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私は貴方をお守りします

 パーティを結成しようと噂を流し、各所で声を掛け始めた頃に彼女は来た。


「私を、貴方のパーティに入れて下さいませんか」


 カッパー以前の見習い神官、まだ修練所から出てもいない身で飛び込んでくる者は結構稀だ。

 大抵は修練所通いをしながら他職の連中とも交流し、同期で組んでギルドへ登録をしにくる。修練過程には合同で行うものもあり、自然と見習い冒険者は寄り集まる。

 最初からどこかのパーティと繋がりを持っていたり、口利きで修練所へ入り、最低限の過程で抜けてくる場合なんかは違うが、俺の所みたいなぽっと出のパーティへ入りたがるのはかなり珍しいんだ。


「今の調子で行けば、十日後の試験を一番の成績で突破出来ます。職業は神官、出身は聖都の方ですが、貧民の出です。戦士職の修練にも参加して鍛えていますので、即戦力として扱っていただけるものと自負しています」


 いかがでしょうかっ。


 と表情をキリリとさせてくる少女に俺は顎に手をやって悩んだ。


 パーティは作った当初が一番混乱するし、俺も代理でリーダー仕事をやることはあったが、基本的には二番手三番手として補助して回る側だった。

 つまり、慣れていない状態から始まるパーティだから、運営上での不安がある。


 彼女を迎え入れるのなら外パーティを作って、新人を慣らしていく必要があるだろう。

 いかに成績優秀であれ、魔物への生理的な恐怖は修練所の用意した疑似的な環境では味わえない。近頃は装備類の発展やら、戦闘技術の体系化なんかで効率良く冒険者を育成出来る様になったと吹かしているが、そうやってカッパーやアイアンを通り抜けていった若手が迷宮中層で呆気無く死ぬ話も多い。

 効率が悪くとも、迷宮低層でしっかり経験を積んだ方がいい、ってのは老害的な考えなのか、正直判断に困る所ではあるんだが。


 無論、新人育成はしていくつもりだ。

 ただもうちょっと間を取ってからと考えていたんだ。


 俺が考える素振りを見せたからか、彼女はやや表情を硬くして更に言葉を募って来た。


「貴方のギルドを設立するという理念に共感し、その活動にいち早く参加したいと考えています。私は新人ですが、神殿での仕事をこなすことで報酬を得て、必要な装備も既に揃えてあります。経験不足な事は否めませんが、足を引っ張らないよう頑張りますので、どうかご検討下さい」


 なんとも若々しい、真っ直ぐな熱意に表情が緩む。

 こういうの、好きなんだよな。


「分かった。是非こちらからもよろしく頼む」


 外パーティも同時に設立し、その育成を行う。

 目標が目標だから、急ぎ足なくらいで十分さ。

 彼女の若さに尻を叩かれるような想いで了承し、考えを改めていった。


「っ、っっ、はい! ありがとうございますっ!」

「あぁ。こちらこそ」


 ちょっとだけ出てきた、年相応な喜びぶりに笑みが濃くなる。

 うん、良い顔だ。


 エレーナもまだまだ腕を磨かなけりゃいけない段階だから、経験を積ませる上で彼女と組ませてもいいかもしれない。

 となると後はしっかりと面倒を見れる女の冒険者が欲しいか。

 レネといい、フィオといい、女性率が高くなっているからな、男の俺じゃあ調整し辛い面も出てくるだろう。


「それでは、失礼します」


 おう、またな。

 と、俺は言おうとした。


 だが彼女は綺麗な歩みで、座っていた俺の横に付き、真っ直ぐに立って見せる。


「どうした?」

「いえ。神官として、パーティリーダーを護衛致します」


「うん……? そうか」

「はい。ご安心下さい」


 真面目そうだけど、なんだかちょっとズレた子。

 最初の印象はそんな所から始まった。


「それと、まだ名前教えて貰ってないんだが。あぁ、俺はロンド=グラース。よろしくな」


 神官の少女は驚いた顔で硬直した。

 頭真っ白か。


「ほら、名前名前」

「は、はいっ」


 キリリとしつつも、失敗のせいか頬を朱に染めて、成績優秀な神官がようやく名乗ってくれた。


「私は、エレオノーラと申します。ロンドさん、よろしくお願いします」

「あぁよろしく、エレオノーラ」


    ※   ※   ※


 その十日後に修練所を最高評価で抜けてきた彼女が、正式に俺のパーティへ加わったんだが。


「ど、どうして私は外パーティ? というものに入るんですかっ?」


「まずは経験を積んで欲しい。最初の内はプリエラとかグスタフがリーダー役をやるが、安定してきたらお前達新人だけでパーティを回して貰うつもりだ」


「そうではなくて、私はロンドさんの護衛をするつもりで」


「ははは。本隊は本隊でちゃんと神官が居る。言ったろ、まずは修練所の垢を落とす所からだ。結果を出して実力が付いたなら、こっちに合流して貰うつもりだからさ」


「折角修練所を最高評価で出てきたのにぃ…………」


 恨みがましく見ても駄目です。

 第一、プリエラとグスタフが声を揃えて引っ張れと言うのなら、すぐにでも本隊へ迎え入れるつもりで居る。


 そもそも神官が修練所を出るっていうのは、一人前として仕事が出来ることの証明だからな。

 加えてエレオノーラは最高評価。

 おそらくこっちに加えても十分働いてくれるくらいの実力はあるだろう。


 ただ、それ故の甘さというか、泥臭さが足りていないように見える。


 ゼルディスのパーティやルークのパーティみたいに、強烈な強みがあればいいんだが、ウチはまだまだ始動したばかりで仕事内容だって完璧とは言い難い。

 急場に陥って足を引っ張る可能性が残ったままじゃあ、迷宮までは連れて行けない。


「まだ冒険者になったばかりなんだ。焦らず行こう。ちょうど同期の魔術師の子も入ったから、しばらくはその子と一緒にクエストをこなしてくれ。いいな?」


 すっかり膨れてしまった成績優秀な神官は、手にしていた杖を強く握り込み、私怒ってます、とばかりの表情になって姿勢を正した。


 歳相応で可愛らしいよ、とは流石に言わなかったが。


「分かりました。ロンドさんと同じシルバーランクまで行けば問題ありませんね。半年以内に辿り着いてみせますよっ」


 その調子で頑張れ、と言ったらますます頬が膨らんで、後ろで見ていたプリエラが大笑いした。






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