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馬鹿騒ぎの後に

 景気付けに酒場へやって来た。

 というのも、誘いを受けたもののベラがガチガチに緊張してしまって、このまま強行すると勢い余って俺が締め上げられそうだったからだ。


 身も心も、酒でもう少しほぐしておきたい。


「す、すみませんっ。もう一杯よろしいですかっ」

「おう。おーいっ、こっちもう一杯頼むーっ」


 後の事も考えて酒量を抑えている俺に対し、ベラは凄まじい勢いで酒を飲み乾していく。ぐびりといったらもう空だ。その内身体の中が全部酒に入れ替わるんじゃないかと思えるくらいに飲んでいる。

 すっかり赤ら顔だが、照れてこうなっているのかがちょっと分からない。


「そんな緊張するこたないんだぞ」


「い、いい、いえっ。ロンドさんに、こんな醜女を抱かせていいものかって、なんか、今更になって物凄い後悔が……っ」

「うん?」


 こらこら。


 酔うに任せていたら、酒精が悪い方へ入っていったか。


「お前はいい女さ。素直で誠実、さっきも言ったが我慢強いし、商人としちゃどうか分からないが、冒険者として見るなら十分成功していける器がある。ちょいと卑屈が過ぎるとも言えるがな、そういうのは追々馴染んでいけばいい話だろ」


「……ありがとうございます」


 変な間があった。


「あっ、お前今の信じてないだろ」


「そんなことないです」


 口を広げ、顔が固まる。

 仕事について聞いた時と同じ反応だ。こういうの、もっと器用な奴なら誤魔化しと言えるんだろうが、ベラのは反射的なものに思える。

 虐待する親元から逃げてきた冒険者によくある反応だ。

 生きる為、人は自分すら誤魔化せてしまう。


 それを指摘して止めろと言った所で変えていくのは難しい。


「よぉし分かった。俺が今からお前がいい女だって証明してやる」


 にやりと笑って立ち上がった。


「ベラ。俺はいい男か?」

「え? ぁ……はいっ。とても素敵で、いい、男です」


 今から抱こうって女から頬を染めて言われるのは気分がいいな。


「ならこの店で飲んでる全員がそう言うと思うよなあ?」

「………………えっと?」

「見てな」


 俺は取り出した銀貨を今入って来た客へ向けて弾いた。

 痩身の男は上手く受け取り、俺を見る。


「よお。アンタ、この店で一番いい男が誰か分かるかい?」


 問いかけに彼は笑って即答した。


「アンタさ。最高のいい男だね」


 受け取った銀貨を指の上で転がしながら応じる様を、どうだとベラへ見せ付ける。呆気に取られているが、これっぽっちじゃ駄目だよな。


「おい」


 隣の席で飲んでる奴らへ同じ様に銀貨を弾く。


「ははっ、いい男じゃねえか!」

「早ぇよ! っはは! だがいい答えだ!」

「いい男に乾杯!」「応さ乾杯!」「ははははは!!」


 ついでに向かい側へ、そして料理を下げに来た店員へ、小賢しく動き回ってもっと貰おうとする奴には更にくれてやった。代わりにドンドンと場を盛り上げて、話を広めていってくれる。

 やっている分にも楽しいさ。

 金なんざ溜め込むもんじゃねえ。

 明日死ぬかもしれない身で、今日を惜しんでどうするよっ。


 ベラから受け取った金なんてとっくに越えて、ありったけの硬貨を弾き続けた。


「アンタが一番さ!」「ああ最高の男だ!」「ひゃっほうっ、ありがとよお色男!」「いい男に!」「おおおっ乾杯!」「かんぱーい! はははは!」「景気がいいじゃねえかっ、いい男よお!」「こっちで一緒に飲もうじゃねえかあ、いい男!」「は、はははははっ! こりゃあ最高だっ、アンタは本当に馬鹿だが、本当にいい男だよ!」


