心霊探偵
雨は夕方から降り続いていた
古びた探偵事務所の窓を、雨粒が一定のリズムで叩いている
カラン
扉に付けたベルが静かに鳴った。
「…どうぞ。」
デスクに座っていた青年は、本から目を離さずに声だけを返した
扉を開けたのは二十代半ばくらいの女性だった。
服は雨で濡れ、肩を小さく震わせていた。
「すみません…突然。」
青年は本を閉じると、ゆっくり顔を上げた。
「困り事ですか?」
女性は少し迷った後、小さく頷いた
「…家で、足音がするんです」
青年は驚いた様子を見せない。
「泥棒では?」
「警察の方に来てもらったのですが何もなくて…」
「いつからです?」
「一週間前です。」
女性は膝の上で両手を強く握った。
「夜中の二時になると、必ず二階を歩く音がするんです。」
部屋に沈黙が落ちる。
時計の針だけが、静かに時を刻んでいた。
青年は立ち上がると、コートを羽織る。
「依頼を受けます。」
女性は少し安心したように息をついた
「ありがとうございます。」
青年は机の引き出しから古びた手帳を取り出した。
その表紙には、小さく文字が刻まれている
『霊障調査記録』
普通の探偵なら、証拠を集める。
しかし彼は違う。
人では無い”何か”を相手にする探偵だった
窓の外では、雷が低く鳴る。
その音に紛れて
「コツ…コツ…コツ…」
事務所の二階から、誰もいるはずない足音が聞こえた
青年は天井を見上げ、小さく呟く、
「…依頼人より先に、こっちが来たか…」
部屋の空気が一瞬だけ冷たくなった。
そして、扉の前でピタリと音が止まった…




