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強者

 罠や待ち伏せを躱しながらリザードマンの群れを追い掛ける。

 率いているのは将軍級と思しき青白い鱗のリザードマン。上空から飛来した連中の大半は各所で戦いを始めているが、どうにも奴らは逃走を続けている。


 意図が読めない。

 そもそも、ザルカの休日で魔物は何を求めているのか。

 戦いが困難なものであれ、いつもは平原で殲滅されるような、無駄とも言える戦いを繰り返して、一体。


 魔物の思考なんぞ考えるだけ無駄なのかも知れないが、コボルドやリザードマンにはっきりとした個性や嗜好がある以上、なんの目的も無く危険へ身を晒すとも思い難い。


 ある種の狂騒、あるいは人間でも新勢力の勃興に民族大移動が始まる、みたいなことはあると聞く。

 少なくともザルカの休日へ加わる魔物の大多数は冒険者の圧倒的火力によって殲滅される。


 これが北域の戦争であれば、流石にそんな状況は起きないだろう。

 勝つ為の算段、そいつが短慮であれ、無知であれ、何かしら成功すると思っていなければ成立しない。


 この逃走がそいつに絡んでいると読むのは考え過ぎか。


 どちらせにせよ様子を見ている余裕なんざない。

 あんな厄介な個体を野放しにすると、後方で遊撃に回ってる低ランクの冒険者が次々と討ち取られるだろう。反転してルーク達の背後を突いたり、市壁へ潜り込んでくる可能性だってある。

 だから逃がせない。

 徹底的に追いかけ、行動を絞らせる。


「俺が先に出る」


 街路へ飛び出し、矢を盾受けした。

 すぐに屈んで足元を隠しつつ、腰は浮かせて退避の準備を。

 二階から短弓持ちが次を番えている。来た。逸らさず、威力を殺して真っ直ぐに受ける。

 後ろから続いたバルディが敵の潜伏する建物の壁を蹴り、跳び上がった。別方向からの矢を軽く捌いて短弓持ちを仕留める。

 大斧が壁向こうから振り下ろされるが、見えていたみたいに身を振って戻ってくる。飛び散った壁材が街路を、向かいの建物を打ち付けた。その音が妙に響く。


 石畳を踏んだバルディが構えを取り、飛んで来た手斧を軽く逸らす。

 大した動きだ。特に今の、伏兵に矢を放つ間を誘導したことでその後の行動に大きな幅が出来た。思わず狙っちまう、そんな直感的な部分を揺さぶったんだろう。どこまで思考してるかは分からないが、感覚的に出来ている時点で文句のつけ所がない。

 俺が逆立ちしたって出来そうにないな。


 側面で物音。

 開けた扉の向こうへ消えていく尻尾が見えた。

 前のめりになるエレーナへ手を翳して押し留める。


「誘いだな」


「乗ってやろう」


 グロースの身が闇に溶け、風に乗って壁へ吸い込まれていく。

 ヤミガラスの鎧だ。戦士職であんな魔術まで使えるとはな。思っていた以上に搦め手が多い。


 バルディが俺とエレーナを援護する位置に立ち、身を晒しながら構えを取る。

 どうぞ狙って来いと言っている訳だ。


 少しして屋内からリザードマンのうめき声が聞こえて来て、蹴破った扉からグロースが飛び出してきた。大きく通路の反対側へ逃げ、手にしている黒剣をあからさまに大きく振り被る。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 叫びに釣られた数匹が一直線にグロースの元へ向かうが、その側面へ跳び付いたバルディが瞬く間に全てを処分する。


