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結成

 道を行く。

 慣れた道。

 けれど辿る道は同じでも、目的が生まれた。


 ランクを駆け上がることは既に手段だ。

 もっと大きなものを見付けたなら、そこへ向かって進んでいくだけ。


 ちょうどその一人が正面からやって来た。


 表情を見れば分かる。

 今朝方話をバラ撒いたばっかりだってのに、もう大荷物を抱えて来やがった。さてどう話を切り出すか、なんて思ってたら、俺を見付けたエレーナが駆けてきた。


「パーティ抜けてきた!!」


 第一声がこれだ。

 頼もしい。


「よし、ならお前が俺のパーティメンバー第一号だ、相棒」

「ふふぅん! 当然でしょっ、相棒!」


 胸を張る彼女を連れてまずは俺の部屋へ向かう。

 エレーナは今まで、ゼルディスパーティの拠点に住み込んでたからな。抜けた以上は住む場所が無くなる。

 まずは荷物を降ろさせてやらないと。


「拠点とかはないの?」

「あー、そいつはすまん。シルバーの報酬だけじゃキツくてな。部屋に泊めてやれるのも、良くてあと二人くらいか?」

「えっと」

「資金は今後のパーティ活動で稼ぐよ。どの道それが出来なきゃ維持も難しいだろ」


 俺は自分が中心となってパーティを結成することにした。

 夢に向けての第一歩だ。

 自身のランクアップが望めない以上、個人でやっていたら延々とシルバーランクのクエストしか受けられず、二年も三年も停滞することになる。それを回避するにはパーティに高ランク冒険者を引っ張り込むのが一番手っ取り早い。

 利用するみたいになっちまうのは悪いが、そこは相棒として頼りにさせて貰う。

 エレーナはミスリルランクだからな。


「他に誰か決まってるの?」


 よいしょ、と荷物を背負い直して付いてくる。

 書類はまだだが、既に俺のパーティメンバーだ、隠す事はない。


「まず財務担当を引き込みたい。お前も知ってる奴だ」


 金の管理は一番重要。

 前にフィリアの店関連であれこれ聞いた時にも思い知らされたからな。高ランクの戦場へ挑むのに、より良い装備を万全の状態で持ち込むのにも多額の金が掛かる。


「えっと、フィリア?」

「いや、流石にそこはな。頼み込めば力は貸してくれるとは思うんだが、アイツはアイツで冒険者としてまだまだ自分を伸ばせる環境が欲しいって話してたんだ。生憎俺はそこまでのものを提供できない」


 一時的に義理や好意で力を貸して貰えても、俺にゼルディス程の金回りは期待できないし、深層へ当たり前の顔して突入なんて到底無理だ。

 どこかで落胆させ、諦めさせるようなことにはさせたくない。

 約束はまだちゃんと覚えてるから、まあもうしばらく待っててくれよ。


「フィオだよ。前に俺の部屋で勇者と魔王の盤遊びをやったろ? あの時の真面目そうな顔した方。ついでに護符(タリスマン)造りの出来るレネも抱き込むつもりでいる」


 色々と考えたが、既に完成し切った人材よりも、一緒に伸びていける相手が一番良いと思った。

 そういう意味でフィオは結構有望だと思うんだよな。

 あれからは真面目でそこそこ結果も出し続けてるみたいだし。

 何より俺ならレネの手綱握りを多少は肩代わりしてやれる。


「…………実は、あれから何度か一緒に遊んだりしたよ」

「おっ? それなら丁度良い。フィオはあくまで後方要員になるが、パーティ内の雰囲気は大切にしたいからな」

「うん…………うんっ」


 ゼルディスハーレムは大変だったのか、納得には勢いがあった。


「他にはっ!?」


 新しい展開が楽しくて仕方ないらしい。

 道中、エレーナがうっきうきの顔で質問攻めにしてきた。


    ※   ※   ※


 我を通すなら、自らパーティリーダーになるしかない。

 かつてルークからの相談を受け、一緒に導き出した答えだ。

 遅ればせながらそいつを自分でも実践して行こう。

 だがここが目的地じゃない。

 もっと先だ。

 必要なものは見えてきた。

 ただし、焦ってもいけない。

 冒険者の寿命は三十五。

 リディアと出会ってからもう二年近くになる。

 夏を越えれば俺は三十四だ。

 身体は言うことを聞いてくれる。

 若いのに話を聞いて、新しい情報にも触れている。

 古い経験と知識にだけ頼っていちゃ駄目だ。

 自分を更新していき、その上で必要だと思うものはしっかり伝え、残していく。

 正しい選択をしたのかどうか、常に自分へ問い掛けながら。


 一つだけ。


 リディアは誘わない。

 アイツが居なくなるとゼルディスのパーティが拙いことになる。奴自身の実力なんて俺には測り切れないが、今回改めてリディアの存在がデカいことも知った。

 付随する理由も十分に話し合い、分かって貰えたとは思う。

 何より俺に集められるメンバーでは彼女の実力を潰してしまうからな。

 全員でフィリア一人分にも劣るようじゃ、小さな皿に大量の水を注ぐようなもの。


 指輪は渡した。

 だから、今はまだ、だ。


 もういっそ周りの覚えがいいからってグランドシルバーの名前も大いに吹聴し、活躍を謳わせて人を集めた。

 小規模にするつもりは無かった。

 やるなら大きく。

 目指すはクルアン最大規模ってな。

 最初から大人数を動員するつもりはないが、そこら辺はフィオと相談だ。


 二つ返事で受けてくれた彼女と、なんか面倒が増えそうだと逃げたレネをどうにか説得して、噂を聞き付けてやって来た冒険者一人ひとりと話をし、受け入れるかを検討する。


 なんだか急に偉くなった気分だが、思い上がらないよう釘を刺してくれる奴も加わった。


 さぁて、そろそろ始めるか。


    ※   ※   ※


 宴会をな。


「最後に、改めて皆には話しておこうと思う」


 集まった面々を見回しながら、俺は陶杯を手に言葉を続けた。

 既に口上も終わり、掲げるのを待つばかり。

 ただ、外す訳にもいかないからな。


 一番前でエレーナが楽しそうに脚を揺らしている。

 他の連中も、パーティへ加わる時点で了承して貰っている。


 俺の夢。


 アリエルに打ち明けて、リディアと共有出来た、これからの目標だ。


「俺は自分の冒険者ギルドを作る。その為には名声が必要だ。力が、金が、何よりお前らっていう仲間が必要だ! 今日この時から一緒に始めてくれ!! 辿り着いたその場所でっ、最高の美酒を味わおう!! 冒険者達よ……!!」


 応!

 応!

 応!!


 と。


 刺激を求める馬鹿共がはしゃいで机を叩き、早く早くと急かしてくる。

 そうさ、それでいい。俺の尻を蹴飛ばしてくるくらいの勢いがないと辿り着けないのさ。

 共に。


「さあ乾杯だ!! 血と肉を酒で満たせっ、ラーグロークなんざ蹴り飛ばすぞ!!」


 掲げ。

 笑って。


『乾杯!!!!』


 夢に生きろ、冒険者!!







ラーグローク編、完。

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