虚勢
両腕をシーツで巻かれた女が、剥き出しの尻をこちらへ向けている。
そいつを強く引っ叩いてやると、荒い呼吸に嬌声が混じる。
すっかり馴染んでるな。
思いつつ、彼女の身体を支えていた両脚を持ち上げ、小さな悲鳴を聞きつつ下半身を浮かせる。
不安定な自分を腕で支えようとするが、そうはさせんと強く責め立てると、女は崩れ落ちて這い蹲る。咥えたシーツ越しに獣じみた嬌声が続いたかと思えば、全身を痙攣させて悲鳴をあげた。
この女は小柄だが、年齢的には二十を越えている。長寿系の血が入っているらしい。金も権力も有り余ると人間は自分達の血肉すら操れると思ってしまうのか、貴族でも高位の者ほど長生きだ。
丈夫な身体、高い魔法への適性、そして美貌。
そんな長い歴史を掛けて作り上げられた女の身体を俺は突き上げている。
徐々に嬌声なのか悲鳴なのかも分からなくなるような声へ変わっていき、控えていた年若い女の護衛が慌てた様子で近寄ってくるが、どう判断していいかも分からず顔を真っ赤に染めている。
髪を掴み、引き起こしてやった。
目の前に晒された主の痴態、そしてそれに気付いた女は更に興奮して全身を震わせる。
しぶきが飛んで、護衛の顔を濡らした。
※ ※ ※
「よお、おつかれさん」
「っ……!?」
行為を終えて身を整えた後、別室で休んでいた護衛へ茶を入れて持って行く。
だが、彼女の反応は辛辣だった。
「近寄らないでくださいっ、汚らわしい!」
「はは」
机の上へ陶器のコップを置いてやるが、手を付けようとはしない。
まあいいさ、なんて思いながら自分の分へ口を付ける。
クルアンを出る時にトゥエリから貰った薬草茶だ。あんまり好きな味でもないが、気持ちが落ち着いて楽になる。ここ最近は食が細くなってきたからな。
「そう邪険にするなよ。第一、俺が汚らわしいのなら、それに抱かれてるラウラはどうなんだ。クソに塗れていようと主人は主人か?」
「それは、っ」
「アイツから聞いたが、お前も男に抱かれた経験はないらしいな。だから過剰に毛嫌いする。どうだ? 俺なら優しく導いてやれるが」
座っていた椅子を蹴倒して女は立ち上がる。
嫌悪感を隠そうともせず俺を睨み付けると、態々押し退けて部屋を出ていった。
こうなっては肩を竦めるしかない。
「…………リリィ?」
隣の部屋から出てきた、肌着一枚のラウラが欠伸をする。
「よお」
しゃあしゃあと机に置いていたコップを掲げる。
「薬草茶、飲むか?」
「それ嫌い。吐き気がする」
同意するよ。
仕方なく俺は二杯分の薬草茶を自分で抱え込むことにし、長椅子へ座った。ラウラが寄ってきて脚の間に入って来たので、その背を支えてやった。
「ふふっ。口移しなら飲んであげてもいいのよ?」
「吐かれても困るから止めておく」
「もう、我儘ね」
彼女基準では俺が我儘ということになるのか。全く、偉い連中ってのは考えが違い過ぎてよく分からんな。
「……今回も出さなかったのね。いいのよ、孕ませるつもりで好き放題してくれても」
「お前の趣味に付き合う気はない。第一、何度か言ってるだろ」
薬草茶を飲む。
口の中に濃厚な、吐き気を催すエグみが広がっている。
そういや二人でぎゃあぎゃあ文句を言いながら飲んでたら、淹れてくれた本人がすっかり拗ねちまったこともあったな。
僅かに湧いた感傷、そこへ女が凭れ掛かって来て、俺は吐き気ごと薬草茶を飲み下した。
「刺青がそんなに嫌って、聞いた事無いわ」
肌着をめくり上げると、ラウラは他に覆うものの無い肌を俺へ晒してきた。
艶めかしいと言えなくもない肌の上を、幾つもの意味不明な入れ墨が這っていて、それが腕や肩、胸元までを覆っている。
後ろから見て、腕にシーツでも巻き付ければ見えなくなるんだが、正面を向くとどうにもな。
「ふんっ」
「こら。拗ねないの」
首を抱いて顔を寄せてくる。
見た目には十二か三程度にしか見えない女が俺の首に歯型を付けてくる。吸って、痕を残して、満足げに笑う。
「ねえロンド。もっともっと危ない事をしましょう? いっぱいいっぱい気持ち良くなって、外の事なんて忘れてしまえばいい」
胸元を撫で回し、股を擦り付け、小さなふくらみの先端を掠らせながら一方的に快楽を貪る。
まるで発情期の獣だ。
「そうもいかんだろ。流石に今日は買い出しに行く」
「やだ」
「やだじゃない」
「リリィにやらせればいいじゃない」
「アイツはお前の護衛だ」
「ロンドが居るでしょ」
「あのクソ真面目女がそれを認める訳ないだろ。欲求不満ならアイツを押し倒してろ」
無理矢理ラウラを引っぺがして立ち上がると、彼女は抗議しつつも長椅子へ寝転がり、こちらを誘うみたいに身体をくねらせる。
「あの子は私の宝物。一片の穢れも無い、無垢なる宝石。だからそんなことはしないわ」
「おう、穢れ切ってて悪かったな」
「ふふふ、ばーか。そういう意味じゃないわ」
なんにせよ、そのリリィが拗ねちまったから、ラウラを護衛無しに連れ出す訳にもいかない。
あくまで俺の立ち位置は、彼女の情夫だ。
首の齧られ痕をどう誤魔化すか悩みながら、乱された衣服を整える。
「何か食べたいのはあるか?」
「あ、私キャベツが食べたーい」
「はいはい。食って育て、ちびっこ」
最後の一言が余計だったらしく、薬草茶が残ったままのコップが投げ付けられ、床で割れた。




