幼女「すばる!」
某所のお題で三大噺を。大変短いので読んでくれたらこれ幸いです。
――ある図書館での出来事だった――
ある図書館での出来事だった。
俺はひとつ調べ物をするためそこに行ったのだが、まさかそこで“幼女”を見かけることになるとは思わなかった。
それまでは静かな空間だったものが、突如として喧騒に包まれることになったのだ。
およそ図書館のルールというものを知らないのだろうか。
やかましく音を発するたった一人の幼女が図書館を異質な場所に変えた。
周囲の人も子供なので仕方ない、といった面持ちで、いつ苦言が出てもおかしくはなかった。
幸いにも、しばらくすると目当ての本でも見つけたのだろう、幼女と室内は静寂を取り戻した。
幼女は俺の見える位置にいた。年端もいかない彼女はおそらく児童書なのか、大きめなサイズの本をテーブルの上に構えて座っている。
俺は自分の目当ての本を探し始めた。端末で検索したので目星は付く。多分、この辺だ。
と、そこで静寂が破られている事に気づく。
それはやはりというか……あの幼女によってだ。最初は小さな声でぶつぶつと。いまいち聞き取れないがやがて段々とはっきりとしてきた。
朗読でもしているのかとチラ見すると、幼女は自分の前に展開された本を直に指差して何やら言っている。
俺はむしょうに気になってきたので聴き耳を立てた。すると、
「すばる!すばる!」
……何だろう?すばる?
昴、っていうとあれか?夜空の星々の。
昴が出るような子供向けの本あったんだ。夢のある幻想物かな?
なんだか和んだ。女の子は星が好きだってのは本当なんだな。
かくいう俺も星は好きだ。
さすがに星座占いまでは信じてはいないが、自分のふたご座に属している事もあり、二面性のある複雑な性格、という設定にはかなり入れ込んでいた事がある。
恒星の瞬きはロマンチックだよな、と俺が眺めていると、幼女は別の本を手に取ってきた。
今度はタイトルまでハッキリと見えた。「シンデレラ」だ。
……と、俺は首をかしげた。
幼女が今度は灰かぶりの姫のドレス姿を指差しながら、
「すばる!すばる!」
と言っているのだ。
ん?どういう事だろう。
そんなふうに俺が首を傾げていると、幼女は楽しそうに次の本を手にとって卓につく。
「桃太郎」だった。
そして、今度は桃太郎の何やら赤い物体、つまるところ鬼の絵を指で差しはじめた。
「すばらない!すばらない!」
俺はなんだかよくわからなくなった。どういう日本語だよ、と。
あまりに幼いため言葉の輪郭がぼやけているのだろう。その変な日本語の妙がやけに気になる。
親はいったいどういう教え方してるんだろうなと、凄くお節介なことも浮かんできたその時、
「岬ちゃん、帰りますよー」
と、オバさんが幼女の肩を叩いた。
失礼だけど少し装飾過多でケバくみえる。この娘の親なのかな。
「いや!いや!」
幼女は激しく抵抗していた。
何を言われようが喚き散らした。
オバさんがそれを引っ張る。ちょうど猫の首の上でも持つかのように。
そのまま抱きかかえ、幼女は果たして外へと連れて行かれるのだった。
首を横に振る幼女。ついに泣き出しはじめた。
「すばらない!すばらない!」
引きずり出される幼女。周りは心配そうに様子をうかがっている。
やがて、そのまま行ってしまった。
……そしてようやく俺は意味を理解した。
あぁ、この娘、さっきまで「素晴らしい」って……。
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ここまで読んだアナタは立派だ!
感謝を込めてお礼に雀の涙ほどの念力を送っておいたぞ!
ありがとう……また書きます!