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いつかの続きとこれからと。

 翌日にはまた一気に気温が上昇した。

 親父が言うには二日か三日でまた冷え込むそうだが、今の暑さはどうにもならず。


「コレって多分、ロンドくん以外にも追加してった人が居るんだと思うよ」


 俺とリディアは暇を見付けては滝裏の秘密部屋へやって来て宝箱の中身を漁っていた。

 滝の飛沫と暗い洞窟内、避暑地にはちょうど良くて、岩を削り出した机や椅子まであるから落ち着いて時間を過ごせる。滝の音が少々煩いくらいだが、リディアの神聖術もあるから会話にも支障はない。


 今はその机に中身を並べ、一つ一つ検証していってる所でな。


「一番古いのは多分、オブシディアンのものだよね。鉄器が無い時代は刃物として重宝されていたって話も聞くし、まあ流石にそこまで古いものじゃなくて、儀式用とか趣味とかだと思うけど」

「数が多いのも、宝箱を作った奴が納めたからだろうな。後から足した分は、俺らの石ころみたいに少量が普通だ」


 まあやってることにそれほど意味はない。

 幼い頃の遊びを、大人になって経験も知識も付いた状態で掘り返して見ると、結構楽しいってだけさ。


 リディアと一緒に童心へ帰って、お宝検証。


 悪くないな。


 因みにミスリルの腕輪は無事分離出来たので、リディアに改めて分析して貰った。元々構成が脆かった所に時間経過が重なり、俺が不用意に取り込んじまったおかげで帯びてた魔法は綺麗さっぱり消えたんだと。

 残念だが、動作の不安定な効果に頼るのも嫌だから、新たに付与し易い状態が出来たのはありがたい。


 今度レネにでも見せてみるか?

