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逃亡、追跡、その前に。

 唐突に始まったザルカの休日。

 ゼルディスパーティを始め、主力級の面々が悉くクルアンの町を離れていた為に初手で受けた損害は大きかった。

 そのゼルディス達が駆け付けた後も、三体もの将軍(ジェネラル)級が同時に出現するという事態に対応が追い付かずに居た。


 更に東方の砦の一つが落ち、リディアと共に二人は迎撃へ向かったが。


 巨大ワームの撃滅作戦に応じて飛び込んで来たリザードマンに、かつて迷宮で遭遇したネームド級の個体が混じっていた。


 おそらくはそいつが三体目の将軍級。


 巨大ワームをルーク達に任せ、合流したエレーナとグロース、バルディらと共に交戦に入ったが。


「っしゃあらァ……!!」


 紫電を纏ったバルディが飛び込んでいく。

 そいつを待ち受けるのは小柄な将軍級リザードマン。


 何気ない一当てに思えた。


 上手くいけば背後の若造共を一掃し、前の将軍級コボルドの様に呆気無く終わるかとも。


 だが一瞬、遠目に見てもリザードマンの姿が幻覚みたいにブレた、様に見えた。

 呆気無く槍の下へ潜り込んだ奴は、矛先の根元を掴み取り、引き寄せ、拳打を放つ。


 バルディが吹っ飛ばされた。


 奴の手の中にある槍は未だ紫電を放っているが、魔術を無効化してくるアイツには通用しないのか、そのまま奪って武器として構えを取る。


 後ろに控えていたグロースが斬り込み、鍔迫り合いになるが、側面へ回り込んだ別のリザードマンが居て。

 半歩を下がったミスリル級タンクは、押し込もうとする槍を払う動きの延長線上で側面のリザードマンを切り払った。

 気付けば引いた脚を軸に、反対側の脚で一歩を踏み込んでいる。

 更に鍔迫り合いが継続した。

 また別の個体が矢を放てば、僅かに身を逸らして鎧で弾く。


 奪えない、そう判断したんだろうリザードマンが槍を手放して引いて行った。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 威嚇の叫びを受け、数体が怖気るのが分かった。

 頼みの将軍級がああも抑えられちゃあ、不安になるのも無理はないよな。


 更に前へ出たグロースが落ちた槍を後方へ蹴飛ばす。

 復帰して駆け込んでいたバルディが拾い上げ、今度こそ逃げる敵へ吶喊し、一匹を刺し貫いた。同時に紫電をまき散らす。さらに数匹、脚が止まった。


「グロース待った! 回復していけっ、エレーナ!」

「分かってる!!」


 槍との鍔迫り合いで手を負傷していたグロースをエレーナに預け、俺は距離を測りながらバルディを援護できる位置に付く。

 あの紫電、迂闊に近寄ると俺まで巻き込まれそうだ。

 バルディは見たまんま遊撃のアタッカーだ。

 好き放題暴れ敵を刈り取る、優れた戦士。


 さっきのは相手が一枚上手だっただけだな。


 おそらく今の初手、バルディが派手に注目を集めながら一番槍で突っ込んで、けれど敵と交戦せず側面へ飛び込んでいくつもりだったんだろう。彼の背後から顔を出したグロースが敵先頭、つまり最も好戦的であったり、敵主力足り得る個体を抑え込み、バルディがそれ以外を刈り取っていく作戦だった筈。

 そいつを読み切ったあのリザードマンが、あの謎の踏み込みで目論見を外した。


 バルディはミスリル級の戦士、弱い筈がない。

 若さからくる迂闊さはあったかも知れないが、凡ミス重ねて死ぬような奴が深層で生きていけるとは思わない。

 つまり、あの青白いリザードマンはミスリル級とも拮抗出来る実力者と見るべきか。


「逃げたぜ、追うかい兄貴?」


 さっきの失敗もどこ吹く風と、あっさり仕切り直してバルディが問うてくる。

 建物の中に逃げ込まれた。

 追撃が一番困難な場所だ。

 窓から窓へと飛び移っていける身体能力がある以上、こちらの目を欺いてまたどこかで機会を伺ってくる可能性が高い。


「追いかける。反撃には注意してな。先頭は俺、次にバルディ、エレーナと続いて、後詰めはグロースに頼む」


「おいおい、さっきのでそんなに信用無くしたか俺?」

「お前の得物は槍だ。しかも範囲が広くて通路でやられたら後ろの人間まで巻き込む」


 だからと腰の短剣を抜いて投げ渡した。


「ダマスカス鋼の短剣だ。そいつ程じゃないが、切れ味だけならアダマンタイトにも劣らない」

「ひゅうっ、いいの持ってるじゃねえのっ! 分かったよっ、ビリビリは一時中断なっ」


 軽いんだかなんだか、相変わらず測り切れん奴だ。

 だが戦いには向いている。

 失敗を引き摺る奴は長期戦に向かない。

 戦っていれば失敗なんていくらでもする。それを延々と気にして気落ちしていると戦力はガタ落ちだ。


「エレーナ、敵感知系は少し出来るようになっていたよな」

「うんっ。あんまりアテにされちゃうと不安、って感じだけど」

「あぁ。基本的には自分で感知する。ただパーティは」

「補い合う、だよね」

 ふっと笑って。

「正解。分かって来てるじゃねえかっ」


 頭を撫でてやると嬉しそうに笑顔を見せる。

 ちょっとは緊張がほぐれたか?

 初手の思い切りはともかく、将軍級を相手取る、しかも神官が自分だけという状況だからな。


「仲間の命を預かるのは神官の誇り。俺らタンクが味方の盾になるのも、バルディが馬鹿みてえに飛び出して暴れるのも、全部仲間の命を守る為だ。なあ?」

「あぁ、全員で守り切ろう」

「なんか俺の扱い雑になってね?」


「あははは。バルディが一番皆の扱い雑だからねっ」


 エレーナの当て擦りを受けて、皆で笑う。


 よし。

 少し間は出来たが追跡の開始だ。


 反撃、罠、色々ある。


 だがルークが巨大ワームを、今も市壁で戦っているフィリアがリッチを、そして俺達があのリザードマンを仕留めたならザルカの休日は終わる。

 結果を急いで焦るのは危険だが、戦力としては確かなものがある。

 俺の判断が及ぶ所なんざ通り過ぎていることを踏まえても、次への一歩は躊躇わない。


「とっととトカゲ野郎共を仕留めて、慌てて戻って来たゼルディスとリディアに、乾杯、なんつって迎えてやろうじゃねえか」


「ははっ、そりゃあいい!」

「フィリアの店で飲み放題、という噂を聞いた」

「あぁゼルディスが奢ってくれるとよ」


 そいつは結果的にパーティの財布から出て、フィリアを泣かせることになるんだが、ここで湿気たこと言っても仕方ないだろう?


「あっははははは! よしっ! 行っくぞおおおお!!」


 殴り神官の景気の良い掛け声と共に、俺達はリザードマンの逃げ込んだ家屋へ突入していった。







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