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コボルドの巣

 倒れたコボルドの投げ付けてきた手槍を盾で逸らし、側面へ回り込もうとしてきたもう一体をパイクの矛先で牽制する。

 背には神官が一人と魔術師が一人。

 盗賊は、上手く紛れて身を隠したな。


 前衛のアタッカー二人が次々と敵を処理していくのを確認しつつ、奥の、動物の骨で作った柵向こうで弓を構えているコボルドを発見し、魔術師へ指示を送る。


 回り込んで来ていたコボルドの気が逸れる。

 が、


「っ、だあああああああ!!」


 叫んだ。

 意識がこっちへ吸われる。

 その背後へ回り込んでいた盗賊が背中へ飛び付き、首を掻っ切る。


 後方から飛んだ雷撃が弓手を吹き飛ばしたのを見つつ、周辺警戒。良し。


「前へ出るぞ! 前衛そのまま!!」


 暗に出過ぎるなと伝えた上で後衛を引き上げる。

 別経路からも戦う音が聞こえてきた。

 味方は好調か。

 撤退合図の音は聞き逃すな。

 前へ出るにも、一組だけ出過ぎていたら敵の攻撃が集中される。見えなくとも感じろ。開始前に味方の様子は十分に観察していた。息を合わせ、じわじわと前進し、且つ攻め時を見落とさず、刈り取っていく。


「防御態勢! 前衛下がれ!」


 敵が集まって来た。

 こっちを先に処理するつもりなら、しっかり守って敵の数を引き寄せてやるだけで味方は楽になる筈だ。


 遮蔽物から盾を翳し、魔術師と一緒に覗き込む。

 息を合わせて引っ込めた上で、出した杖から雷撃を見舞った。


 盗賊がまた姿を消している。

 いい仕事だ。


 下がって来た戦士が短弓を受け取って矢を射る。狩人ほどの精度はないが、脅威があれば敵は前へ出てこれない。怖がらせるってだけで、前線は長く維持出来るもんだ。


 後方確認。

 右、左、上。

 良し。


「今の内に水を飲んでおけ」


 順番で攻撃を回しつつ、補給を行った。


    ※   ※   ※


 迷宮低層の入り口付近で、コボルドの巣が発見された。

 まだ未完成な状態だが、若くて血気盛んそうな奴らとのことだった。


 ギルドはすぐさま拠点攻略クエストを組んで、冒険者を集めた。

 相手がコボルドとあってミスリル以上の強制参加はない。むしろ、出張って貰っちゃあ俺達の稼ぎが薄くなる。

 条件はシルバー以上、難易度はそこそこ高い。

 それ以下の者も後方支援や荷物持ちで雇って貰えるが、トゥエリはともかくエレーナはまだまだ向かない。


 コボルドの巣は、基本的に低層の奥地で作られる。

 入口付近に出来るってのは、連中が迷宮から飛び出そうとしてる証拠だ。

 一度完成すると攻略難度は跳ね上がるが、未完成なら二十人程度の冒険者で四方から攻めかかれば処理し切れる。怖いのは援軍で、奥地からやってくる可能性のある連中を今も複数名の盗賊と狩人が見張っている。


 罠を張り巡らせ、誘い出した一団を一網打尽にした所から戦闘は開始された。


 俺が所属しているパーティは正面を任された。

 一番守りの硬い場所だ。

 こういう場所を力押しにすると被害が出る。

 しっかり守り、相手が攻撃に疲れた所で前進し、また身を固めて、嫌がらせを繰り返す。


 本格的に攻めるのは別動隊が内部へ入り込んでからだ。

 後方を荒らされれば指揮系統なんて維持出来ない。

 今の内から敵をよく観察し、突入後に厄介そうな奴から丁寧にそぎ落としていく。弓持ちは最優先だ。ちょっとした気紛れや見落としで味方が死ぬ。ドルイドの類は見当たらないが、一応は警戒する。

 やがて右側面の部隊が敵拠点へ雪崩れ込んだのを見て、俺達は一斉に叫びをあげて猛攻を開始した。

 腰を抜かしたコボルドをアタッカー二人が薙ぎ払っていく。

 神官、魔術師をしっかり保護しつつ、俺と盗賊でトドメ確認を回しながら前進していき、そうして先行した別動隊が大型コボルドに吹っ飛ばされていくのを見た。


「っち、焦りやがって……っ」


 拠点内は雑然としていて、小型の隠れる場所が多過ぎる。

 俺はアタッカー二人を下がらせ、木の盾に装着(マウント)していた爆裂のこん棒を引き抜いた。


 こいつの威力は強力だが、改めてタンク向きじゃないと考えさせられた。

 なにせ爆発すれば音がうるさいし、後衛から前衛への視線を塞ぐ。爆発の瞬間にチカっと光るのも神官や魔術師の目に良くない。

 前の方で派手に暴れてもらうには良いが、俺だと使い処が限られるのが問題点だ。


 だが、あって困るもんでもない。

 特に今みたいな状況ならな。


「後方の広い場所まで俺が引き付ける! 盗賊っ、お前は援護を! 他は一気に下がれ!!」


 声を張った事で大型コボルドの注意がこちらへ向いた。

 そうだ。

 来いっ。

 そっちのふっとばした連中なんざ気にするな。


 分かりやすく歩いて行って、腕を広げてやる。

 来た。

 叩き付けられたこん棒を後ろへ転がって避ける。


 コボルドが笑った。

 笑った、な。


「っははは!」


 嗤い返してやる。

 どうだいって具合に腕を広げてやった。


 そうして分かり易過ぎる構えを取ったコボルドの一撃を、今度は正面から盾受けする。腕を支え、肘で受け止め、肩と胴体と腰で耐えて、脚を踏ん張ってしっかり立つ。

 っっつう……! 腕が痺れた! けどな!


