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二人の出会い

 受付嬢にすっごい巨乳の女が居る。

 俺がその話を聞いたのは、同年代のパーティメンバーからだった。


「はいっ。いつもありがとう」


 早速ギルドへ駆け込み、偶然その子が受付に居たから、俺は道で売られていた綺麗な花を彼女へ差し出した。

 別に話し込んだりはしない。

 日頃の感謝を伝えただけだ。


 花を置いてギルドを去り、合流した友人と肩を組んで駆け出す。


「すっげえデカかった!」

「だろお!? あーっ、思いっきり揉みてええ!!」

「っははあ!? お前に渡すかよぉっ! 俺が先に口説き落とす!!」


 女好きの馬鹿二人、気が合ったのもあってよくつるんでた。


 俺は次の日も彼女が居る時を狙って花を届け、また次の日も、そのまた次の日もと贈り続けた。絶対にそれ以上は求めない。嫌がられたら辛いし、本当にそうであれば身を引くつもりだった。

 女を口説くってのは、こっちから向かっていくのも楽しいけど、相手から向かってきてくれた時が一番嬉しいし、愉しい。

 繰り返す内に、俺がやってくると他の受付嬢が彼女を呼んでくれるようになった。


「はいっ! いつもありがとな!」

「……………………はい」


 真っ赤になった巨乳ちゃん。

 最初は何事もなかったみたいな顔をしてたのに、初めて声を聞かせてくれた。

 可愛い声だ。もっと聞きたい。だけど緊張してるし、また今度の方がいいかな? 俺が好意を持っているってことを伝えられるだけで楽しいからな。


 なんて思っていたら。


「いつも、ありがとう」

「っ、おう!」


 言葉を交わせた。


 たどたどしい響きが心地良くて、力一杯の笑顔で応じると、もう嬉しくなってギルドを飛び出した。

 それからは、クエストを終えて報告するのが楽しくなった。


    ※   ※   ※


 おつかれさま。

 はやいね。

 大変、だった?

 無理してお花買ってこなくていいから。

 いつもありがとう、嬉しい。

 うん。

 おかえり。

 おかえりなさい。

 この花、貴方が最初にくれたものだから。

 嬉しい。

 私の名前?


 アリエルっていうの。


 はい、いつものお礼。普通のエールだけど。

 私、も? ごめんなさい、仕事中だから。

 あ…………あう……、今日は平気だったのに。

 乾杯。

 分かってる、用意してるよ。

 うん? 今日は他の所で、飲むの?


 初めてキスをした。


 おかえりなさい、ロンド。

 わかった。待ってて。

 ごめんなさい、今日は遅くまで居なくちゃいけなくて。

 わ……また、お花買って来たの? ありがとう、嬉しい。

 ロンド。

 ねえ、もう私、あがりだから。

 シルバーランク昇格、おめでとう。

 それで、ね? その、私からの、贈り物……。


 初めて一夜を過ごした。


 おかえりなさい。

 ふふっ、ロンド。

 ………………ん。もう、こんな所で。

 ねえ、疲れてるなら、私が料理作ってあげよっか?

 うん。いいよ。

 待って。ほら……んっ。いってらっしゃい。

 そ、そんな恥ずかしい下着は無理だからっ!?

 着てない。

 無理っ、絶対無理っ。

 着てないからっ。

 ええ!? ロンドが着て欲しいって言ったんじゃない!?

