魔群強襲
砲声轟く戦場を駆け抜けていく。
手にしているのはいつもの木の盾と、ディトレインの遺品として受け取った爆裂のこん棒。この状況で細かな戦闘なんてやっていられない。突撃の勢いと、仲間の援護頼りに攻撃を叩きつけ、突破していく。
足を止めたら一気に呑み込まれる、それが何よりも理解出来た。
笛の音が聞こえる。
そいつは俺達に力を与えてくれる吟遊詩人のものだ。
と同時に、その音色が指揮を兼ねていることに気付いた。
常に耳へ入ってくる、心躍らせる演奏。
弾む音色で攻勢を強め、穏やかになれば迂回したり間を開けたり。聞いている者の耳を引っ叩くような強い音が連続すれば、それは前のめりになった馬鹿を引き戻す為のものだった。
分かりやすく、耳にも届き易い。
乱戦、混戦が当たり前の状況では人の声は簡単に濁ってしまうから、こういう方法もあるんだなと感心する。
陶酔とも熱狂ともつかない興奮と。
大雑把に過ぎる豪快な戦闘で。
魔境を駆け抜けてきたパーティが魔物群を強襲していく。
「正面突破!!」
側面から寄せてきたリザードマンの集団を見て、ルークが檄を飛ばす。
倒して進むのではなく、置き去りにすると。
道すがらで魔術師が目くらましを放ち、妨害を加えつつも、全員が一目散に駆け抜けていく。
そうして立ちはだかったトロールをルークが手にする大盾でぶん殴り、叩き飛ばす。起き上がる前に別の者が追撃を加え、行動不能に陥らせた。
トドメ確認すらしない。
している暇がない。
更に数体のトロールとワーグに乗ったゴブリン集団を蹴散らしながら更に前へ。
とんでもない突破力だった。
地道に、慎重にやっていたら到底追いつけない速度。
一見すると乱雑なのに、パーティ内でしっかりと最低限の線引きが成されているのか、対処そのものは確実だ。
見ている間にもそれぞれが位置を変え、役割を変え、状況に合わせて変化していく。
大方針をルークが決定し、吟遊詩人のリドゥンが演奏で周知させ、それぞれが考えて行動に移す。一応、細かな指示を出す者と受ける者が居るみたいで、それが状況を更に整理させてくれる。
「巨大ワームが来たぞおおお!!」
リドゥンの叫び。
と同時に演奏が変わる。
狂騒の如き苛烈な響き。
あぁ見えていた。
ここまで派手にやれば気を引いちまうのも仕方ない。
俺達に影を落とす位置へやってきていた巨大ワームが、剣のように鋭く尖った鱗を震わせて突進してくる。
「抑えます!! プリエラ!!」
「加護全開で行くよ!!」
ルークが大盾を構える。
魔術師がしゃがみ込んで地面に手を触れさせる。
狩人が接近する魔物を次々と射抜いて行き、口笛に応じて二匹の狼が敵を威嚇、牽制して誘導していく。
俺は飛んで来た矢を木の盾で受け、魔術師を守る位置へ立った。
離れた位置から黒い竜巻が巻き起こり、市壁を襲う。その風は強烈な光によって阻まれた。
突進してきた巨大ワームを正面に捉えたルークがその威力を全て受け止める。
頭部を抑え込まれたことで続く胴体部分が捻じれ、周囲の魔物を蹴散らした。
「全員衝撃に備えろよッッッ!!」
魔術師の叫びを受けて、皆が腰を落とした。
と同時に、地中から幾つもの巨大な岩の槍が伸びてワームの胴体を打ち付ける。
「ちぃっ、硬いなオイ!!」
貫くことは出来なかった。
あの剣山みたいな鱗に阻まれて、致命傷を与えるには至っていない。
だが、
「続けろ!!」
「っ、おう!!」
打撃は無意味じゃない。
鱗に阻まれ貫けていないが、砕け散る岩に交じって、尖った鱗部分が歪んでいるのが見えた。
連打、いや乱打とも言える岩槍の魔術によって巨大ワームが怯み、首を振って逃走を開始した。
追うか、いや。
無理だ、と思った所で北側から強烈な光が放たれた。
前にも見たことがある。
ゼルディスの虹剣だ。
だがコボルドの肉体は瞬く間に塵にしてみせた極光が、ワームの鱗に阻まれて撒き散らされる。
「っ、まずい!?」
「集まって!! はやく!!」
神官、プリエラの呼び掛けに応じて全員が彼女の元へ駆け込んでいく。双子の兄なんぞは笛を吹きながら滑り込んで来た。
「詰めてっ、限界までくっ付いて!! 抱きつけェ!!」
何を言ってるんだと問う暇なんて無かった。
全員が抱き合うような状態でプリエラを囲み、その直後、ギリギリ全員を覆う様に薄い光の幕が展開されて、降り注ぐ虹の光を弾いてくれた。
「……はぁ……はぁ…………っ、この結界、この大きさが限度だから……っ」
兄貴の足先が出ていたので引っ張ってやる。
「すまねえ」
「いいや、随分と面白い感じになってるがな」
怪我の功名というか、周囲の魔物は大半が塵に変わった。
巨大ワームの撃破には至っていないが、一先ずの目標は孤立している冒険者達の救援だからな。
やがて飛び散る光が止んだのを見計らって結界が解かれ、俺達は抱き合いながら大きなため息をついた。
「お前らいつもこんな冒険してんのか」
「ははは。今みたいなのはたまにですよ、たまに」
なんて言ったリーダーへ向けて誰かが叫んだ。
誰かというか、全員が、次々と。
「たまにじゃねえよ馬鹿ルーク!?」
「そうだよっ、いっつもお前無茶やるんだからさあ!?」
「つーか今のも頭抑えるなんてよくやろうと思ったな!? 喰い付かれてたら丸呑みだぞお前なんて!?」
「ちょっと今誰かお尻触ったでしょ!? 殴るからねっ!!」
「俺じゃねえよっ、殴ってから言うんじゃねえ!!」
「プリエラ、踏んでる。お前、偉大なる兄を踏ん付けてる」
「きゃあ!? クソ兄貴っ、妹の股下に飛び込んでくるなんて何考えてるのっ、えっち!!」
「あっははははははははははは!!」
ルークが大笑いして、とりあえず全員が一発殴った。
その間に俺は装備を確認し進むべき方向を定める。魔物群は今の攻撃で総じて東へ寄ったな。今の内だ。
「よぉしお前ら、群れの手薄になった西方面から救援に向かうぞ」
「切り替え早っ!? 流石ルークの師匠な!!」
「つーか退いてくれ、起きれない」
「お尻触ったの誰っ!? ぶん殴るからっ!!」
すまん、咄嗟に当たっちまっただけなんだ。
悪かったと思ってるから、許してくれよ。
※ ※ ※
敵中突破の救援は概ね上手くいった。
全く犠牲が出なかった訳でも、全てに間に合った訳でもないが、分断された冒険者達共々壊滅するのは避けられた。
俺達は合流した彼らと共に一度東へ抜け、大回りしてクルアンの町の防衛へ加わることにして、急ぎ駆けていってたんだが。
東の空に狼煙があがる。
そっちには二つの砦があり、魔物の大侵攻を受け止めてくれている筈だが。
救援求む、か。
まだまだ、状況はひっ迫しているってことだ。




