痛がりたい
少女の持つ黒髪は特別でした。
他の村人たちは皆、色とりどりの美しい髪を持っているのに、少女だけが、単調でした。
まるで、全てを染め上げてしまいそうな恐ろしさがあったのです。
村人たちは、極力少女には関わろうとはしませんでした。
____触れては何が起こるか分からない。
それが、村人たちの見解でした。
『触らぬ神に祟りなし』という言葉があるように、少女に触れたら最後なのです。
しかし、子供は違います。
子供というのは無邪気で無辜で、愛らしく、可愛らしい。
____それ故に、時に酷く残虐で、無情です。
子供は言います。
「変な髪!」
「呪われてるみたい」
「こわーい!」
「近寄らないで!」
「『魔女』みたい!」
言葉とは時にナイフになります。
子供たちの言葉は、確かに、少女の心をゆっくりと呑み込む毒となりました。
子供たちは少女に向かって、悪意のない石を投げつけていました。
少女は、泣くことすらも出来ませんでした。
心はもう、とうの昔に凍りついてしまっていたのです。
村人たちは、少女を助ける気はありません。
勿論、少女を拾った旅人でさえ、少女から目を逸らしました。
元より、少女に利用価値があると考えたため拾っただけなので。
それでも、少女は。
「ねぇ、お父さん。血、出たの。」
旅人に声をかけます。
「手当、してくれる?」
潤んだ瞳で己を見つめる子供を、誰が無下にできるでしょうか。
旅人は、まだ人の心を捨てた訳ではありません。
旅人は、結局中途半端だったのです。
「……痛いかい?」
少女の骨のように細い腕に出来た真っ赤な傷を手当しながら、旅人は尋ねます。
少女は、ニッコリ笑った後、いっそ不気味なほど子供らしい声で言うのです。
「とっても!痛いよ」
旅人は、罪悪感が多少なりともあるため、気がつくことはありませんでしたが、少女はあまりにも不気味でした。
あまりにも、冷静だったのです。
真っ黒の宝石が埋め込まれたようなその瞳で、旅人を静かに見詰めています。
しかし、それも一瞬で、「気の所為だったか」と錯覚してしまうほど、少女は苦痛で顔を歪めています。
だから、旅人は気が付きません。
その少女の異常性に。
だから旅人は気が付きません。
村で起こっている無邪気な暴力にも。
気がつくことは、とうにありませんでした。
だから、少女は笑うのです。
だから、少女は傷を見せ、痛い痛いと言うのです。
不器用な少女の、たったひとつの小さなSOSにも、誰も気が付くことが出来ませんでした。
_____ただ、一人の男の人を除いては