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帰宅

 いつの間にか所持品が増えたもんだと、マリエッタの大鞄を見ながら実感する。

 未だ冬の続く拠点前、ソリに荷物を載せて、プリエラ先導での移動が始まる。


「ありがとうございましたあ!! ぜんぜぇ……っ!」


 大泣きしているが、あくまで一時帰宅に過ぎない。

 ユスタークとの話が付いたことで、マリエッタは正式にウチのメンバーとなって今後はこちらを主な住処とすることが決まっている。

 十五と言えばもう自立して働いている年頃だからな。

 虚弱だった彼女をやや虚弱にまで育て上げたプリエラの手腕を認め、俺へゴミを見る様な目をしながらユスタークは頷いた。

 負け惜しみは恥ずかしいぜ、おとうさん。

 なんて言ったらまたぶち切れてきやがったが、その様をマリエッタに見られてかなり動揺してやがった。

 どうにも娘には冷静沈着な格好良いパパで居たいらしいので、しばらくこのネタで遊べそうだな。


 とはいえマリエッタが父親を、ユスタークを心配しているのは確かなので、こうして時折屋敷へ戻して一緒に過ごす時間を作れるよう取り計らった。

 後の事は親子でしっかり話してくれ。


 あの日俺へ言えなかった言葉も、ちゃんとマリエッタに言えるのなら文句はない。


 本来はリーダーとして俺が送るべきなんだろうが、執事からお前はしばらく来んな皆ぶち切れしてるから、とにこやかに脅されてしばらく反省中だ。

 悪かったよ。

 ホント、なんだかんだで父親の拳は痛かった。

 つーか今も痛いし。


 そんな訳で見送りを終えて、まだまだ続く冬篭りから一時的な開放を求めて俺はいつもの地下酒場へ逃げ込んだ。

 今回は特に疲れた。


 それにアレだ。

 女率が高いと大変って話は本当だった。

 男女混合を嫌うパーティの気持ちが理解出来た。

 別に嫌とは思っていないんだが、本当に色々と気を遣う。大規模パーティなんて今回が初めてだしな。


「そんなのでギルドなんて回せるのかなあ、ロンドくん」


 楽しそうに俺を見て笑いつつ、リディアがこっちの頬をつついてくる。

 分かってるよ。

 いざギルドを設立したら、そりゃあもう男女どころか色んな面倒も押し寄せてくるんだ。

 そいつを俺一人で解決しなきゃなんて思ってないが、具体的な処方が見えてないのは問題だ。

 実戦力と裏方仕事だけじゃなくて、そういう、人を見れる人間を増やさないと駄目なんだな。


 後はまあ、ユスタークの言っていた三権認可制って奴だ。


「へぇ、そんなのあるんだ」

「ギルドが乱立しても面倒だってのはあるんだろうな。認可を受けていない裏ギルドってのは昔から知ってたが、そういう意味だったんだって感じだ」


 貴族、神殿、ギルド。

 この三つの権力を代表できる者からの認可を受けなければギルドは設立出来ない。


 王ならそれ一つでいいが、公爵だの伯爵だのなら三つ以上。

 神殿でもそういうのが居るらしく、神姫ってのか。そっちが駄目なら三名以上の大神官から認められないといけない。

 で、後はどこかのギルドマスターからの推薦を受ける事。


「どうするか。とりあえずギルド側はギルマスに掛け合ってみる、か?」

「大変だねぇ」

「一緒に考えてくれよおおおっ」

「あはは。ロンドくんがこんなにへこたれてるの久しぶりに見るかも」


 あー。

 まー、ちょっとばかし甘えてるのは分かってるよ。


 けどいいだろ、なあ?


「いいよー。でも、副リーダー様との約束は守ろうね。許して貰えるまで、頑張るんだよ」

「はい。頑張ります」


 怪我は相変わらず、まあ殆ど治って来てるんだが、腫れの引きが悪い箇所もあるからな。不意にビクっとなっちまうこともある。


「んー、でもそうだなぁ。神殿側なら、ちょうどいいかもしれないよ?」

「もしかして大神官とかいう奴に話通せたりする?」

「そうじゃなくて」


 リディアは摘まんでいた俺の頬から手を離し、顔を寄せてくる。

 マスターがしれっと裏へ向かい、その上で聞こえないよう声を潜めた状態で。


「まだ秘密の話なんだけどさ」

「おう」


 吐息と声にむず痒さを覚えつつ。


「神姫アウローラが、冬の間に聖都からこっちへ来るんだって。どうにか接触して認可を貰えたら、神殿側はそれだけでいい訳でしょ?」

「頼っていいですか?」


 素直に頼んだら頬に口付けされた。


「当然でしょ。ロンドくんの夢、私は信じて応援してるんだから」


 嬉しそうな笑顔に堪らなくなって手を取った。

 リディアは俺の右隣に居るから、自然と左手になる。

 俺のあげた指輪がその手の薬指にはまっていた。

 言葉より先にそこへ口付けて。


「ありがとう。ならまずは、神姫攻略に向けて対策を練るかぁ……っ」

「えー。それだけ?」

「あぁ、神姫はとりあえず置いといて、この素敵な指輪を付けた女の機嫌を取りたい。どうすればいいかな」


 リディアは自分の左手を口元へ寄せて、指輪に口付ける。

 そのままニコリと笑った。


「ロンドくんがしたいこと、素直に言えばいいと思うよ?」


 お互い素直になって、たっぷりと気持ち良くなった。

 今日は拠点へ戻ってやることもあったんだが、正直夢中になり過ぎて朝まで一緒だった。


 ここしばらくの反省を活かし、ちゃんと身体を洗って戻ったんだが、広間で遭遇したティアリーヌが真っ赤になって逃げちまった。


 うん、まあ、モノがアレの匂いでも石鹸でも、状況からそういうの考えちまうよな。ちょっと想像力逞し過ぎる所あると主張したさがあるんだけど。


 傷の治療で折角距離が縮まっていたのに、また開いちまったパーティメンバーとの関係に落ち込みつつ、俺はリーダーとしての仕事に取り掛かった。

 パーティ運営って大変だ。


 けど、嫌だって思ったことは一度もない。


 そいつはちょいと、誇っていいんじゃないかと思うよ。







マリエッタ編、完。

 次は、アウローラ編。

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