 初手こそ将軍級相手にしくじったが、流石にミスリル級の戦士とあってバルディの実力は本物だ。

 精々が中層級のリザードマンではまるで相手になっていない。

 半端な技巧、駆け引きを己の動きで圧倒し、叩き潰す力がある。

 かと思えばグロースとの間に見せる連携は確かなもので、互いに意思疎通もせず当たり前に搦め手を繋いでみせる。


 そのグロースの足元、石畳を割って蔓が伸びる。

 彼は根本を断ち、続いて伸びる数束を相手に抵抗を続けた後、バルディがしっかりと引いたのを確認してから霧となって逃げてくる。時間稼ぎか。


 煙玉を投げた。

 二階、バルディが一当てした位置からまたリザードマンが弓を構えている。

 それ以上の理由もあったが。


 光差し込む街路に影が落ちる。

 今日は雲も多いが、天候は概ね晴れ。

 ヤミガラスの弱点は光だからな。敵にドルイドが居る以上、何をやってくるか分かったもんじゃない。


「助かった」

「おう」


 言って、一時後退する。

 そろそろ連中が迎撃の形を整え終わる頃合いだ。


 今のは連中の準備が整っていなかったから仕掛けた。

 そうでなければ相手がリザードマンだろうと危険度は跳ね上がる。

 ミスリル二人を軽く見ているつもりはないが、将軍級がどこから飛び出してくるか分からない以上、確実に敵戦力を刈り取っていく方が安全だ。

 何より、連中が向かっていく先の地図も頭の中にはある。


 一直線に、そこへ向かっている。


「神殿、か」


 謎の多い場所だ、なんて思うのは、俺が興味を持たな過ぎているからだろう。

 リディアやトゥエリ、ついでにエレーナだって普通に出入りしている場所だ。

 クルアンの町で活動する冒険者にとって神官は極めて大切な戦力と言える。王侯貴族にすら刃を向ける冒険者達も、神殿にはあまり大きな顔が出来ない。

 なにせ神官は概ね、神殿の発言に従うからだ。

 それでなくとも魔力補充に神殿は効率がいいと聞く。

 技能、神聖術や神聖呪文なんかの習得も殆どは神殿で行う。


 だから貴族達は神殿へ多額の寄付を行い、そこの神官達と繋がりを強化することで間接的に冒険者達を抑え込もうとする、だったか。


 この手の話が好きな奴は酒場へ行けば時折熱論を交わしているのを見掛ける。

 何が楽しいかは分からんがな。

 とにかく神殿、冒険者、貴族はクルアンの町じゃあ三竦みの状態にあるって話だ。


 そんな場所に魔物が何の用だ?

 偶然、って線もあるが、初日に上空から見た時、おそらくはリッチが同じように神殿へ向けて侵攻していた。


 ただ、他二匹が別行動だったから、単に攻める方向を分けただけとも言える。

 なんとも今のままじゃ判断材料が足りないな。


「このまま行けば広場に出る。神殿側からも戦いの様子は見えているだろうから、上手くやれば神殿騎士団と挟撃できる筈だ」


 焦ることはない。

 着実に、敵の尻を蹴っ飛ばしてやればいい。


 ただ、今神殿は町民達や農村民からの避難場所になっている。

 親父達やレネとフィオ、村クエストなんかで顔を合わせる連中が身を寄せている筈だ。


 神殿騎士団が固めてくれているが、連中の殆どは俺と同じ程度、シルバー以下ってのが一般的な評価だ。最初から戦いに参加すらしない守備隊と比べれば遥かに良いが、バルディやグロースのような戦いぶりが出来るとは考えるべきじゃない。


