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6/8

 翌日、俺たちはしっかり腹ごしらえをして、魔王がいるという洞窟に入った。

 外は真っ昼間なのに、一歩洞窟に足を踏み入れると、真夜中のような暗さで、それが不気味さを加速させていた。

 教授が簡易的な明かりをつける魔法を、洞窟の壁に点々と施していくおかげで、割と快適に歩けている。


 ここまで付き添えば、あとは二人で行ってほしいところだった。

 しかし、デリカシーもオブラートも辞書に載ってなさそうな二人だ。

 仲間割れして、やられました、じゃあ後味が悪すぎる。


 世話が焼けるなぁ。

 俺はムードメーカーとして、一役買ってやることにした。


「確か、火を使う魔物がいるって言ってましたよね……」

 魔王は火属性専門というわけではないはずだから、きっと魔王の部下が洞窟の手前にいるんだろう。


「うん〜。ま〜でも……」

 教授はパンパンになった俺のポケットを見る。

「僕のヒーリング系魔法で直すから、ポーションをそんなに買わなくていいと思ったけどね〜」


「自分で回復できたほうが、効率いいんですよ」

「確かに。賢いな、ナル」

 リオが頷きながら褒めてくれる。

 社会人になってから、めっきり褒められる機会が減ったので、ちょっとだけ照れくさいな……。


「アンタたち、また来たワケ?」


 洞窟の奥の方から声がした。

 女の声だ。

 しかもただの女じゃない。

 ギャルみたいな喋り方だ。


「あれ? でもさっきの人間とは違うってワケ?」


「上だ!」

 リオの叫びに、俺たちは一斉に視線を洞窟の天井へ向ける。


 真っ赤なロングヘアのナイスバディ褐色美女が、背中から生えたコウモリの羽根で宙に浮いていた。


 刮目すべきはその衣装──なんとマイクロビキニだ!

 マイクロビキニ巨乳褐色ギャル(コウモリの羽つき)魔物だ!!!

 これだよなぁ!

 異世界転生の醍醐味ってやつはよぉ!!


「まぁ、誰でも変わんないわ。まとめて消し炭にしてあげるってワケ!」


 俺が露出度の高い美女魔物に興奮していると、ギャルは口から炎を吐いてきた。

 やば、ボケッとしてたから、避けれな……


「バリア!」

 教授が叫ぶ。

 目に見えない膜が俺たち三人の前を覆ったようで、炎を打ち消してくれた。


「ハァ〜ン? なかなかやるってワケ?」

 ギャル魔物が舌打ちをうった。


「た、助かりました、教授……」

 衝撃で尻餅をつきながら、俺は謝意を述べた。


「言ったでしょ、命懸けで守るって」

 ニッと笑いかけてくる教授。


 初めて教授をかっこいいと思ってしまった。

 俺だって、人生で一度は、そういうことを言ってみたい……が。


「あなたが、勇者たちが言っていた火を使う魔物ですね! リオ、教授、頑張ってください!」


 あくまでムードメーカー担当なんで。


 教授が俺の応援に、頷きで応えてくれる。

 リオのほうを見ると──


 リオは両手で目を覆っていた。


「リオ!?」

 戦う意志を感じられない姿勢に、俺も声が裏返った。

 リオは顔を隠したまま叫ぶ。


「えっちなのは苦手なんだ!!」


 こいつ、思春期か!!


「何? 舐めてるってワケ〜!?」

 ギャル魔物改め、えっちなお姉さんがリオに向かって火を吹く。


「危ない!! リオ!!」


 ドンッ!


 俺はリオを突き飛ばした。


 かったい洞窟の地面を、リオを巻き込んでゴロゴロと転がる。

 痛ぇ〜!

