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8/8

「最近の若者は、授業中すぐ寝るんだが、普段何をしておるのだ」

 プンスコ、と魔王が椅子にふんぞりかえる。

 足の置き場のない教授の研究室で、奇跡的に見つかった椅子は、あっという間に魔王専用席になった。

「オレは寝てないけどな」

 リオが、俺の淹れたコーヒーを我が物顔で啜る。

 ちょっと飲んだだけで、熱い、とすぐ口を離した。


 魔王はふん、と鼻を鳴らした。

「リオの提出物は字が汚すぎて読めん。長文の呪文でも写経してこい」

「読めるだろ」

「まぁまぁ〜。リオは剣術しか学んでこなかったから、座学はこれからでしょ〜?」

 珍しく、教授が二人の仲を取り持っている。

 俺はそれを横目に、大量のレポートを整理していた。

 人差し指を空中にふい、と振ると、レポート用紙が浮く。空中というデッドスペースを活用して、書類の一時置き場になっているのだ。


 その後の話だが。


 リオはさらなる高みを目指して、魔法学園に入学してきた。

 諸々の手続きや申請をきちんと通して、国に学費を援助してもらったらしい。

 手続きや申請をするのは、やっぱりどの世界でも複雑で面倒臭いものだ。

 高校生くらいの少年が一人で全部やったのかと思うと、自然と拍手したくなる。


 魔王も、本当に魔法学園で教師として勤めている。

 国王と対面して、教授がなんとか説得した。

 そもそも、魔王を連れてきた時点で、莫大な褒美が得られるはずだったが──教授は褒美の代わりに、魔王を魔法学園で働かせることを提案した。

 国王も最初は渋い顔をしていたものの、国最高クラスの魔法使いである教授が見張ることで、国も許可を出してくれたのだ。


「授業って、思った以上に簡単じゃの。ワシの生い立ちを話すだけでとりあえず形になるんだから」

 洞窟でひとりぼっちだった頃よりいい、と魔王は楽しそうだ。


 俺にもちょっとしたお裾分けもあった。

 なんと、魔王が魔力を分けてくれたのだ。

 その結果、簡単な魔法なら使えるようになった。


 ……まぁ、軽い物を多少浮かせるくらいしかできないが。

 異世界転生の醍醐味といえば、魔法だと思っていたので、正直、これが一番嬉しい。


「そういえば、教授。俺のバカンスはいつにします? さすがに日程調整しないといけないでしょう」

「あ〜忘れてた〜」

 忘れるな。

 俺の大事なバカンスを。


「バカンス?」

 リオが聞き返してくる。

「休暇です。南の島で、羽を伸ばすんですよ。青い海と青い空、穏やかな気候、心地いい風……想像するだけでも楽しみです」


 俺が南の島で過ごす自分を想像しながら返答すると、

「すごく魅力的な響きだな。よし、ワシも連れて行け」

「は?」

 魔王が手を挙げた。


「いやいやいや……何のための休暇だと思ってるんですか」

「魔王が行くならオレも行きたい。できたら、メルも一緒に」

 家族旅行じゃねえんだぞ。


「え〜!? じゃあ、上司の僕が行かないとおかしいじゃん! みんなで行こうよ、南の島〜!」

 教授まで参加してくる始末。

 それはもう、社員旅行なんですが……。


 三人がワイワイと話し合い始めて、俺はもう、

「なるほど……」

 しか言えなかった。


 結局、社員旅行の計画だけがあれよあれよと決まっていき、俺のバカンスは先送りになった。

 それでも、まぁいっか、と思う自分がいるのにも驚きだ。


 こうして、教授の研究室は魔王とリオが入り浸るようになって、ずいぶん賑やかな場所へと見事な変貌を遂げたのだった。


 仮に、不満を一つ言うとしたら、男しかいないところだろうか……。

 こういうのって、美少女三、男の俺一、の割合じゃないのかよ……。


 ……あれ?


 しかし、ある未解決の事象が残されていた。


 でも、俺が見た目で美少年って判断しただけで、魔王の本当の性別って……?


読んで頂き、ありがとうございました♡

リアクション、星、感想などお待ちしております〜!

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― 新着の感想 ―
一気に読ませていただきました。 貴重なお姉さんが…… テンポの良い文章と程よいギャグ要素 そして時々読者を突き刺してくる現実。 とても読みやすい面白い作品でした! 他作品もぜひ読ませていただき…
コメディ部分がクスッと笑える、ほっこりしたやり取りで、最後まで楽しく読めました! えっちなお姉さんが一瞬でいなくなってしまって、「実はふらっと戻って来る」と密かに期待していたのに、戻ってこなかった(´…
一気読みしてしまいました! いや~ナル君の立場が真面目に自分に当てはまるからリアルさがあって中々。 教授の孤独も分かるし、そして、同時に魔王の寂しさも分かる。 ギャグ要素のような部分もありながら読者に…
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