 このまま行かせると攻め込まれる危険があるか。


 地図を思い浮かべていると、駆けていく通りの側面から物音がした。


「来るぞ!!」


 投げ込まれた物体に目が滑る。

 樽だ。

 陽動。

 分かってる。

 その反対側から一体のリザードマンが飛び出してきて、手槍を構える。違う。お前じゃない。

「私が!!」

「任せる!!」

 そうだ。

 二度の陽動、次は。

 木窓を蹴破って二階から別のリザードマンが飛び出してきた。

 鱗に交じる僅かな青。

 しかし。

「エレーナに寄せる!」

 迎撃に身構えたバルディの裾を掴み、引いた。

 アレは塗料だ。咄嗟の判断でつい釣られそうになった。

 奴ら、こっちが警戒しているのを承知で行動しているのか。

 周辺警戒。

 次は。

 次は。

「樽だ!!」

 グロースの声に目を向ける。

 既に壁となる位置に彼が立っていた。

 最初に投げ出された樽、その内側から飛び出したらしい将軍級リザードマンが、音も無く石畳を駆け、大きく迂回しながらこちらへ吶喊してくる。

 だが。

「囮だ!! 上!!」

 頭上、二階から飛び出してきていたリザードマンの背に、もう一匹乗っている。

 そいつが構えた樫の杖が光を放ち、俺達の居る一帯を包み込む様にして木が生えてくる。

 ドルイド。

 自然を操り、傷を癒す、魔物達にとっての神官。

 と同時に、エレーナが単独で迎撃へ向かった方向からまた二体飛び出してきた。三対一。しかも挟撃。

 だが、

「大丈夫!! 任せてっ!!」

 三人揃って笑った。

 あぁそんなの、笑うしかねえだろうがよ!!

