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翌日、俺たちはしっかり腹ごしらえをして、魔王がいるという洞窟に入った。
外は真っ昼間なのに、一歩洞窟に足を踏み入れると、真夜中のような暗さで、それが不気味さを加速させていた。
教授が簡易的な明かりをつける魔法を、洞窟の壁に点々と施していくおかげで、割と快適に歩けている。
ここまで付き添えば、あとは二人で行ってほしいところだった。
しかし、デリカシーもオブラートも辞書に載ってなさそうな二人だ。
仲間割れして、やられました、じゃあ後味が悪すぎる。
世話が焼けるなぁ。
俺はムードメーカーとして、一役買ってやることにした。
「確か、火を使う魔物がいるって言ってましたよね……」
魔王は火属性専門というわけではないはずだから、きっと魔王の部下が洞窟の手前にいるんだろう。
「うん〜。ま〜でも……」
教授はパンパンになった俺のポケットを見る。
「僕のヒーリング系魔法で直すから、ポーションをそんなに買わなくていいと思ったけどね〜」
「自分で回復できたほうが、効率いいんですよ」
「確かに。賢いな、ナル」
リオが頷きながら褒めてくれる。
社会人になってから、めっきり褒められる機会が減ったので、ちょっとだけ照れくさいな……。
「アンタたち、また来たワケ?」
洞窟の奥の方から声がした。
女の声だ。
しかもただの女じゃない。
ギャルみたいな喋り方だ。
「あれ? でもさっきの人間とは違うってワケ?」
「上だ!」
リオの叫びに、俺たちは一斉に視線を洞窟の天井へ向ける。
真っ赤なロングヘアのナイスバディ褐色美女が、背中から生えたコウモリの羽根で宙に浮いていた。
刮目すべきはその衣装──なんとマイクロビキニだ!
マイクロビキニ巨乳褐色ギャル(コウモリの羽つき)魔物だ!!!
これだよなぁ!
異世界転生の醍醐味ってやつはよぉ!!
「まぁ、誰でも変わんないわ。まとめて消し炭にしてあげるってワケ!」
俺が露出度の高い美女魔物に興奮していると、ギャルは口から炎を吐いてきた。
やば、ボケッとしてたから、避けれな……
「バリア!」
教授が叫ぶ。
目に見えない膜が俺たち三人の前を覆ったようで、炎を打ち消してくれた。
「ハァ〜ン? なかなかやるってワケ?」
ギャル魔物が舌打ちをうった。
「た、助かりました、教授……」
衝撃で尻餅をつきながら、俺は謝意を述べた。
「言ったでしょ、命懸けで守るって」
ニッと笑いかけてくる教授。
初めて教授をかっこいいと思ってしまった。
俺だって、人生で一度は、そういうことを言ってみたい……が。
「あなたが、勇者たちが言っていた火を使う魔物ですね! リオ、教授、頑張ってください!」
あくまでムードメーカー担当なんで。
教授が俺の応援に、頷きで応えてくれる。
リオのほうを見ると──
リオは両手で目を覆っていた。
「リオ!?」
戦う意志を感じられない姿勢に、俺も声が裏返った。
リオは顔を隠したまま叫ぶ。
「えっちなのは苦手なんだ!!」
こいつ、思春期か!!
「何? 舐めてるってワケ〜!?」
ギャル魔物改め、えっちなお姉さんがリオに向かって火を吹く。
「危ない!! リオ!!」
ドンッ!
俺はリオを突き飛ばした。
かったい洞窟の地面を、リオを巻き込んでゴロゴロと転がる。
痛ぇ〜!