 ロンド。

 ねえ。


 好き。


    ※   ※   ※


 同じ部屋で暮らす様になった。

 毎日のように身体を重ねた。

 好き、も。

 可愛い、も。

 大切だから、も。

 何度も言った。


 大家族の長女で、ずっと我慢をして生きてきたアリエルに、我儘を言えと諭して口付けた。

 初めてアリエルから誘ってきた日には、嬉しくなって明け方まで抱き続けた。


 それと同時に、時折彼女の表情が曇るのを見た。


 当時ギルドではちょっとした厄介者の受付嬢が居て、冒険者に強い憧れを持ったらしい貴族サマの娘が幅を利かせていた。

 冒険者同士であれば、仲間を売ったり、傷付ける奴は排斥されるけど。

 受付嬢の世界ってのは、結構小さな枠に囚われがちで、表にも出難い。


 その貴族娘の標的にアリエルが選ばれたんだ。


 表面的には変わらない。我関せずと仕事をする受付嬢も居た。元々交友関係の狭かったアリエルは、俺との関係が表に出て結構目立っていたのに、味方は少なかった。

 我儘の言えない彼女は押し付けられた仕事を黙々とこなし、徐々に俺との時間が減っていった。

 俺も、次はゴールドだって息巻いていて、アリエル自身の薦めもあって昇格点の美味い仕事へ飛び付き、遠征の回数が増えていった。

 時間があれば一緒に居たし、むしろ俺は友人達から煽られて、そのまま彼女と添い遂げる道を選ぼうって張り切っていたんだ。


 せめて、ゴールドランクに。

 シルバーまでは報酬が辛いから、結婚をするなら昇格しなくちゃならない。

 ゴールドランクってのは結構な上澄みだ。地方支部だと所属の最高ランクがゴールドってのも珍しくない。

 憧れてきた冒険者としての成功と言える。

 ミスリルやオリハルコンってのも憧れだが、ああいうのはもう英雄って呼べるような奴らだからな、腰を据えて挑んでいくつもりでいた。


 そうやってすれ違い続けて、あの時も今回みたいに、アリエルは倒れた。


    ※   ※   ※


 ぼんやりと思い返していた過去を振り払い、俺は寝台で眠るアリエルを見た。

 ここは彼女の部屋だ。

 結構いい暮らしをしているみたいで、広間以外に部屋が二つもある。

 案内してくれたのは後輩の子だ。俺は、転居していたことすら知らなかったからな。


 ザルカの休日、そして何より俺がやらかすだろうことを見越して依頼主からギルドから、関係各所の意見調整をして回っていたアリエルは、その過労が祟って倒れちまった。

 気持ちの面でも辛いのはあっただろう。

 一度でも逃げようとした自分が恥ずかしい。

 こんなに、必死に助けようとしてくれてたのにな。


 倒れた時に出来た傷はその場に居たリディアが回復させてくれた。ただ、外なる力を扱う神官も抜け出た血や体力までは戻せないから、こうしてゆっくりと眠って貰うしかない。


『ちゃんと面倒見てあげて』


 リディアからもそう言われ、今朝から付きっ切りで看病しちゃいるが、どうにも昔ばかり思い出す。

 第一、俺とアリエルは終わった関係だ。

 今更出て行って昔の男面なんて、図々しいにも程がある。

 彼女がどう思おうと、何を言おうと、俺から何かを言う資格なんて無い。

 そう思って成すが儘で居たのは間違いだったのか?


 きっと離れるべきだった。

 けれど離れ難かった。


 お互いに『スカー』で働いているって状況もあって、なあなあの関係が今まで続いてきたが。


「覚悟も無いなら優しくするな、か」


 リリィに突き付けられた言葉だ。

 だが、かといってこれ以上コイツを傷付けるのか?


 別れの時は散々泣かれた。


 嫌いだった訳じゃない。

 お互いの願望が違う所にあって、そのまま二人揃ってずるずると落ちていくだけだと思った。

 続けるには離れるしかない。

 そうやって中途半端に想いを残したまま別れたから、今こうなっているんだろうか。


 もっと傷付けて、こんなクソ野郎は知るかって思い切れるようにしていれば?


「…………はぁ」


 覚悟もあったさ。

 背負っていくつもりでいた。

 だけど、信じては貰えなかった。愛情でも、実力でもなく、ちゃんと生きて戻ってくるっていう、俺の意思を。信じようとしても、彼女の不安は膨れ上がった。

 同時に俺も、そんなアリエルに寄り添い続けることが出来なかった。

 彼女の為にゴールドを目指した。

 だけど、俺の夢でもあった。

 もっともっと、先を見たかった。

 それを誰よりも歓迎してくれると思った相手から、止めてくれと言われた時、とんでもない裏切りを受けたようにも感じた。

 愛している。

 だけど道を違えている。

 そんな雁字搦め、どうしろっていうんだよ。

 憧れも、夢も、生きる活力となっている全てを捨てて彼女へ尽くすべきだったのか。


 グロースの遺骨を抱えて涙を流すカトリーヌを見た。

 父親の死を感じ取りながらも、理解できないリアラがずっと呼び掛けていた。


 お前がずっと怖れていた景色があそこにはあった。


 ズレたまま時間だけが過ぎて行って、取り繕った言葉で誤魔化すのだけが上手くなった。

 もう一度触れたら、どうなっちまうのかは分からない。

 好きだったんだ。

 お前の事が。

 添い遂げたいと思っていたほどに。


「……………………………………もしかしてさ」


 また同じような所でぐるぐると回っていたら、寝台から声が来た。

 額の髪を弄りながら、目覚めたアリエルがこちらを伺ってくる。


「私、倒れちゃった……?」

「派手にな」

「そっか」


 毛布で鼻先まで隠しつつ、見上げてくる瞳は、いつか見たものとそっくりなまま。


「ごめんね。心配かけて」

「いや。元々は、俺のせいだからな」

「そんなこと、ないよ」


 小さく笑い。


「ないよ。私がやりたかっただけ」


 心地良い声が耳を擽る。

 このまま彼女に覆い被さり、いつかの様に愛し合えたのなら、どれだけ良かっただろうか。


 受け入れる覚悟も無いのなら。


「…………ずっとそこに居たの」

「そうだな」

「そっか。えへへ」


「今日は、寝てろ。また明日話せばいい」


「うん…………おやすみ、ね」


 それでもな。

 突き放せない相手だって居るんだよ。


「一緒に居るから」


「……………………………………………………うん。ありがとう」


 凭れ掛かった椅子が、微かに軋んだ。






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