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陽の向こうへ

 「うわ、まだ飲んでるし」


 朝日を拝みながら寝起きに一杯やってると、店から出てきたエレーナが笑いながら隣に座って来た。昨日皆で空にした樽の上、並んで街並みを眺める。

 まだ日の出から間がない。

 農村や、若い商人なんかはもう動き始めてるだろうが、冒険者が中心のクルアンの町じゃあ、まだまだ皆眠りの中だ。

 奥でフィリアや他の連中も酔い潰れて寝ているが、店の女将さんは起きてきて片付けを始めてる。遅くまで付き合ってくれた店主も、最後には混ざって乾杯してたんだから、まあ許してくれよ。


「冒険者の血と肉は」

「酒で出来てるってんでしょ。覚えたわよ、流石に」


 あくまで寝起きの冷えた身体を温める程度だ。

 散々騒いだから、後はもう静かに飲んでいたい。


 エレーナはまだ酔いが残っているのか、頭を押さえて酒臭い息を吐いた後、大きく伸びをした。


「はぁ……っ」


 そうして少しは張りを取り戻した顔で、ずっと手にしていた杖を大事そうに抱え込む。


「あのさ」

「おう」

「色々考えたんだけど」


 クルアンの町に風が吹く。

 早朝のやや冷たい風に一度は身を縮めたエレーナだったが、ふっと息を吐くと再び胸を張った。


「やっぱ、もうしばらく今のパーティに居ようかなって思うの」


 俺は返事をしなかった。

 俺が決めることじゃない。

 そして、彼女はしっかり考えている。


「多分さ、一度抜けると私はもう二度とあそこには戻れないんだよ。アダマンタイト、冒険者の最高峰、そういう人達の実戦を見る機会なんて滅多にないでしょ?」


 確かにそうだ。

 ザルカの休日は大量の雑魚と、将軍級が出てくるだけで、深層の魔物はほぼ見ない。そんなことになっていたらとっくにクルアンの町は崩壊してるしな。


 だから、ゼルディス達のパーティがどんな戦いをしているのか、その本気の所は俺だって分からない。想像も付かない。精々雪山で、連中にとっての雑魚掃除を見たくらいか。


「……役に立てないのは悔しいけど、あのリディア=クレイスティアのやってること、半分も理解できないけど、見てればちょっとは分かることもあるかもだし。分け前もそこそこ貰えて、良い装備も揃えられるし」


 今回はその杖に助けられたしな。

 普通の、カッパーの神官だったらあっという間に俺達は食われてた。


「道具には頼り過ぎるなよ」

 一応は言っておく。

 強力過ぎる装備は腕を鈍らせるし、自分の実力を見誤る。

「うん……うん、分かった。でもさ」


 と、エレーナはその杖を見上げた。


「私、神官だから、やっぱり一番良い装備を持ってたい。腕は磨くよ。カッパー未満、新人よりも酷い神官、それが今回よく分かったし。だけど、だからって私の不足を理由に誰かが死んじゃうのは嫌だなって思ったの」

「そうか。あぁ、そうだな。その考えは神官らしい」

「ふふっ、そうでしょお」


 リディアも俺と低ランクぶって迷宮へ潜った時、杖だけはいつも通りにしていた。

 万が一はどこでだって起こり得る。

 例え道具頼りと言われても、背負っているのが仲間の命であるのなら。

 その上で実力を磨けるなら何の問題もない。


 なるほど。

 言われてみればその通りだ。


「いい考えだ。今回初めてお前に教えられたな」

「そう? 普通じゃん、こんなの。カッパーとかアイアンだって、ちょっとでも良い武器欲しくって鍛冶屋巡ったりするって、昨日皆が言ってたしさ」


 まあでも、使い分けは重要だな。

 ディトレインの形見分けで貰ったこん棒、アレには随分と助けられている。だがタンクとして使う場合には欠点もあるから、まだ自分でも使いこなせてるとは言えない状態だ。

 やっぱりパイクの扱いの方が慣れているし、幅も広い。

 オリハルコンの矛先みたいに、物を同じにしたまま択を増やせると良いんだろうか。


「だからさっ」


 少し自分の思考へ没頭しかけていると、勢い良く立ち上がったエレーナが数歩先で振り返る。

 立派な杖を手に、これが今の私だと立つ彼女の背へ、登り行く陽の光が降りかかる。


「足手纏いだけど、嫌われてるかもだけど、しがみ付いてでも自分の糧になるもの見付けて、このミスリルのランク章に見合うだけの実力を付けてやる!」

 にっ! と眩しいくらいに無邪気な笑みを浮かべて。

「そしたらさあっ、その時は私がおじさんの、本当の相棒になって、キャリーしてあげるからっ!」


 伸ばしてきた手に、こちらも立ち上がって、けれど握った拳を向ける。

 手は取らない。取られない。

 だってよ。


「生意気言ってんじゃねえよ。俺は実力でそこまでのし上がってやるつもりだ」

「ふふっ…………そうだね、じゃあ、待ってるから」


 拳を合わせる。


「おう、お前が俺に見合うだけの神官になってたらな」

「もうっ、そこは未来の相棒を信じろよー」


 笑い合って、背を向けた彼女を見送る。

 行く先は、まあ分かる。


 きっと神殿だ。

 魔力を補充するにも、修行をするにも、結局あそこが一番良い。


 ただ、陽の光が眩しかったのか、一度怯んだみたいに腕を目元へ翳し、こちらを振り返った。

 息を吸って。


「じゃあね、おじさん。また!」

「おう。またな」


 負けるもんかって、走り出した。

 その背中を眺めながら俺は酒瓶を拾い上げ、一口含む。


 あぁ、最高の味がしたさ。







エレーナ編、完。

 次はレネ編。

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