痛いが、間一髪、丸焦げは免れた。
「ありがとう、ナル……」
「いいえ、とにかく、端に避けましょう」
足手纏いが二人になっちまった。
さすがにここは撤退したほうが良さそうだ。
「リオ、そのままでいいですから、俺と一緒に逃げましょう」
「いやだ」
馬鹿野郎がよ。
断固拒否の声が出てきて、思わず悪態をつきそうになる。
「オレは絶対に逃げないって決めたんだ! メルを守るために!!」
目を両手で覆った情けないポーズのまま、かっこいい宣言をするリオ。
こいつの意志の固さは分かっていたつもりだ。
このまま何を言っても、もう無駄だということも。
「じゃあ、せめてこのまま端にいましょう! 教授が倒してくれたら先に進める準備だけして」
「分かった」
ようやく了承してくれた。
この場合の「倒す」とは「命までは奪わない」「戦闘不能にする」程度を想定している。
つまり──あわよくば、その後、えっちなお姉さんが仲間になってくれる可能性が残るのである!
いい感じに実力差を見せつけてやってくれ、教授!
願いを込めて、魔法と炎でバチバチにやり合っている二人を見る。
「いいねぇ、君! 解剖したら、学園の資料になりそうだよ!」
知的好奇心を抑えられなさそうな教授がいた。
目がパキッてるって。
もう魔法使いじゃなくて、マッドサイエンティストのそれだって。
解剖って、それ、えっちなお姉さんを殺してない?
「アンタこそ、魔王様のランチに相応しいってワケ!」
それって、俺たち食べられてない?
人型なのに人間食べるの?
もはや、ちょっとした共食いじゃない?
そこで俺はようやく自分が平和ボケしていたことに気づく。
この二人、ガチで命の獲りあいしてない?
さーっと血の気が引いていくのを感じた。
倒したら美少女の敵が味方になってくれる、お約束ハーレム展開じゃないのかよ!?
「教授! 解剖は、その、コンプライアンス違反になる可能性があるかと……!」
「え!? コンプ……何!? 魔物に倫理観も何もなくない〜!?」
「なるほど〜……」
正論で返されて、俺は黙るしかなくなった。
教授がダメなら……!
続いて、俺はえっちなお姉さんに向き直る。
「あの! 俺たちって、焼いても食べても美味しくないと思うんですよ!」
「んなわけないじゃない! 人間はウチらのご馳走ってワケ!」
「なるほど〜……」
だめだ、誰も何も聞いてくれない。
俺はもう一度、二人に呼びかけてみる。
「ちょっと、お二方……ここは穏便にいきましょう!」
「ナルちゃん、どっちの味方してんの!?」
教授に突っ込まれてしまった。
「いい? ナルちゃんの長所は愛想がいい、短所は嘘つきなところだよ」
急にすんっとした口調で、痛いところを刺してくる教授。
長所と短所なんて、就活だけにしてくれよ。
「ナル、中途半端なのが一番よくないぞ」
リオまでもが、目を覆いながら言ってくる。
ハーレムと生き残りの両方を欲張ろうとした結果、味方全員からブーイングを浴びる始末。
あれ……もしかしてこれが四面楚歌?
「おい〜!! 何をしている〜!!」
冷や汗を流している最中、突如、奥のほうから子供の声がした。
「ひっ!?」
その声を聞くやいなや、えっちなお姉さんの背筋がビシッと伸びた。
だんだんと子供の声が近づいてくる。
「おい〜! ホットケーキにナイフとフォークが用意されてないぞー! 素手で食えというのか!?」
モラハラ全開のセリフと共に現れたのは、声のイメージ通り、小さな子供。
ただし、美少年だった。
小学生くらいの年齢。金髪と緑色の瞳。緑というには、あまりにも透き通っていて、綺麗な海みたいな色をしていた。
首には、白くてフリフリな涎掛けをかけている。
「はい! 申し訳ありません! 魔王様!」
えっちなお姉さんは戦闘をやめ、自分の口癖も忘れて、子供相手に直角のお辞儀をした。
え!? 魔王!?
こんな小さな子供が!?
「ふん。全く、気が利かないの……ん?」
子供はようやく俺たちの存在に気づいたようで、順々に目を合わせていき、教授でその視線は止まった。
「お前か」
スッと教授を指差す魔王。
「ワシの封印を解いたのは」
「ええええぇぇぇ!?」
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