第4章「贈り物」
地下牢の闇を鋭い「カチッ」という音が切り裂いた。眩い光が目を襲い、全員が目を閉じる。視界が戻った時、そこには蘭司マトが立っていた――木製の関節がきしみ、ガラスの目には痩せ衰えた彼らの顔が映っている。
「だ・ら・し・な・い」人形の声は不自然に優しい。「苦しみを楽しむ前に…きれいにしてあげよう」
壁が動き出す。隙間から血管のような赤い糸が這い出し、手首や首、まぶたに絡みつく。冷たい針が皮膚に食い込む。
「がッ…あアアッ!」赤羽の砕けた顎がぎしりと治る。半田は舌が上顎から剥がれ血を吐く。
だが痛みは消えない。筋肉に、骨に、息のたびに残る――苦痛の記憶が脈打つ。
平人(まだリカの体で)が頭を上げる。腹は不自然に膨れ、皮膚は透けるほど薄く伸びている。中で何かが暴れる。
「『治して』もらったぜ」乾いた唇を舐めながら呟く。「痛みはそのままだ」
人形が止まる。首が180度回り、骨の音がする。
「虚偽のラウンド…開始」
壁に血文字が浮かぶ:
『他人の体で苦しめ』
『他人の痛みを認めよ――そうすれば元に戻れる』
隅に縮こまっていた半田が突然顔を上げる。指がコンクリートに血痕を残しながら。
「待て…これは…」声は震えるが目は狂気を帯びる。「あの時の蘭司マトだ!カイトと消えた…!これはゲームじゃない…復讐だ!」
突然、見えざる縄が喉を締める――ルール違反の罰。だが半田は初めて笑った。「ハ…ハ…当たってる…だろ?」瞳が白く濁り、瞳孔が消える。
その瞬間、平人が崩れ落ちる。リカの体が弓なりに反り返り、腹が波打つ。皮膚が限界まで伸びる。
「なんなんだよコレ!?」赤羽の叫びが泡に変わる――口から自分の歯が、リカの前回の罰のように次々と零れ落ちる。
不気味な音が部屋を満たす:
・平人の腹の中からぬかるむ水音
・産道から聞こえる子供の笑い声
・「マ・マ?」体内深くから響く声
リカ(元の体に戻り)駆け寄る――だが平人ではなく、自分の元の体へ。「やめろ!私の体だ!」人形だけが笑う。
最後の絶叫――血と粘液の水溜りに「それ」が現れた。
赤ん坊。
へその緒も血もない。
目を開ける――蘭司マトのボタン眼。
「パ・パ」人形の声で唇が動く。
隅で影が揺れる。一瞬だけ見えた――
カイト。
白すぎる顔、同じ笑み。呼吸せず、壁が代わりに声を出す:
「ヒッヒッヒ…」
そして消える。
小百合が立ち上がる。腕には糸の傷痕。「彼はあなたたちの子じゃない…」囁く。「私が…縫い合わせた」
冷蔵庫が爆ぜる。中から五つの心臓――四つに名前、一つ「カイト」と書かれた黒いナイフ刺しの心臓。
赤ん坊が這い寄り、飲み込む。
壁が震える:
『選べ』
『子を渡すか』
『子になるか』
赤いマフラーのあった場所には――ただ湖の匂いする水溜り。