 最後にあの痩身の男が手を叩いて笑い出した。

 こんな馬鹿なことを言わせる為だけにどれだけ使った。

 店の人間なんざ呆れて大笑いしてやがる。それなりに静かだった酒場はすっかり大騒ぎ。誰ぞが演奏を始めれば、俺を讃えていい男だなんて詩にしやがる。


 だがいい。

 こういう使い方が一番良い。


「それでよおっ、お前ら!」


 既に店の全員が俺へ注目している中で、再び声を張る。


「この店の中で一番のいい女は誰か、分かるよなあ!?」


 ベラを引き寄せ、屈ませて、真っ赤になってる頬へ口付けして見せた。


 痩身野郎はもう腹を抱えていた。


「そこの女さ! アンタの抱いてる女こそ最高の女だ!」

「応ともさ! そんないい女見たこと無いぜっ!」「こっち来て酌してくれよお、いい女!」「羨ましいなあお二人さん!」「俺ァあんたみたいな女大好きだぜえっ!」


「おいおい最後の奴っ、こいつは俺が今から抱こうってんだからなァ! 口説くんじゃねえぞっ!!」


 言うと連中大笑いして、発言した船乗りらしい大男の頭を揉みくちゃにし始めた。

 それを見て皆で笑いながら振り返る。


「どうだベラ!? ここに居る全員っ、お前をいい女だって言ってるぜ!! まだそれが信じられないか!?」


 彼女はもう目を回しかけていた。

 こんな風に騒いだこともないのかもしれない。

 ふらふらと足元も手元も落ち着かず、照れているんだか酔っているんだかも分からなくなっている。

 そこで手を緩める俺じゃないぞ。


 さあ、と更に煽り立てようとしたら、泣きべそ搔いたベラがしがみ付いて来た。

 かすれ気味の甘い声が俺の耳元を撫でてくる。


「わ、分かりました…………もう分かりましたからぁ……っ」


 もう懇願だった。

 俺はそれを見て大きく頷き、ベラもほっと胸を撫で下ろす。


 あぁそうだなっ!


「おーいっ! まだ分からないってよお! お前ら賛美ってのが足りてねえんだよ! もっと景気良く褒め称えて見せろ!!」


「あーーーーっ!! もう分かりましたっ! 私はいい女ですう!! だからもう許してくださああい!!」


「あっはははははははははははははははははははははははははははははははは!!」


 最後に店側が運んで来た陶杯を全員で掲げて。


『いい男と!』

『いい女に!』


『乾杯!!』


 飲んだ!

 笑った!

 叫んだ!


 歌って踊って!


 そして!


    ※   ※   ※


 抱いた!!


 そして――――!!


    ※   ※   ※


 ダァン――――!! と、俺は崩れ落ちていた!!


「なん、だと……!」


 どれだけ時間が経っただろうか。

 裸の俺と、裸のベラ。否定のし様も無く激しく絡み合って過ごした数刻の後、なんと、まさか、俺が……っ!


「俺が先に……っ、限界が来るなんて……ッ!!」


 搾り取られた。

 凄い勢いで搾り取られた。


 すいません今ちょっと出てる所なんで動き緩めて貰っていいですかって言ってもハァハァ発情した顔で俺を見ながら腰の動きは止めてくれなかった。

 何度も何度も身体を震わせて、これで満足したかなんて思う事すら忘れたまま、またベラが腰を振り始め、俺がちょっと休憩ですって言ったらもじもじしながら全身を舐め回された。


 ベラの性欲は底なしだった。

 あと好奇心も凄かった。

 危うくロンドさんの処女が奪われるところだった。


 そこだけは後生ですから勘弁してください。本気でお願いして、代わりにあっちのあっちをあっちした。


 体格では向こうが勝っている。

 つまり、事の主導権は主にベラが握っていた。

 体力でも、腕力でも、精力でも、彼女が強かった。


 俺は今日、初めて抱かれるという感覚を得た。


 多分、あの日の夜もこうだったに違いない。


「………………………………まずい、視界がぼやけてきた。ベラっ、ちょっと待った! これ以上は命が危ない気がしてきたっ! あっ、ちょっと待ってそこは駄目ぇっ!」


 どうにか彼女を説得し、心を落ちつけさせ、共に寝台へ入ったのは更に一刻後。

 欲求こそ収まったが、俺を心底大切そうに抱き締めながらベラは甘えてきた。


 なんかこう、幼少期にでも帰ったような気分だ。


 今でこそ三十越えたおっさんだが、おっさんにだって幼児だった頃はある。そういう時にはな、おっさんだって母に抱かれて寝ていたもんだ。

 なんとも懐かしい気持ちに浸りながら、俺達は汗だくのまま眠りへ落ちていく。


「……ロンドさん」

「……なんだ」


「こんな幸せな気持ちで眠るの、初めてです」

「……やっぱ、最初の時の俺ってどっかおかしかったか?」

「あっ、と……多分、あの、今更ですけど、調味料を使ったせいかな、って、思います」


 なんだそりゃ。


 思いつつも頭はもう疲労に負けて眠り始めていた。

 調味料。

 調味料、ねえ。


「それについては、また後でな。あぁそれと……コレだけじゃない、よな?」


「……はい。お酒も、です。あんなに笑いながら飲んだことはありませんでした。楽し、かった。はい。楽しかったです。本当に」


「泣く奴があるか。はは」


「ぐす……ん、はいっ」


 結局夜が明け始めるまで睦言を繰り合って、小鳥が鳴き始めるのを聞きながら、俺達は眠りに落ちた。






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