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適正な取り引きを

 目的地までの道中、天候が怪しくなってきたので早めに野営をすることにした。

 毛皮で表面を覆う天幕を張り、簡易の暖炉に道中で拾ってきた薪で火を入れる。背負って歩くには重すぎる荷物だが、無いと寒さで凍え死ぬ。

 加えて保存食に水と、とにかく旅は必要なものが多過ぎる。


 簡易暖炉の上に手鍋を置いて、汲んでおいた水を沸かしつつ、戦利品を広げた。


 ハーブが数種に、木の実が少々、仕留めて肉にした動物の毛皮もある。

 毛皮は軽くなめしておいたが、職人ほどには上手くないので価値が下がるだろう。仕留めて剥いだらすぐに加工しないといけないのが皮類の面倒な所だ。

 後は希少価値のある石や倒した魔物の部位など。


「そんなにいっぱいどうするんですか?」


 食事の用意をしてくれているベラが、隙間を見付けて覗き込んで来た。


「どうって。売るつもりだが?」

「そんなものが売れるんですか? ロンドさんが趣味で集めてるものだと思ってました」


 いやいや、と俺は今更になってベラとの常識のズレに気付いた。

 仕事の細かい所にまでは斬り込んじゃいないが、仮にもお前は商人だろうに。


「こっちのハーブは薬の材料になる。こっちは香草、料理に使う奴だな。木の実はそのままでも行けるし、錬金術師が欲しがるのも幾らかある。皮なんかはそれこそ服や装備に使い道はたっぷりとあるだろ?」

「……石は、なんです?」

「魔術師が使う。俺も細かい所は分かってないが、ここにあるものは全部、冒険者ギルドで採取クエストってのが出てて、換金が可能な奴だ」


 俺はギルドに所属しているから、取引そのものじゃなく仕事として受ける。相手を探したり、値段交渉をする手間が省ける代わりに幾らかギルドに持って行かれるから、損と言えば損だが。


「商会に所属しているんだよな?」

「はい」


 アレもギルドと同じものだ。

 商会があるから商人も不慣れな土地での商取引が出来る。

 様々な町に商館を置いて、土地の人間として根差すことで、信用を得ているんだな。


「だったらコイツらは覚えておいた方がいい。安全な都市から出て、色んな所を巡る以上、普通じゃ手に入らないものを見掛けることがある。そういう時、ちゃんとした知識があればただ指示に従って歩き回るだけじゃなく、自分自身で稼ぐことが出来るようになる。多分、商館の荷捌き場にでも持って行けば買い取ってくれるんじゃないか?」


 不思議そうな顔でベラが俺の手元を眺めていたが、ハッとして調理へ戻っていった。

 それから完成するまでの間、彼女は時折上の空になりながら、ちょっとだけ焦げた食事を用意してくれた。


    ※   ※   ※


 「行ってみたい所があるんでけど、ちょっと寄り道していいですか?」


 翌日、もうそろそろ目的地へ到着という所でベラからの提案があった。

 ずっと考えていたことらしい。


「あぁ。夜には市壁の門が閉じられるだろうから、それまでには辿り着けるようにな」

「大丈夫です。そんなに遠くじゃないですから」


 遠くじゃなかったが、道中は過酷だった。

 道からふらりと外れたかと思えば、獣道にもなっていない林の中を通り、危うく落ちそうになった崖を縄で降り、谷間を少し進んだ先。

 大きな木が一つ、川の畔で対岸にまで枝を伸ばして立っていた。


「こいつぁ……」


 先の野営で俺がベラに見せた木の実が川を流れていく。

 そこの木から落ちたものだ。

 視界を何かが掠めて目をやれば、リスが岸辺から身体を伸ばして、引っ掛かっている木の実を咥えて持って行った。


「凄い量だな。こんなにデカいのを見たのは初めてだ」

「どう、でしょう……?」

「ははっ。ベラ、こいつを全部売り捌けば結構な儲けになるぞっ。あぁ、まずはそう集めなくていい。モノを確かめて貰う為に幾つか持って行って、商会に売り込むんだ。安定的に採取出来るが、買わないかってな」


 見る限り、渓谷への入り口は崖を昇り降りするしかない。

 余程悪路に慣れた者でなければ運び出す事は難しく、ベラにはそれが出来るだけの能力がある。


「都市からも近いんだ。無理して運び屋なんぞやる必要はなくなる。いいか? こいつは結構な値で取引されるものだ。特に錬金術師が欲しがる。そういう奴を見付けて独自にやれればもっと儲けは大きくなるんだが……」


 と、少々熱が入った所でベラが微妙な顔をしているのに気付いた。

 ずっと縮こまって生きてきたんだ、ようやく切っ掛けを得られたとはいえ、すぐに何もかもは変わらないか。


「自信がないか」

「……はい」


 半笑いの表情。

 まあ、いきなり商売をやれと言っても難しい。

 ずっと言われるまま働いていたんだからな。


「やっぱり商会を抜けて冒険者になってみるか? ギルドに任せるのならある程度は引かれるが、ウチの連中なら信用してくれていい」

「わ、わかりません。けど」


 そう。


 けど、って言葉が出る様になったんだよな。


「ロンドさんと居ると、なんとかなるような気がします」

「そいつはどうも」


 続く言葉はお互いに呑み込んだ。


 折角なんで俺も幾らか失敬して、また崖を登って林を抜け、街道へ戻った。隠しておいた荷物を回収して歩き出す。


 ベラとの契約は、商会のある都市へ辿り着くまでだ。

 ちょいとおまけして今晩飲みに行くくらいは出来ても、明日や、そのまた明日も一緒とはいかない。

 俺もクエストを引き受けている身だからな。

 アリエルに無理を言った分、何よりその内容から、途中で放り出すなんてことは考えられない。


 ただ、まあ。


 少し前を歩くベラの、巨大な荷物を見上げる。

 殆どは麦だ。粉にして、保存も運搬もし易くした品。

 そんなものを大回りしてまで集めさせる仕事にどんな意味があるのか。幾らかそれらしく、粉に埋める形で陶器なんかも一緒に運んでいるが、そういうもののついでにやってるんですと言い訳をしている様に思えてならない。

 やるなら、ガラスか青磁器だ。

 こんな近くで陶器を集めても大した金にはならないだろうに。


「コナ、か」


 彼女は調味料と言っていた。

 麦粉に交じった小さな袋。

 遠方から届けられた希少な香辛料なんかは高値が付く事も珍しくないが。


「…………ん、どうかしましたか?」


 振り返ってこちらを見る、ベラの純朴そうな表情。

 卑屈だったり、自信が無くて気弱に振舞いつつも、魔物相手にはしっかりと戦えるだけの逞しさを持つ女。


 嘘はないと思う。

 なら、誰が嘘を吐いているのか。


「いやなに。この臨時収入は、護衛の報酬に上乗せされるべきかと思ってな」


 あまり期間を延ばすことは出来ない。

 ちんたらやっていて本命に間に合いませんでしたじゃ話にならないからな。


 ただもう少し、彼女の為に働いておこうかと思っただけだ。






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