「散開!!」

 俺の号令と同時にドルイドの罠から全力で飛び出した。

 矢を受ける。

 そりゃあ、ここで畳みかけてくるよな。

 だがバルディもグロースも凄腕だ、そう簡単には負けない。

 とはいえ可能なら撤退したい状況だ。味方がバラバラになり、敵はしっかりと畳みかけてこちらを潰しに来てる。

 第一目標はエレーナだ。

 神官狙い、だがそいつは彼女自身に任せた。

 他の神官なら絶対に出来ない選択肢だが、ここまででアイツが十分に戦えているのは見てきた。

 三対一。楽な筈はない。それでも持たせてくれるのなら、敵の目論見を正面から叩き伏せることが出来る。


 俺は二階から飛び出してきた二体を狙う。

 背後では屋内へ飛び込んでいくバルディ、そしてグロースが将軍級を迎え撃つ。


 厄介なドルイド、迷宮内でも散々苦労させられた。

 そいつが護衛一体でほっつき歩いてるなら仕留めるべきだ。


 将軍級がこちらへ駆けてくるが無視した。

 グロースが抑えに走っている。

 上手く抜けて行こうと思ったんだろうが、ソイツは優秀なタンクだぜ、簡単に抜かせるもんかよ。

 漆黒の戦士が正面を取った。

 威嚇を放つ。

 将軍級の脚が止まる。


 同時に俺も仕掛けていた。


 下がるドルイドと、槍持ちのリザードマン。

 そいつの右脚、槍を持っている側へ向けてパイクをひょいと投げた。転がるソイツを困惑しながらも踏みつけて、俺を迎撃してくる。

 おかげで懐が広がったな。

 大味な攻撃が来る。

 そんなもの、盾で受けるには十分過ぎた。

 めり込んだ矛先を捩じり、敵の武器を固定、そのまま踏み込んで右腕をあからさまに速度を落として突き出して見せる。

 リザードマンからみて余程迂闊に見えたんだろう、噛み付こうと前傾してくるが。

 手首を返して手の中に短剣を生み出す。

 隙だらけの首元に刃先を埋めた。そのまま胸元まで切り裂いて腰元を蹴り飛ばす。


 前はドルイドの援護で痛い目を見せられたからな、今更トカゲ野郎共の生命力を甘く見たりはしねえよ。


 槍の引っ掛かった木の盾を放棄する前に、爆裂のこん棒を抜いた。


 隙は十分。

 ドルイドの攻撃は面倒だが、速度が遅い。


 そのまま真っ直ぐ突っ込んで頭部を叩き飛ばし、仕留めた。ついで、槍持ちも背中から吹き飛ばしてトドメ確認をしておく。

 丁寧でしっかりとしたトドメもいいが、生存出来る限度の破壊状態ってのがあるのはルークとの吶喊で学ばせて貰った。急ぎの時はこっちの方が早い。


「おおおおおおおおおおおおおおお!!」


 叫ぶグロースに背を向けて俺はエレーナの元へ駆けた。

 反対側、バルディが屋内から出て来てこちらへ向かっている。

 すれ違った。


「よく頑張ったァ!!」


 後方からの挟撃で俺が一体を爆散させるのと、エレーナが杖で盾持ちをぶっ飛ばすのは同時だった。もう一体は、なんと単独で仕留めてある。


「おう!!」


 掲げた手にこちらの手を叩きつけ、トドメ確認を進めながら周辺警戒。


 増援は、今の所ない。

 なら。


「このまま行けるな!!」

「行ける!」


 傷はあるが、致命傷はない。

 将軍級が通りという恰好の戦場で孤立している。

 ならここで仕留め切るべきだ。


 と思った所に、また側面から巨大な気配が近寄ってきていた。


「巨大ワームが来るぞおお!!」


 俺の叫びに二人も反応する。

 あっちの将軍級も絶賛大暴れ中か。

 家屋を突っ切り、地面を抉り、ルークを叩き飛ばしながら突進してくる。


「わああああ、っとお!?」


 双子だ。

 他にも数名、援護する冒険者が居る。


 目が合った。


 位置関係。そう。巨大ワームにとっても、あのリザードマンにとっても予想外だったろう遭遇。地面へ食い付いたワームの頭部がすぐ前にある。

 だから。


交代(スイッチ)!!」


 叫んで、背中を叩いたエレーナから加護を貰いつつ駆け抜けた。

 飛ばされたルークがめり込んだ家屋から飛び降りてリザードマンへ跳び付いて行く。


 巨大ワームの頭部は、岩槍の乱打と、ここまでの戦闘でぼこぼこに変形していて、そこへ更に爆裂のこん棒を叩き込む。

 全力爆破。

 分厚く硬い鱗の一部が吹き飛んで、巨大ワームが叫びをあげる。


 ルークを迎撃しようとしたリザードマンがそのまま大盾を叩き付けられ、吹っ飛んだ。更に手にする大槍で追撃を加えようとしたが、暴れた巨大ワームが再びルークに狙いを定め、身を捩じって喰い付こうとする。

 そいつをバルディが顎元へ飛び込んで突き上げた。

 紫電が奔り、巨大ワームが身を震わせる。が、仕留め切れない。


 なんつう硬さだ。


 ただこの状況が堪らないと思ったのか、大暴れしながらも身を返して逃げ始めた。


「あっ、コラあ!?」

「じゃあねっ」


 双子がそれぞれに叫びながら追いかけていく。

 ついで、吟遊詩人(バード)の力でこちらに強化と治癒をくれた。


 その背を追うことなく二人と合流し、同じく逃走したリザードマンを俺達は追った。


 状況は最悪だが、勝てる流れは出来てきている。

 町の被害には目を瞑って貰うしかないか。まあ、後でたっぷりとゼルディスのねちねちとした吊し上げを受けるとしよう。


 このままじっくり、確実に追い詰めていけばいい。


 思った所で北の市壁から歓声があがった。

 もしかしたら、フィリアがリッチを仕留めてくれたのかもな、ってのは楽観が過ぎるか?


