分ではあるが、正直あの彼女は苦手だ。



自分と正反対な気がして。



せっかく4年間の大学生活でできた友人、坂島は卒業まで仲良くしたい。

同じ学部、同じ学科。



どうしたものか…



自宅の部屋で呆けていると外からバタバタと音が響く。

2人分だ。


もしかして…と玄関ドアの覗き穴を覗くと、その問題の2人が一緒に歩き、晴加の部屋の前を通り過ぎる。


彼女は嬉しそうに笑い、坂島は…



『?…なにあの表情?』



少し、苦笑いのような、仕方ない、みたいな感じの表情を浮かべていた。

恋人同士、ベタベタとしながら嬉しそうに幸せそうに通り過ぎる様子を目にするのは普通だ。

街中でもよく見かける光景だ。


ただ、坂島の今の表情は、よくあるような、”嬉しそう”に見えなかった。


思わずしかめっ面で2人が部屋へ入るまで覗き穴に向かっていた。

ドアが閉まる音をよく、聞き取ってから、覗き穴から離れてフラフラしながら部屋の床に座り込んだ。


「恋人同士じゃないのか?いやでも彼女だって言ってた…あれか?倦怠期ってやつか?」


誰一人付き合った経験のない晴加にとって謎の光景だった。

あんないつも誰彼構わず笑うような彼が、あんな表情をするとは…


「うーん…」



ふと、”苦い思い出”が頭を過った。


「…吉幸(よしゆき)…」


しばらく忘れていた、しかも連絡も取っていない、名前がふと出てきた。

それは、小学校中学校時代、なんとなく仲が良かったような、良くないような、そんな異性の友人。

連絡先は…知ってる。

高校が離れたのもあって連絡は一切取っていなかった。

ただ今頭を過ったことで、昔の思い出が一気に思い出した。


坂島と彼女、先ほどの2人を見て、心に何か引っかかりがあった。

1人、心細かったのかもしれない晴加は…



携帯を手に取り、電話を掛けた。



電話に出るか、わからない、ただ、声を聴くだけ。

でも怖かった。

なにせ3年会ってもない。

苦い思い出もある。


耳に鳴り響く、接続音が、晴加の心臓と冷や汗が連動する。




《…もしもし、霧崎です》




『出た…』


思わず視線が一点に集まる。どこを見てるかわからないが、電話の先の思い出の彼が目の前にいる気がした。

言葉が出ない。



≪もしもし?…橘か?≫



橘、と呼ばれてハッと我に返る。


「あ…吉幸…?だよね?」

≪?ああ、どうした。久しぶりだな。≫


何も出てこない。一切出てこない。

ただ心臓の音がうるさく、冷や汗が流れる。



「…あのさ…、今、どうしてるの?」


精一杯の言葉が他愛ない世間話の第一声。

苦い思い出が頭を駆け巡り、どうしようもなかった。

それだけ、嫌な思い出だったのか、晴加にもわからない。


≪どうした、て今は働いてる。地元ではないけど、整備士になった。≫

「…整備士…?」

≪なんだよ…意外?高校卒業してから就職したんだ≫

「…そ、そう…、すごいね」

≪橘は?どうしたんだ?≫

「…、えと、都内の工学部のある大学に…」


それから話は続いた。

3年分の空白の話だ。

晴加も、霧崎も、すこしづつ、他人行儀だった会話が柔らかくなっていった。



晴加の”苦い思い出”を拭うように、先ほどの光景が消えてゆくように

話は夜更けまで続いた。



通話が終わった後は、少しほっとした表情になった。

「…電話して、良かったのかもしれない…」





つづく

幼い頃からの異性の友人って、結構貴重だったりするな、と思いださせてもらったキャラ。

彼が今後のキーパーソンになるかもしれません。

晴加、がんばれ…

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