第1章「拉致」
闇。湖から続く道を照らすのは、まばらな街灯だけだった。
かつての友人5人は、互いの顔を見ようともせず、黙って歩いていた。
彼らの間には、長年の裏切りが築いた、見えない沈黙の壁が立ちはだかっている。
「なんだよ、この静けさ…ホラーかよ…」
半田が呟き、神経質にメガネを直した。ポケットの中で指が痙攣するように震えている。
「黙れ、デッ――」赤羽の言葉が続く間もなく、
鋭いブレーキ音が夜を引き裂いた。
黒いワゴン車が闇から現れ、ドアが金属音を立てて開く。
闇。
頭に被された袋。首筋に刺さる冷たい注射。
最後に聞こえたのは、あの笑い声だった。
子供のような。
人工的な。
カイトが消えた夜、受話器から聞こえたあの声と同じだ。
カビと薬品の匂いが鼻を突く。平人が最初に意識を取り戻した。
乱れた黒髪は地下室の闇に溶け込み、混血顔の冷たい計算が浮かぶ――彼はすでに状況をチェス盤のように分析していた。
隅でリカが痙攣する。普段は鮮やかな赤髪が、今は涙でくっついて輝きを失っている。
叫ぼうとしても声は出ない――ただの嗚咽だけ。平人は彼女の視線を捉え、鋼のような輝きを見た。
彼女はもう、この状況を利用する方法を考えている。
「なんなんだよコレ!?」赤羽の怒声が壁を震わせる。
筋肉質な体は冷や汗で覆われ、まるで小さくなろうとするようにうずくまっている。
半田は無言で壁を探り、痩せた指が震える。メガネの奥に危険な光が揺れる――
あの夜、カイトの電話に出なかった時の、あの眼神だ。
小百合が笑う。短い黒髪は汗で貼りつき、腕の傷跡が赤く腫れ上がっている。
笑い声は大きすぎる、ヒステリックすぎる――あの日、仲間を売った時のようだ。
錆びたテーブルの上には、血文字のメモ。
『友情を証明せよ。さもなくば、借りがお前を消す。
第1ラウンド:沈黙。話せば死。
――蘭司マト』
隣には、傷ついたコイン。
ニタリと笑うような傷――カイトがいつも持ち歩いていたあのコインだ。
「ハッハッハ! ルール破り…」
スピーカーから聞こえる声は不自然で、傷んだテープのようだ。
壁がきしみながら開き、赤羽の写真が現れる。数字「10,000,000」。
「赤羽、お前の借金は1000万だ!」
彼の顔に恐怖が歪む。かつて父親の帳面に書かれていた同じ数字。
あの時、彼は友人から金を盗み、カイトを裏切ったのだ。
「誰か…このゲームを知ってたのか?」
小百合がコインを掴む。指は震えるが、笑いが止まらない。
表。YES。
半田が誤ってグラスを倒す。割れる音が地下室に響く。
破片は「H」の文字を形作る。
「借金+500万…さもなくば指をよこせ」
平人は半田が拳を握るのを見る。彼はもう、誰を犠牲にするか選んでいる。
「リカ…お前か?」
リカは激しく首を振る。NO。だがスピーカーが反応する。
「私じゃない!」
――あの声。友人の前で嘘をついた時の、あのトーンだ。
天井から糸が垂れる。針。
口を縫われる間、リカの目には痛みではなく計算が見えた。
彼女はすでに、これを利用する方法を考えている。
赤羽がテーブルを拳で叩く。
「借金+1500万」
彼は気づいていない――リカの思惑通りに動いたことに。
「出たいか?」
小百合が頷く。YES。ドアが壁に開く。
平人が突然口を開く。
「罠だ。話させようとしてる」
まぶたを眉に縫い付けられる。しかし、痛みより怖いのは――
彼がゲームのルールを知っていることを、悟られたことだ。
壁に血文字が浮かぶ。
『次のラウンドは…痛いぞ』
隅で、赤いスカーフがちらつく。
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