「回復完了! 加護も入れたよ!」

「魔力は」

「まだ行ける!」


 なら。


「よしっ、行くぞ!!」


 俺達も。


    ※   ※   ※


 なんてのは、もしかしたら演出だったのかもしれない。

 油断したつもりはない。

 こっちには十分な戦力がある。

 エレーナも驚くほどしっかり戦えている。

 バルディもグロースも、優秀な戦士だ。


 ただ、相手は老練なリザードマン。

 確かな思考を持つ奴が、何の狙いも無く追い回されて、逃げ回っていた筈はない。


 けれど、結局はもっと単純で。

 分かりやすい事実があるだけだ。

 奴は強かった。


「っ、こいつはぁ……!!」


 追ってきた街路に広がる死体の山。

 装備からして神殿騎士団だ。

 十名以上の騎士が皆、胸を貫かれて絶命している。


 その中央に立っているあのリザードマンが、ちょうど最後の一人の心臓を呑み込む所だった。


 神殿騎士だって魔物狩りには時折顔を出す。

 決して雑魚の集まりじゃない筈だ。それをこうも一方的に。


 青白い鱗のトカゲ野郎は腹を擦りながら口元の血を舐め取った。

 まるで、今まで小腹が空いていたんだと言わんばかりにこちらを向いて、げっぷをした。


 掌を向けてくる。

 なんだ。


「警戒!!」


 エレーナが障壁を張って身構える。

 グロースが前へ出た。


 俺達とリザードマンとの間、互いの視界を塞ぐようにして石壁が突き出してきた。


 これは。

 いや、まずい!!


「グロース、来るぞっ!!」


 おう、という声を受け取る暇も無かった。

 奴が自ら張った石の壁。そいつはまるで俺達を護るような位置に出現したが、咄嗟に頭の中で浮かんだ絵図を必死に掻き消し、俺もまた前へ出ていく。慣れた反応だ。視界を塞がれた。目の前には壁。警戒すべきは、左右と、上と、特殊な奴なら地中って線もある。

 違う。

 そうじゃない。

 奴は。


「っ、抜けて――――」


 そう。壁を抜けてくる。

 魔術を無効化する特異体質。

 視界を塞ぐ石壁を前に、つい迂回しての吶喊を想像してしまうのが熟練者だ。

 常識的な、熟練の思考。

 だから隙が出来た。

 一度見ておきながら反応が遅れた。


 脳が真っ二つに割れる様な痛みを覚えながら身体を捩じる。頭が慣れた行動を取りたがるのを無理矢理抑えつけ、軋む間接を動かし反応しようとした。

 だが、あまりにも遅過ぎた。

 石壁が出現した瞬間に察するべきだった。


「っ、っっっ、ぅ、ぁ……!!」


 最後の瞬間、グロースはヤミガラスの鎧を使おうとした。

 だがリザードマンの手の平から発せされた紫電がそれを払う。

 強烈な光を前に霧は失せ、実体を顕わにする。その事に何故か強烈な違和感を覚えながらも、パイクを奴へ突き出していく。姿勢なんざ知るか。骨身が砕けようと関係ない。

 死んでも仲間を守るのがタンクだろうが……!!


 なのに奴の手刀はあまりにも早く、まっすぐにグロースの胸部を貫いた。

 迸る紫電が迫る俺達の肌を焼き付け、視界を強烈に染め上げる。


「テメエッッ!!」


 バルディの攻撃を躱しながら腕を引き抜き、後方へ大きく飛んでいく。

 その手に握られているのは心臓だ。

 グロースの心臓。

 どんな神官も死者は蘇らせられない。

 なら、心臓を失った者は?


 そいつを誰よりも理解しているみたいに、奴は猛攻を掛けたバルディをいなしながら、

「止めろ!!」

 エレーナが必死に回復を掛ける。

 硬直していたグロースが膝を付いた。

「止めろ……!!」

 大きく口を開けたリザードマンが彼の心臓を呑み込んでいく。


「止めろォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!」


 叫びの中、小さな呟きが聞こえた。


「あぁ……カティ、リアラ……………………」


 バルディを蹴り飛ばしたリザードマンがこちらへ手を向けてくる。

 石壁、紫電と来て、次は。

「逃げるぞエレーナ!!」

「っ、だって、グロースが――――」


「…………愛してる」


 渋る彼女の肩をグロースが押した。

 俺はその首根っこを掴み、全力で退避する。

 今まで背中を預けてきた仲間を置き去りにして。


 直後、彼を包み込むような岩槍の乱打が始まり、完全にグロースの姿は見えなくなった。


 クルアンの町に、魔物の雄叫びが鳴り響く。






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