 冶金術や鍛冶の分類だろうけど、錬金術だって金銀を扱うしな。


「とりあえず危険そうなのは無いみたいだし、ロンドくんがあれもこれもって言い出す前にしまっちゃおっか」

「すみません。ミスリルだけはちょっとお借りします。後でちゃんと返すから、死んだ後とかに」

「縁起でもないなー」


 笑い合いながら宝箱に品物を戻していき、そのずっしりとした蓋を閉じる。


 中身は覚えてる限り当時のままだった。結局俺以降、誰もここを発見していないってことだよな。

 いずれ誰かが、とは思うけど、そもそもグラース農園の奥から入っていく道だから、発見にはウチの人間が関わる可能性も高いのか。

 つまり弟夫婦の子か、孫か、ずっと先の子孫か。

 なんて思うとちょっと気持ちが昂る。

 おじさんからの贈り物だ。

 いや本当に、何か良いのあったらこっそり隠しといてやろうかな、なんて。


 思って顔をあげた所にリディアが顔を寄せて来ていて、唇が触れ合った。


「ん…………」


 微かに擦れて、甘い感触が脳を痺れさせる。

 不意打ちだった。

 なんでいきなり、なんて思考よりも、単純な反射でその柔らかな感触をこちらからも食んだ。


 久しぶりの感覚だった。

 北域で再会して以来、色々あって触れ合うことも最低限だったからな。


「……………………ごめんね?」


 リディアは赤くなった顔を逸らしつつ、こちらの様子を伺ってくる。身を縮めつつも見るのは止めず。


「どうして?」

「だって……、なんか横顔見てたら我慢出来なくなって」

「あぁ、いや、そういう意味じゃ」

「じゃあ、なに?」


 もっとしていい? みたいな顔を向けられて、こちらも興奮してくるんだが。


「シたくないの? 私は……ずっとシたかったけど」


 言葉より先に、口付けで返した。

 俺だって同じこと思ってたよ。

 でもそうだな、久々の里帰りと、隣にお前が居たからつい楽しくて、夢中になってた所はある。


「…………先に、話したいことがあるんだ」


 少なからず逃げていたかもしれないな、と今更ながらに思う。

 踏み込むってのは勇気が要る。

 行けると確信していても、本当に踏み込んでしまえば自分の身を晒してしまうんだから。

 でもそれは、リディアにこんなことを言わせる為じゃなくて。


「俺の我儘だ。ほら、もうじき夕食の時間だし、一度戻って改めて」

「やだ」


 見れば、こちらを見る彼女の目は潤んで、羞恥とは少しだけ違う、興奮からくる朱の色が頬に浮かんでいた。

 自分からするだけなら良かったのに。

 俺の方からされてしまったから、気持ちの上でも障壁が消えてしまったからか。


「やだぁ」


 何よりも如実に目が訴えてくる。

 押し倒せ。

 そうでなければ、


「ロンドくんのせいだし」


 と、息を荒くしたリディアが覆い被さって来て、俺はそいつを受け入れた。


    ※   ※   ※


 しばらく、延々と口付けだけを続けていた。

 頭を抱かれ、口の中で絡み合い、互いの心臓を少しでも近づけようとするみたいに抱き寄せ合う。

 服越しにも感じる、何度も味わった柔らかさ。

 神官だから戦士みたいに肉体を鍛え上げちゃいないが、膨らむ所はしっかり膨らみつつも、引き締まる所は実に引き締まっている。


 初めて抱いた時からまるで飽きる事の無い、彼女の身体。


 とびきりの美貌を少しばかり幼く歪め、必死に甘えてくる。

 胸の内は彼女の香りで一杯だ。

 《《コレ》》だけを延々と続けていたっていい。

 なんて思ったのは間違いだった。


「ん……」


 俺を押し倒すリディアが、太腿でこちらのブツを擦り上げてきた。

 僅かに漏れた俺の声をしっかり聞き取り、得意げな笑みを浮かべる。なのでされるがままにしてきた口内へこちらから攻めかかると、あっという間に目元がトロリとしてきた。

 そんな最中でも太腿の動きは止めなかった。

 責められてるのは俺の筈なのに、まるで彼女が自分を慰めているみたいに夢中で動かしてくるから、硬さがはみ出てくる。


 服の裾へ手を入れられ、離れる一時を惜しむみたいに服を脱がすと、俺の根本を膝で小刻みに責め立てながら先端へ手が伸びてきた。

 細くて長い、綺麗な指先が絡み付く。

 激しい滝音の中、リディアは俺の腰元に顔を埋めてきた。


 しばらくして、身を震わせたこちらに一層強く食い付いてきて、嚥下した彼女が服を脱ぎ捨てた。

 得意げな笑み。

 好きだよな、それするの。

 一方的に俺を悶えさせられるのが楽しいのか、いつもそんな顔をしてくる。


 だけどそろそろ、攻守交替だ。

 僅かな休憩で力を取り戻した俺は、その間に勢い付いたリディアを抱え上げて奥の寝台へ連れて行った。

 机や椅子と同じ、岩を削り出して作られた硬い寝床だ。

 今は一応、なんというか一応、毛布を一枚敷いてある。ほら、休むこともあるだろうからなって、別にそういう意味を考えてたんじゃ……いや考えてたけども。


 自分の半端な誤魔化しを押しやる様にしてリディアを寝かせ、あっちもあっちで主導権を取りたがって半端に逃げようとするから、無防備な尻を掴んで中へ入っていった。


 滝音が無ければ山中に響いたんじゃないかってくらい激しい声が続き、果てる度に姿勢を変えて、敷いた毛布をぐちゃぐちゃにしながら絡み合う。


 理性がぶっ壊れていた。


 最高の相手。

 けれど様々な想いから触れるのを躊躇していた。

 さっきだって先延ばしにしようとした癖に、一度触れればこんなもんだ。


 最後に向き合って、思いっきり口を吸い合いながら注ぎ込んだ後、燃え尽きる灯火のように微かな声で。


「好きだ、リディア」


 いつか言えずに終わった、確かな言葉を。


「うん。私も大好きだよ、ロンドくん」


 互いに刻んで、認め合った。


 それから、ルーナ神すら赤面して逃げ出しそうな痴態を晒した癖に、俺達は裸のまま寝台に並んで腰掛け、まるで初めてそうするみたいに顔を寄せて、触れるだけの口付けを交わした。


