戦犯探し
特設された詰め所で食事を摂り、仮眠を取ろうかと思った所で騒ぎが起きた。
こんな急場で揉め事は勘弁してもらいたいが、なんて思っていたが、片方の原因はすぐに分かった。
「では三日目からは参加出来ていたんだな。その上でこの有り様とは、失望すら生温い」
ゼルディスだ。
詰め所の前で誰かと向き合い、話をしている。
野郎、こんな時にいつもの潔癖症を出さなくてもいいだろうが。
「明日は後詰めに入れ。竜殺しとはいえ、所詮はオリハルコンか。本物の戦い方というものを見せてやろう」
「わかりました」
「フィリア。アレをやるぞ。おい、フィリアっ」
「えー、私も今日結構大変だったんですけどぉ」
「必要だ。やれ」
「はーいはい」
人だかりの向こうに立ち去っていく優男を見た。
背が高いから良く見える。
こんな時間でまで呼び出されるとは。
憐れなゼルディスパーティのメンバー達を見送って、俺は反対側へと歩いて行った。
※ ※ ※
「おう、災難だったな、ルーク」
声を掛けると、背を丸めていたソイツが驚いた顔で振り返った。
「ロンドさん!? いつクルアンに戻って来たんですか!?」
「落ちつけ。まだ人目があるだろ、大将は胸張ってろよ」
そのまま二人で少し歩いて、喧騒も遠くなった所で腰を落ち着ける。
「爽やか男もザルカの休日は堪えたろ」
竜殺し、その名を担いで魔境から戻って来た、かつてのパーティメンバー。
昔はすぐ前のめりになる突撃野郎だったが、最近は結構落ち着いてきたとも聞く。
話すのは久しぶりか。
あの宴会以降も時折誘いにやってきたがな。
「はい。慣れない事ばかりで……でも、ここまでの被害を出してしまったのは、確かに俺の力不足です」
「突破力が武器のパーティに防衛線をやらせること自体が間違いだ。まあ、動けるパーティの中で一番ランクが高くて、組織立って動けるから、無理矢理にでも当て嵌められたんだろう?」
「……見てきた様に言いますね」
「お前のやらかしで何度尻拭いしたと思ってる」
昔の事をつついてやると、ようやくルークが笑みを溢した。
ゼルディスの戦犯探しはいつものことだ。コイツは普段から拠点を定めず飛び回ってるから、ザルカの休日に参加することもあまり無かったし、言った通りに防衛向きのパーティじゃない。
「すみません。お気遣いいただき、ありがとうございます」
また随分とお行儀が良くなったもんだな。
「ここから離れていたようなことを話してたが、どこで冒険してたんだ?」
ゼルディスの口ぶりだと、ザルカの休日が始まった当初はクルアンの町に居なかった感じだ。
今回の突発的な窮状、近くにルーク達が居てくれただけでも行幸だろう。
「いえ。西方の、聖都で色々と揉まれてました」
「なるほど貴族連中か。良い後援者は見付かったか?」
「それも半ばで放り投げてきましたよ。えぇ……堅っ苦しくてうんざりしてましたけどね」
言ってにやりと笑う。
愚痴が言えるようになったなら十分だ。
流石は魔境を駆け回って来たパーティのリーダー、俺が心配することも無かったか。
「パーティの運営で苦労してるのなら、その手の人材を招き入れたらどうなんだ? 簡単に見つかるもんでもないとは思うが」
「そう、ですね。一度募集してみたんですが、妙なのが集まってきてしまい、どうにも」
なるほど、甘い蜜を吸いたくて寄って来たか、あるいは憧れややる気は本物でも、既存のメンバーと折り合いが悪かったり、癖のある奴だったりすると、そう簡単には引き入れられないのか。
フィリアとの一件で規模の大きなパーティを運営する事の大変さは垣間見たが、あそこはあそこで奇跡的な均衡状態を保ってるからな。
「はぁ……冒険がしたいです、ロンドさん」
「ははっ。だよなあ」
遠慮の無い弱音に笑みで返す。
昔はこうやって、色々話を聞いたり、夢を語り合ったりしたな。
「あぁ。ザルカ神が戻ってきたら、考えてやるよ」
「本当ですか!? ようやく一緒に来てくれる気になったんですねっ!!」
「そこまでは言ってない。まあ、何か面白そうなクエストでも見繕ってな」
「分かりましたっ! よしっ、やる気が出てきたぁっ!」
単純な奴だ。
でも、単純なだけじゃ居られなくなった。
名声と、望むものの大きさと、背負った仲間が居る以上は、な。
ソイツを素直に眩しいとも思う
「まずはザルカの休日だ。人助けも冒険者の仕事の内だからな」
「当然ですっ。ただ、正直どうすればいいのか途方に暮れていたので、ゼルディスさんの提案はいい機会だと思うことにします。彼らの戦いぶりは、きっと魔境での戦いにも応用できますから」
そいつは俺も興味がある。
リディアとは時折低層の漸減で。フィリアやエレーナとも一緒に戦ったことはあるが、結局は雑魚相手の安全で確実な方法だった。
前にザルカの休日で露払いをした時も、じっくり眺める機会なんて無かった。
「生き残るぞ」
「はい」
では、と言ってルークは立ち上がった。
パーティメンバーとの話もあるらしい。
丸まっていた背中はどうにか伸びて、一本筋は通ったか。
余計な口出しをするまでもなく、コイツは自分で自分を整えられただろう。
改めて、上に行くってのは大変なんだと思えた。
ルークは戦ってる。
リーダーなんて性に合わないだろうが、自分の吶喊思考に付き合わせるのなら、自分自身で責任を負うしかない。
ゴールド時代から一緒だった仲間を集めて、魔境にまで乗り込んで。
アイアンのランク章が今更になって恥ずかしく思えてきた。
降格された原因まで後悔はしない。
それでも、未だに上がったり下がったり。
悔しいね。
でも、焦るな。
力は付いている。
守るだけの戦いから、積極的に敵の行動を抑え込む、攻めの戦いへ。
ここ一年近くで課題にしてきたことが実践出来てきている。
昔の記憶のまま、俺なんぞに憧れてくれている弟分をがっかりさせないよう、これでも励んだつもりなんだぜ。
ザルカの休日が終わったら、な。
拳を握って、俺も立ち上がる。
改めて仮眠だ。
しっかり寝て、体調を整える。
大事なことさ。
月明かりに照らされながら、俺は静かなクルアンの町を歩いて行った。




