優しさすらも
それは、ある日のことでした。
とある国の王子が、偶々、この村に訪れておりました。
王子はニコニコと笑いながら村人たちの話を聞き、思います。
(ああ、なんと気味の悪い村だ)
____空気が濁っている。
____草木が枯れているのに、誰も気付きやしない。
____子供たちの無邪気な笑い声とは程遠い、微かな悪意を帯びた声。
____気味の悪い場所だ。
そんな事を考えながら道を歩いていた矢先、王子はあるひとつの光景を目にします。
一人の少女が、村の子供たちに寄ってたかって、からかわれているではありませんか!
王子は思わずギョッとして、咄嗟に走り出しました。
護衛の存在も忘れて。
王子はその人よりも少し小柄な身体を少女と子供たちの間に滑り込ませ、少女を庇うように立ちはだかりました。
そして、王子はまるで刃物のように冷たく、突き刺すような声で言います。
「さっさと去ね。非道な者たちめ」
「たった一人の女の子に、寄って集って、恥ずかしくないのか」
子供たちは顔を真っ赤にして反論します。
「余所者が、口を挟むな!」
「何様のつもりなの!」
王子は子供たちの声は無視し、少女に優しく声を掛けます。
「大丈夫でしたか?レディ。お怪我は?」
少女は少し顔を赤らめましたが、すぐに泣きそうな顔をして王子に擦り寄ります。
「とても、怖かったです……!」
王子は、(なんて可哀想な人なんだ)と憐れみ、背中を軽く撫でてやりました。
そして、まだギャーギャーワーワー喚き散らかす子供たちを氷のように冷たい瞳に映し、ただ一言。
「下品な人たちだ。反吐が出る」
子供たちはピタッと動きを止め、今にも泣き出しそうな顔をしながら、走り去って行きました。
それと同時に、王子の護衛たちも息を切らしながら到着します。
そんな護衛たちに王子は一言だけ、「遅い」と心底呆れた声を出しながら言い放ちました。
そして、しくしくと泣く少女の涙を優しく指で拭い、先程とは打って変わって柔らかな瞳と温かい声で話しかけます。
「怖かったでしょう?すみません、遅くなって」
少女はゆるゆると首を横に振り、眉を下げ、へにゃりと微かに安心したような表情をしました。
「いいえ、いいえ……貴方が来てくださったので、大丈夫です」
王子はふっと笑って、ハンカチを少女に差し出すと、護衛に「送り届けて差し上げろ」とだけ言い、少女に背を向けました。
少女は、咄嗟に王子の手を掴んでしまいました。
そして、ハッとしたような顔をしてはすぐに手を離し、目を右往左往させました。
意を決したように、少女は問いかけます。
「また、会えますか?」
王子は少し驚いたような顔をしましたが、すぐに優しげな笑みを浮かべて答えます。
「ええ、勿論です。」
王子は、何もしない村人たちに怒りを覚えます。
_____なんて品性に欠けている人たちなんだ。
_____子供のうちからこんな事を許すなど。
_____ロクな大人に成れるはずがないだろう。
不愉快そうに整った顔を歪めました、不意にふっと目元を緩めました。
王子の瞳には、あの綺麗な少女が映っていました。
王子は、少女に掴まれた手に視線を落とします。
_____「また、会えますか?」
王子は、生まれて初めてまた会いたいと思う人に出会いました。
少女は、不敵に笑います。
「やっと見つけた。私の王子様」
個体名:王子に修正が入りました。