 痛いが、間一髪、丸焦げは免れた。


「ありがとう、ナル……」

「いいえ、とにかく、端に避けましょう」


 足手纏いが二人になっちまった。

 さすがにここは撤退したほうが良さそうだ。


「リオ、そのままでいいですから、俺と一緒に逃げましょう」

「いやだ」


 馬鹿野郎がよ。


 断固拒否の声が出てきて、思わず悪態をつきそうになる。

「オレは絶対に逃げないって決めたんだ! メルを守るために!!」

 目を両手で覆った情けないポーズのまま、かっこいい宣言をするリオ。


 こいつの意志の固さは分かっていたつもりだ。

 このまま何を言っても、もう無駄だということも。


「じゃあ、せめてこのまま端にいましょう! 教授が倒してくれたら先に進める準備だけして」

「分かった」

 ようやく了承してくれた。


 この場合の「倒す」とは「命までは奪わない」「戦闘不能にする」程度を想定している。

 つまり──あわよくば、その後、えっちなお姉さんが仲間になってくれる可能性が残るのである!


 いい感じに実力差を見せつけてやってくれ、教授!

 願いを込めて、魔法と炎でバチバチにやり合っている二人を見る。


「いいねぇ、君! 解剖したら、学園の資料になりそうだよ!」

 知的好奇心を抑えられなさそうな教授がいた。

 目がパキッてるって。

 もう魔法使いじゃなくて、マッドサイエンティストのそれだって。


 解剖って、それ、えっちなお姉さんを殺してない?


「アンタこそ、魔王様のランチに相応しいってワケ!」

 それって、俺たち食べられてない?

 人型なのに人間食べるの?

 もはや、ちょっとした共食いじゃない?


 そこで俺はようやく自分が平和ボケしていたことに気づく。

 

 この二人、ガチで命の獲りあいしてない?

 

 さーっと血の気が引いていくのを感じた。

 倒したら美少女の敵が味方になってくれる、お約束ハーレム展開じゃないのかよ!?


「教授! 解剖は、その、コンプライアンス違反になる可能性があるかと……!」

「え!? コンプ……何!? 魔物に倫理観も何もなくない〜!?」

「なるほど〜……」

 正論で返されて、俺は黙るしかなくなった。


 教授がダメなら……!

 続いて、俺はえっちなお姉さんに向き直る。


「あの! 俺たちって、焼いても食べても美味しくないと思うんですよ!」

「んなわけないじゃない! 人間はウチらのご馳走ってワケ!」

「なるほど〜……」

 だめだ、誰も何も聞いてくれない。

 俺はもう一度、二人に呼びかけてみる。


「ちょっと、お二方……ここは穏便にいきましょう!」


「ナルちゃん、どっちの味方してんの!?」

 教授に突っ込まれてしまった。


「いい? ナルちゃんの長所は愛想がいい、短所は嘘つきなところだよ」

 急にすんっとした口調で、痛いところを刺してくる教授。

 長所と短所なんて、就活だけにしてくれよ。


「ナル、中途半端なのが一番よくないぞ」

 リオまでもが、目を覆いながら言ってくる。


 ハーレムと生き残りの両方を欲張ろうとした結果、味方全員からブーイングを浴びる始末。

 あれ……もしかしてこれが四面楚歌?


「おい〜!! 何をしている〜!!」


 冷や汗を流している最中、突如、奥のほうから子供の声がした。


「ひっ!?」

 その声を聞くやいなや、えっちなお姉さんの背筋がビシッと伸びた。

 だんだんと子供の声が近づいてくる。


「おい〜! ホットケーキにナイフとフォークが用意されてないぞー! 素手で食えというのか!?」


 モラハラ全開のセリフと共に現れたのは、声のイメージ通り、小さな子供。

 ただし、美少年だった。

 小学生くらいの年齢。金髪と緑色の瞳。緑というには、あまりにも透き通っていて、綺麗な海みたいな色をしていた。

 首には、白くてフリフリな涎掛けをかけている。


「はい! 申し訳ありません! 魔王様!」

 えっちなお姉さんは戦闘をやめ、自分の口癖も忘れて、子供相手に直角のお辞儀をした。


 え!? 魔王!?


 こんな小さな子供が!?


「ふん。全く、気が利かないの……ん?」


 子供はようやく俺たちの存在に気づいたようで、順々に目を合わせていき、教授でその視線は止まった。

「お前か」

 スッと教授を指差す魔王。

「ワシの封印を解いたのは」


「ええええぇぇぇ!?」


読んで頂き、ありがとうございました♡

リアクション、星、感想などお待ちしております〜!

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