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下弦の盃(さかづき)  作者: 朝海
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第七章「兄弟の決意」

「文」

 大人たちの力に子供ではかなわない。野田涼は羽交い絞めにされている妹の文を助けることができない。文は覚悟を決めた表情をしていた。涼だけでも逃げてほしいと視線を送る。

 涼はその視線を突っぱねた。

 自分たちはどこまでも一緒だと話をしていたからだ。

 この手を離さないと誓っていた。

 それに、自分たちは大人になるまで、二人で一つなのだから。

 涼は男たちに立ち向かっていく。

 急に後ろを引っ張られて涼は尻餅をついた。勢いで背中を強かにコンクリートに打ち付ける。

「ゲスが」

 低い声がして男たちが吹き飛ばされていく。解放された文は涼の体を支えて立ち上がらせた。二人は目の前の人物に助けられたのだと気が付いた。

 この人物の戦い方は人を殺すものではなく、自衛のための護身術だと判断する。

 残りの男たちも逃げていった。

「あの」

 立ち去ろうとしている澪に涼は声をかけた。

「何だ?」

「どうしたら、強くなれますか?」

「強くなりたいのか?」

「はい。妹を守りたくて」

 涼と文に両親はいない。

 赤ちゃんの頃から施設に預けられて育ってきた。施設にいても楽しくなくて、逃げ出した直後に、男たちに絡まれたのである。それを、通りかかった車から見ていた澪が助けに入ったのだった。

 澪のブラウンの瞳が見つめてくる。

 綺麗な瞳をしているなと二人は思う。

「俺は野田涼と言います」

「私は野田文です」

「本橋澪だ。決心がついたら、会いに来るか連絡をすればいい」

 名刺を渡して立ち去っていく。

「――組長?」

「やくざ?」

「でも、あの人は人を殺そうとはしなかった」

「兄さん。あの人なら」

「あの人なら大丈夫かもしれない」

 手を汚さなくてもいいかもしれない。涼と文はそういった場所を探していた。心から求めていて、このような人になりたいと思った。

 このチャンスを逃すわけにはいかなかった。

 数日後――。

 涼と文は澪のマンションに来ていた。

「緊張している? 兄さん」

「まさか。文の方こそ大丈夫か?」

「私はあの人についていくと決めたの。変えることはないわ」

 部屋のインターフォンを鳴らす。名前を告げると入口のエントランスが開いた。迷うことなく澪の部屋のチャイムを押した。

「やはり、来たか」

 二人の漆黒の瞳は視線を逸らそうとはしない。普段なら澪の瞳の冷たさに逃げていく人が多い。まともに、視線を合わせようとする人はいなかった。

 だが、涼と文は違う。

 真っ直ぐ見つめてきて逸らそうとはしなかった。ここで、生きていくのだという決意がヒシヒシと伝わってくる。

「来ることが分かっていたような言葉ですね」

「勘だな。この仕事をしていると自然と身につく」

「私たちも本橋さんみたいになれますか?」

「君たちの努力次第だ。これから、厳しい訓練が待っている。耐えられるか?」

「俺たちの決意は変わりません」

「野田涼」

「はい」

「野田文」

「はい」

「白蘭会へようこそ」

 澪は涼と文と握手をした。

 ひんやりとした冷たい手だった。

 数か月後――。

「涼、文」

「澪様」

 二人は澪に膝まずいた。

「今日で訓練が終了だ。二人に渡したい物がある」

 部下から木箱を受け取り、二人に渡す。開けると中にピアスが入っていた。本橋家の家紋が描かれている。これを、渡されるということは、澪に認めてもらえたのだろう。

 まずは、それに応えなくてはいけない。

「澪様」

「どうした?」

「私たちは澪様の隣にいます。そのことを忘れないでください」

「期待をしている」

「――はっ」

 二人は揃って頭を下げた。


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