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「最近の若者は、授業中すぐ寝るんだが、普段何をしておるのだ」
プンスコ、と魔王が椅子にふんぞりかえる。
足の置き場のない教授の研究室で、奇跡的に見つかった椅子は、あっという間に魔王専用席になった。
「オレは寝てないけどな」
リオが、俺の淹れたコーヒーを我が物顔で啜る。
ちょっと飲んだだけで、熱い、とすぐ口を離した。
魔王はふん、と鼻を鳴らした。
「リオの提出物は字が汚すぎて読めん。長文の呪文でも写経してこい」
「読めるだろ」
「まぁまぁ〜。リオは剣術しか学んでこなかったから、座学はこれからでしょ〜?」
珍しく、教授が二人の仲を取り持っている。
俺はそれを横目に、大量のレポートを整理していた。
人差し指を空中にふい、と振ると、レポート用紙が浮く。空中というデッドスペースを活用して、書類の一時置き場になっているのだ。
その後の話だが。
リオはさらなる高みを目指して、魔法学園に入学してきた。
諸々の手続きや申請をきちんと通して、国に学費を援助してもらったらしい。
手続きや申請をするのは、やっぱりどの世界でも複雑で面倒臭いものだ。
高校生くらいの少年が一人で全部やったのかと思うと、自然と拍手したくなる。
魔王も、本当に魔法学園で教師として勤めている。
国王と対面して、教授がなんとか説得した。
そもそも、魔王を連れてきた時点で、莫大な褒美が得られるはずだったが──教授は褒美の代わりに、魔王を魔法学園で働かせることを提案した。
国王も最初は渋い顔をしていたものの、国最高クラスの魔法使いである教授が見張ることで、国も許可を出してくれたのだ。
「授業って、思った以上に簡単じゃの。ワシの生い立ちを話すだけでとりあえず形になるんだから」
洞窟でひとりぼっちだった頃よりいい、と魔王は楽しそうだ。
俺にもちょっとしたお裾分けもあった。
なんと、魔王が魔力を分けてくれたのだ。
その結果、簡単な魔法なら使えるようになった。
……まぁ、軽い物を多少浮かせるくらいしかできないが。
異世界転生の醍醐味といえば、魔法だと思っていたので、正直、これが一番嬉しい。
「そういえば、教授。俺のバカンスはいつにします? さすがに日程調整しないといけないでしょう」
「あ〜忘れてた〜」
忘れるな。
俺の大事なバカンスを。
「バカンス?」
リオが聞き返してくる。
「休暇です。南の島で、羽を伸ばすんですよ。青い海と青い空、穏やかな気候、心地いい風……想像するだけでも楽しみです」
俺が南の島で過ごす自分を想像しながら返答すると、
「すごく魅力的な響きだな。よし、ワシも連れて行け」
「は?」
魔王が手を挙げた。
「いやいやいや……何のための休暇だと思ってるんですか」
「魔王が行くならオレも行きたい。できたら、メルも一緒に」
家族旅行じゃねえんだぞ。
「え〜!? じゃあ、上司の僕が行かないとおかしいじゃん! みんなで行こうよ、南の島〜!」
教授まで参加してくる始末。
それはもう、社員旅行なんですが……。
三人がワイワイと話し合い始めて、俺はもう、
「なるほど……」
しか言えなかった。
結局、社員旅行の計画だけがあれよあれよと決まっていき、俺のバカンスは先送りになった。
それでも、まぁいっか、と思う自分がいるのにも驚きだ。
こうして、教授の研究室は魔王とリオが入り浸るようになって、ずいぶん賑やかな場所へと見事な変貌を遂げたのだった。
仮に、不満を一つ言うとしたら、男しかいないところだろうか……。
こういうのって、美少女三、男の俺一、の割合じゃないのかよ……。
……あれ?
しかし、ある未解決の事象が残されていた。
でも、俺が見た目で美少年って判断しただけで、魔王の本当の性別って……?
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