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絶海の孤島

 浜辺に俺とブリジットは座り込んでいた。


「ねえリーダー」


 我がパーティメンバーにしてカッパーランクの魔術師であるブリジットは、膝を抱えたまま尋ねてくる。


「このまま死んじゃうのかな?」


 難しい質問だ。

 流れ着いてから既に結構時は経ったが、俺達の乗っていた船の姿は砂粒程にも見えてこない。

 助けが来るかどうか、という点では何とも言えないからな。

 ただまあ、


「食い物は沢山あるから、なんとかなるさ」


 襲ってきた猛獣を返り討ちにし、今ちょうど燻製にしている所だ。


    ※   ※   ※


 航海は順調だった。

 マリエッタの体調も良い状態が続いていたし、気の良い船乗り達とは毎日だって飲めや歌えやで楽しく付き合えていた。

 一部、船酔いで倒れていた面々も居るが、さしたる問題でも無い。


 そう、問題と言えるものが起きたのは、内海を出掛かった頃に起きた。


 岩場の影から飛び出してきた四隻からなる海賊船があっというまに俺達の船を取り囲み、襲い掛かって来たんだ。


 とはいえこちらにはミスリル以上の実力者がごろごろ居る。

 リディアは当然のこと、現在シルバーランクとはいえオリハルコンへ足を掛けていたシシリー、ミスリルランクならエレーナにプリエラにアルメイダ。

 実に頼もしい。

 俺も微力ながら海賊狩りへ協力していたんだが、流石は海を主戦場としている者達と言うべきか、波を操る魔術師が居てブリジットが海へ落ちた。


 しかも連中、狩人と言って良いのかは分からないが、鮫を従えてるのまで居たんだ。


 あわや窮地といった所へ俺が飛び込み、鮫は退治出来たものの。


『くそうっ、撤退だ!!』


 海賊の船長が船から飛び降りると同時に周囲の海が冗談みたいに流れ始めた。

 波を起こすのと似たようなものか。

 荒れた海の中、助け出したブリジットを抱いてどうにか船へ登ろうとしていた俺もその流れに飲まれ、あっという間に船が見えなくなった。


 一応、船を飛び降りた海賊の船長がリディア辺りの鎖で足を絡め取られ、横っ腹に良い音立てて叩き付けられてたのは確認したんだが。


 あまりの事態に錯乱するブリジットをどうにか宥め、流され続け、この島へ辿り着いた。


    ※   ※   ※


 立ち上がって身体を伸ばす。

 海の中ってのは難儀だな。

 素潜りをしているだけならともかく、陸地の見えない中延々と流され続けるってのはかなり疲れた。


 幸いにも戦闘中だったから装備はある。

 海に沈まないよう俺達を支えてくれた木の盾や、獲物としてのパイク、常から身に付けるようにしている非常用の道具類。水筒もある。非常食は、流石に長時間水没してたからな。後で魚を取る時の餌にしよう。


「まずは周辺を調査しよう。ブリジットはここで燻製の管理と、助けが来た時の合図、任せて良いか?」


「……えっ?」


 まだ幾分呆けているらしい魔術師の少女は、俺を見上げて不安そうな顔をした。

 普段はマリエッタと共に周囲を明るくしてくれる子だが、こういう窮地は初めてか。


 ブリジットは両手の指を絡ませ合いながら視線を右へ左へやって、悩みながらも訴えてくる。


「…………一緒じゃ、駄目ですか?」


 不安か。

 あぁ、そいつは仕方ない。


「おう。なら一緒に探検と行こう。こんな島を見て回れるなんて、滅多にあることじゃないしな」


 手を差し出すと、素直に握って来た。

 引っ張り上げて笑う。


 指先が震えているが、意外にもしっかり力を掛けてきた。


「トロール帝国と並んで、昔から海賊のお宝ってのは皆こぞって探し回ってきた定番だ。もしかするとここにソイツが眠ってるかもな」

「へ、へぇっ。見付けたら大金持ちですね」

 まだちょっと緊張しているが。

「おうさ。大金が手に入ったら何をする?」


 砂地に突き立ててあったパイクを引き抜き、歩き出す。

 手は、ブリジットが離したがらなかったのでそのままだ。

 何かあったらすぐ対処出来るよう、しっかり気を張って。


「そう、ですね。髪留め、かな」

「なにか決めてるものがあるのか?」

「えっとですね。クルアンの市場でずっと置かれてるものなんだけど、可愛くて、キラキラしてて、でも見た目だけじゃなくて、すっごく効果のあるものなの。私が持つにはまだまだ高級すぎるものだけど、いつか欲しいなって」


 なるほどな。

 俺も経験あるよ、そういうの。


 駆け出しの時は毎日だって店を見て回って、アレを買おう、コレを買おうって品定めしていた。


「なら宝探しを頑張らないとな」


「ふふっ。リーダー、能天気だ」


 ようやく笑ってくれた。

 良い笑顔だ。

 ブリジット、お前のそいつはランクなんて関係無しに得難いものだよ。


「うん! その為にはまず、水場の確保と拠点づくりだね!!」


 一度勢いがついてしまえば、弱気の虫は吹っ飛んでいく。


「分かってるじゃないか。そこで相談なんだが、さっきから拠点は二階建てにしようか、庭に何を植えるか悩んでるんだ。お前の意見を聞かせてくれ」

「なにそれっ、ふふ。リーダー欲張り過ぎだって」

「個人的には大麦が欲しい。というか酒だ。何かこう、魔術で酒とか出せたりしないのか?」

「むーりーでーすっ。あぁ水はなんとかなるかも」


 手は繋がったまま、先の知れない森へと分け入っていく。

 やっぱりまだ、完全には振り切れていないかな?

 でも大丈夫。

 俺が付いてるよ。


「よぉし、それじゃあ最初の目標は酒の原料になりそうなものを見付ける、だ」


「拠点拠点っ。水場ーっ。魔力だって無限に湧いて出るんじゃありませーんっ」


 こうして流れ着いた島での生活が始まった。

 笑い合いながら、冗談を言い合い、助け合い。


 仲間が見付け出してくれるのを、待ち続ける。






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