 引いたこん棒を警戒しつつもう一度腕を広げる。

 奴も哂った。

 それを確認してから背を向けて一気に走り出す。


 僅かに遅れて追ってきた。

 半ば出来上がっていた門を潜れば、そいつに収まり切らない大型コボルドが門ごと吹っ飛ばして追ってくる。

 視界が開けた。

 門の上から狙ってきた弓手を盗賊が処理してくれる。

 正面、障壁を張る神官と魔術師。アタッカー二人は、左右か。


「イノシシ狩りだ! 散れ!」


 指示通りに神官と魔術師が道を開けた。

 その上で俺も後ろからすくい上げる様に振られたこん棒を横っ飛びで回避する。逃げるのは当然、奴がこん棒を持つ右側だ。左へ跳んだら空いた手に掴まれるだけだからな。

 急制動を掛けた大型コボルドがしっかり俺を見定めてこん棒を振り上げる。

 叩き付けられるそいつへ今度は爆裂のこん棒をぶち当てた。


「今だ!!」


 脚が止まった。

 爆発の光で目が眩んでいる。

 立ち上る煙で視界も狭まった。

 吹っ飛ばされた敵のこん棒が半ばからぶっ壊れていた。今なら無手。そこへ、


「っっっ、っだあああああああああああ!!」


 叫びをあげて踏み込んでいく。

 こん棒を放り捨て、パイクを握った。

 握り直し、掴み掛かって来た手へ斬り付ける。

 コボルドの視線は完全に俺へ捉えられていた。背を丸め、農作業でもする爺みたいになって、周囲の事は忘れてる。


 そこへ左右から駆け寄ったアタッカー二人が斬りかかり、脇腹を突き刺し、脚を斬り付け、魔術師からの雷撃が飛んで頭部を直撃した。


 下がる。

 下がる。

 倒れていく奴に巻き込まれない様、気絶する直前に伸びてきた腕を避けつつ下がり、そのまま背を向けて神官と魔術師の所へ戻る。

 行き過ぎて、拠点側を向いて盾を構える。

 敵は、いない。

 盗賊が門の上で腕を上げていた。

 あっちは終わったか。こっちは?


「トドメ確認終わったー」

「しっかり仕留めたぜーっ」


 アタッカー二人からの報告を聞いて、集合の合図。

 盗賊には引き続き周辺を警戒して貰った。


「伏兵や援軍が来るかもしれない。早めに回復を頼む」

「はいっ」


 若い神官だが筋はいい。

 こっちの指示もちゃんと聞けるし、後は加護の不安定さと経験を積めば、すぐゴールドにはなれるだろう。


 神官の昇格は早い。

 だが、あまりにも早過ぎると経験が詰めず、前線が崩壊した途端に何も出来なくなる奴も多いと聞く。

 安全に、しっかり守られ、戦いの前と後、落ち付いた状態でのみ仕事をする。

 それじゃあ確かに育たないんだろうな。

 かといって、フィリアみたいに窮地を演出するのは御免だ。

 なんとも難しい問題だった。


「おおいっ、戦利品回収始まってるぞーっ。俺らもさっさと混ざろうぜえ」


 盗賊が気の抜けた事を言ってくるが、気持ちは分かる。

 建前上は山分けって話になってるものの、こっそりガメる奴は絶対に出るからな。

 けどまあ、他ギルドとも合同で行われたこのコボルドの巣襲撃は、ウチ持ちのクエストだからな。


 同行して後ろでまとめ役をやっていたアリエルが、がっつり身体検査と周辺の捜索を行った事で、ほぼ全ての隠蔽は暴かれ、俺達は公平な報酬を得ることが出来た。


 アイツ、他の職員に尻の穴まで確認させるんだからよ。

 しばらく迷宮内では、参加者の呻き声やら悲鳴やらが響き渡っていた。


    ※   ※   ※


 仕事終わりにはやっぱり、噂になってるラガーを出す店へ行こうってんで、組んだ連中に後方で働いてたトゥエリを始め数名の若手を連れてフィリアの店へ乗り込んだ。


 店は好調、俺達の懐具合も好調、ならば思いっきり飲むのが冒険者だ。


 なんて思っていたんだが。


「あー…………店を間違えたか?」


 昨日まで大盛況だった店には数組が見えるだけで、混んでいるとは到底言い難い。

 既に時頃は夜。

 酒飲みがこんな店を放っておく筈はないって思ってたんだがな。


「フィリア……?」


 店先で絶望に打ちひしがれていた女経営者を発見し、俺が声を掛ける。

 がばりと顔を上げた彼女がしがみ付いてくるのを受け止めつつ、訪ねた。


「何があった?」

「なんか」


 ぎゅうっと締め付けられ。


「なんか新しい味のビールが話題になって、そっちに全部持ってかれたのおっ!!」







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