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覚えのない罪で国外追放されたブラコン令嬢は、盲目の兄と新生活を謳歌する  作者: 朝倉 ねり


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6 サダルカマド立憲王国

「あはは!ようやくあの国ともおさらばってやつですわ!」

「こらシャロン、夜だからもう少し小さな声にしようね。……本当に良かったのかい?」

「逆にお兄様は一生あの国で虐げられたままでいたかったのですか?」

「……いや、君が傷つく場所だから、もう戻りたくないかな。」

「お兄様大好き!結婚してください!」

「ふふ」


 シャロンとオルフェウスはロノヴァン王国の国境を抜け、隣国サダルカマド立憲王国とロノヴァン王国との間の非武装地帯をゆっくりと歩いていた。

「非武装地帯」とは言っても二国間が停戦状態にある、という訳ではなく、国境と国境の間に少し土地が空いてしまって、そこを戦争で取り合わないようにととりあえず名前がつけられているだけの場所だ。

(つまりどこの国のものでもない、ということですわね。)

 と、シャロンは第二王子妃としての教育で学んだことを思い出す。

 無闇に土地を自分の国のものにしようと取りに行くと、隣国だけでなく他の国々からも顰蹙(ひんしゅく)を買って多国籍軍に攻められる、というわけだ。


「そういえば、初めてですわね。こんな夜に、護衛も付けずに歩くなんて。」

「私は夜に出歩くのが初めてだよ。……風が気持ち良いね。私たちは追放されたが、むしろ清々しさすら覚えてくる。」

「うふふ、お互い貴重な初めて、ですわね。」

 オルフェウスが傍らで腕を掴んで導いているシャロンの方へ顔を向け、うっそりと笑いかける。

 その笑顔は今までの儚げな様子とは違い、どこかほの暗いものを抱えていた。

「そうだね。シャロンと同じものを感じられるのは、とても嬉しいことだ。」

 その笑顔を見たシャロンは、途端に顔を真っ赤にして目線を右往左往させる。

「……お兄様の破壊力がすごいわ……!」

「ふふ、シャロンは可愛らしいね。」


 なんだか、珍しく兄が積極的である。

 だがそれはすなわち、シャロンの精神的な死を意味する。

(お兄様、イケメン過ぎる…!やっぱりわたくし以外に見せちゃダメだわ、わたくしがお兄様の全てを独占しないと!!)

 シャロンはオルフェウスの腕を支える手に力を込めるのだった。



 サダルカマド立憲王国の国境検問所は、グランバートン辺境伯領への入口も兼ねている。

「一騎当千」と名高い辺境伯家の兵士たちが検問所も司っており、シャロンやオルフェウスは怪しまれて1悶着起こるかも、と身構えていたのだが。

「あっさり、通されてしまいましたねお兄様……。」

「そうだね、もう少し何かあるかと思ったんだが。」


 2人が検問所を通る時、係らしき兵士に「どこから来たんだい?」と聞かれるだけで、他は特に何も言われることなくスルッとサダルカマドに入ることが出来てしまった。

「だ、大丈夫なのかしら……。」

 最近兵士に不安を覚えることが多い。

「大丈夫だから通してくれたんだろう。グランバートン辺境伯家の兵士たちは練度が高いと聞いたことがあるから、本当に危険な人物を見極める能力に長けているのでは無いかな。それに、本当の危険人物は目立つ格好をしないだろうし。」

「確かに、わたくし達明らかに貴族の格好をしていますものね……。」

 こんな格好で日中であるけば、目立つことこの上ない。

(今が夜で本当に良かったわ……!)


「ではお兄様、今から石畳になりますわ。基本的に舗装された段差の少ない道ですけれど、石畳ですからでこぼこしています。つまずかないようお気をつけくださいませ。」

「うん、ありがとうシャロン。……そうだ。この街では、最低限の支度を整えよう。私達のことを誰も知らないどこか遠いところに行きたいね。まぁ、そのためにはまずテーラーか宿屋を探さないと。」

「わかりましたわ。……できればテーラーが先に見つかると良いのですけれど……」

 シャロンは自分の服を見下ろす。

 第二王子主催のパーティ用のドレスのため、豪華だし明らかに仕立てが違う。

「早く着替えたいですわ。」

(ハイヒールで歩くのも疲れてきましたし……。)

「そうだね、と言ってもすまない。ここはシャロン、君に全負担がかかってしまう。私が見えたら良かったのだけれど。」

「大丈夫ですわ、早速出発しましょう?まずは2時の方向にある大通りに向かいますわ。」


 そうして歩き始めて30分。

 2人はようやく『ハワード洋裁店』と書いてあるブティックを発見した。

「お兄様、ありましたわ!それに奥、灯りがついています!」

「ありがとう、シャロン。こんな時間に申し訳ないが、早速入ってみようか。」


 ドアに付けられたノッカーを3度叩く。


 コンコンコン。


 しばらくしてドアがガチャリと開き、中から老紳士が出てきた。

 彼は貴族の格好をした若い男女二人を見て、驚いたように目を見張る。

「こんな夜更けに、お客様ですかな?」

「ええ、そうよ。申し訳ないけれど、この服を換金して、平民の服を購入したいの。」

「……ふむ。何やらご事情があるようですな。どうぞお入り。」

「ありがとう。ミスター・ハワードで良いかしら?……お兄様、階段が3段ございますからお気をつけて。」

「ああ、ワシがハワード、この店の店長じゃ。」


 ハワードは心得たように深くは聞いてこなかった。

 もしかしたら、国境検問所の兵士もハワードも、こういういかにもワケあり、といったふうの人間に慣れているのかもしれない。

閲覧いただきありがとうございます。

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