夢うつつ
むかしむかし、あるひとつの村に、それはそれは醜い女の子がおりました。
女の子は、村では珍しい、「真っ黒な髪」を持っておりました。
_____絹のように美しい金色の髪を持つ母親と、シルクのように柔らかな父親の間の子だと言うのに。
母親は酷く狼狽しておりました。
父親もまた、裏切られた気持ちでいっぱいでした。
村人は考えます。
_____もしかして、子供は呪われているのではないか?
村人は二人の夫婦のことを哀れに思って居たため、その考えに同調します。
「きっと、呪われた子に違いない」
「忌々しい、魔女の呪いだ」
「きっと、何かと入れ替わったに違いがない」
「この子は、一体誰の子だ?」
村人たちは、好き勝手言います。
初めは反論していた母親も、次第に(本当に、この子は私の子なのだろうか?)と考えるようになりました。
もしかしたら、私の子が、この得体の知れない子供と入れ替わったのではないか!
そう思うと、もう止められません。
母親は、酷く怒り、産まれたばかりの赤子に詰め寄ります。
「私の子を返せ!」
「忌々しい、呪いの子め!!」
村人たちは、その母親の姿に酷く恐れを抱きました。
_____父親を、除いては。
父親は考えます。
これは、呪いではない。
これは、神からの祝福なのだ。
父親は、子供を母親の前から隠しました。
_____哀れに思った訳ではありません。
_____愛した訳でもありません。
ただ、厄災がこの村に降り掛かることを恐れたのです。
しかし、村に悲劇が訪れます。
未知の流行病でした。
次々と村人は倒れて行きます。
それも、黒毛の赤子を悪く言っていた村人たちが。
村人たちは、赤子を恐れ、神の怒りが鎮まることを祈ります。
しかし、病は終わりません。
村人はどんどん倒れ、ついに誰も居なくなってしまいました。
ただ、赤子の母親を求める声が静寂に包まれた村に虚しく響きます。
そんな時でした。とある、一人の旅人が気まぐれに寂しい村に立ち寄りました。
弱りきった赤子を目にすれば、旅人は少し考えた後、「利用価値があるかもしれない」と思い、拾ってやりました。
それから数年。旅人はもう歳が歳であるため、とある村に居住することにしました。
_____絹のように美しく、シルクのように柔らかい黒髪を靡かせた、一人の少女と共に。
神の愛おし子でもなければ、魔女の呪いも受けていない、至って普通の女の子でした。
しかしながら、やはり。
少女の持つその真っ黒な髪は、どこに行っても、誰も持ってはおりませんでした。
正しく、それは特別だったのです。