 やれるかな、って思って試してみたら、手の中にミスリル製の指輪を作れて、俺はリディアの左手を取り、薬指へそいつをはめた。

 最も命に近い指。

 彼女自身で安全確認はして貰った後だから、悪い効果は出ないだろう。

 なんて俺が現実的なことを考えていたら、泣きそうな顔をしたリディアが抱き付いてきて、俺はその身を力一杯包み込んだ。


    ※   ※   ※


 身を清め、服を着た後も、リディアはしばらくくっついて離れなかった。

 たっぷりシた後とはいえ、あんまり触れてるとまた抱きたくなるんだが。

 いつもより近い位置から彼女の声が来る。


「私の家族はね、私の力にのめり込み過ぎて、何でも思い通りに出来るって思っちゃったみたいなの」


 以前に聞いた、リディアの生誕に関する話を思い出す。

 ルーナ神が世界に持ち込んだとされる、白いアネモネの花。そいつが彼女の生まれた日にあちこちで花を咲かせた。

 神官はその服装から髪型まで、ルーナ神の姿を真似ることで強い加護や多くの魔力を得ようとするという。

 なら、その神を奉る祭壇に必ず咲くと言われる花を、ただ生まれただけで咲かせたリディアは魂からして似通っているのかもしれない。


 そりゃあ、両親も夢くらいはみるよな。

 その、才能って呼ぶのもなんだが、生まれ持てた性質だけで来れたんじゃないと彼女を見れば分かるけど、実際にリディアはアダマンタイト級冒険者にまで成っている。


「家を盛り上げていこうって。いろんな所で私を売り込んで、私も言われるままにハイハイって従ってたから、勢いも付いちゃったのかな……でもそんな無邪気なまま貴族社会なんて登っていけるものじゃなくて、小さなことで躓いて、あっさり私を取られちゃったの」


「死んだ訳じゃ、ないんだな」


「うん。でも、私を会わせたくはないみたい。家族もその失敗が怖くなっちゃって、周囲から睨まれるって私と会うのは拒否してる」


 そいつは親として最低の選択だ。

 子どもに夢を見るのはいい。意思決定も、リディアを見れば委ねられていたと考える事も出来る。それに虐待されてたって訳じゃないんだろう。

 だが、会いたがってる子どもを追い払うなんて、親のやる事じゃない。


「いろいろあって、聖都の神殿に引き取られて、神官として育てられたの。そのまま行けば次代の神姫だって言われてたけど、その為の儀式を言われるままこなしていたある時に、カーッと頭が熱くなって、もう我慢出来ずに逃げちゃった」


 抱き着く腕に力が入る。

 鼻先をこちらの胸元へ押し付けて、胸一杯に息を吸う。


 撫でた手指の間を、彼女の髪が艶やかに抜けていった。


「そこから色々とあったけど、今ではクルアンの神殿にだって出入りするし、普通に誰からも文句を言われず冒険者をやってる。だからね」


 以前に、また今度、と言ったリディアの望み。

 初めて聞いた時はそりゃあもうアダマンタイト級のデカい目的があるんだって勝手に勘違いしちまったが。

 コイツは最初から大きな何かなんて求めていなかったよな。


 仲間の命を助けたい。

 その一心で、必死に最上位パーティの神官として働いてきてたんだから。


「私は、冒険者で居る事が好きなんだと思う。最近、もう一度そう思えるようになってきたの。うん」


 俺のはめ込んだ指輪を二人の眼前に翳し、嬉しそうに笑んで。


「ねえ、ロンドくん。私はね、家族を得て、その皆で冒険なんて出来たらなって思ってたの。怖いけど、ワクワクして、大変だけど、やり甲斐があって、不安だけど、支え合える確かな繋がりのある人達と、旅して回るような日々が欲しい」


 ありきたりで、

 特別で、


 そんな日々を生きてみたいと。


 まるで将来の夢はお嫁さんです、なんて言葉そのままなリディアの夢を、抱き寄せた彼女への口付けで讃えた。


「行ってみたい場所はあるのか?」

「魔境の奥。人間が辿り着いたことのある場所よりずっと先を見てみたい、かな。栄華を極めた時代の、過去の遺跡を見て回るのも楽しそう」


 けどやっぱり彼女も冒険者で、そんな場所へ家族旅行をしてみたいなんて言うから、胸の奥が少し熱くなった。

 抱き込んだ愛おしさに混じる、高揚感。

 彼女の見ている景色が俺にも見えた。


「ロンドくんは? 教えて。貴方のやりたいこと。私に手伝わせて」


 ただちょっと、悩みも出来た。

 彼女の望みと俺の望みは、似通っているが微妙にズレている。

 そいつをどうしようかとか、その辺りは今後話していくとして。


 真剣にこちらを見上げるリディアが愛おしく想えて、髪を梳き、耳元を掠めて落ちた所で、彼女から頬を寄せてきた。

 手の平に柔らかな頬の感触が収まる。


 また口付けしたくなるのを堪え、その目を見詰めながら答えた。


「俺はな――――」






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