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下弦の盃(さかづき)  作者: 朝海
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第八章「苦痛」

「お前が島本瞬か?」

 名前を呼ばれ振り返ると要が立っていた。どちらかといえば、澪よりも気が強そうだった。威圧感も強く、話し方の口調もきつい。

 考えてから動く澪と行動的な要。

 正しく「静」と「動」。

 同じ兄弟でも性格は正反対らしい。澪の方が使用人たちに人気の理由が分かった気がした。どちらかを、選べといわれたら、間違いなく皆澪を押すだろう。

「要様ですか?」

「そうだ」

「要様は澪様と仲良くないのでしょうか?」

「どうして、そう思う?」

 要の瞳が細められる。

「澪様とあまり、視線を合わせようとはしませんよね? 澪様が要様を見ていても、逸らしていませんか? ああ――それとも、澪様の方が優れていることをきにしていらっしゃるとか?」

「島本――貴様」

 予想通り、要は挑発にのってきた。あとは、化けの皮が?がれるのを待つだけである。要は瞬の首元を締め上げた。それでも、瞬が表情を変えることはない。拘束から簡単に抜け出すと、逆に要の手を捻り上げる。

 手をふりほどこうとするが、なかなか拘束がとけない。要よりも細い体に、どこにその力があるのは不思議なぐらいだった。

「やはり、猫をかぶっていましたね。これが、要様の本来の姿」

 新人に気づかれてしまうとは、不愉快で仕方がなかった。

(この男……侮れないな。油断していると、こちらが痛い目にあうな)

 それが、瞬に対する要の感想だった。

「そうさ。これが、俺の本当の姿だ」

 ブラウンの瞳が獰猛に光る。

 バチバチと火花が散った。

 二人の間に、不穏な空気が流れていく。一触即発の空気に、使用人たちが避けて通るぐらいだった。それほど、その場が張り詰めていた。

「このままだと、兄弟同士で戦わないといけなくなります。私とてあなたと戦いたくありません」

「所詮、一執事のお前に何ができる? 俺はこの家族が嫌いだ。捨てることに迷いはない」

 要は鼻で笑う。

 明らかに澪と正、優里を見下していた。

 なめきっていた。

 抗議の意味を込めて拘束する力を強くする。

「あなたは家族すら捨てることができるのですね。悲しい人だ」

「自分の気持ちに忠実なのだと言ってくれ」

「だからと言って、家族を傷ついていい理由にはなりません。要様。最後の警告です。今なら、間に合います。引き返せます。私たちの手を取りませんか?」

 要とてまだ子供である。

 まだ、家族に甘えたい部分があるはずだ。

 瞬や澪、正、優里の力も必要になってくるだろう。

 何かあった時、必ず手を伸ばし助けてくれるはずである。

「俺にとってこの家は地獄でしかない」

「私がサポートをします」

「島本。お前、殺されたいのか?」

「殺したいなら、どうぞ?」

 瞬はナイフを取り出し、要に持たせる。そのまま、首に誘導した。触れられたくない要は、ナイフごと瞬の手を振り払った。カランと乾いた音がして、ナイフが床に落ちる。瞬はナイフを拾って懐にしまった。

「何をしてもムカつく奴だな」

 瞬の納得に要は応じなかった。

 自分にとって「家族ごっこ」は、苦痛でしかない。

 ストレスでしかない。

 生きていくには生ぬるかった。

 吐き気すらして、遊んでいるようにしか思えなかった。 

 要兄様、と澪が呼ぶ声がした。その呼ぶ声には、わずかに甘えが含まれている。澪がここまで、甘えるのは家族のみだろう。

 信頼していることが伝わってくる。

 その優しい声を、瞬は裏切ることはできない。

「自分がしたことはいずれ、返ってくるでしょう。そのことを、お忘れなきよう」

 瞬は要を解放する。

 乱れた服を整えて、再び仮面をつける。要は澪の元へと歩き出す。要については気づかれないように、監視を強化しなければいけないだろう。筆頭執事という権力をフルで使う他ないはずだ。精鋭の執事たちを選ばなければならない。瞬は誰がいいのかと考えを巡らせるのであった。


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