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下弦の盃(さかづき)  作者: 朝海
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第六章「絆」

「瞬」

 裏口から出ようとした瞬は、澪に声をかけられた。

 誰にも言わずに立ち去ろうとしたのに、見事に澪に止められてしまった。しかも、怪我をしているというのに、要に銃で撃たれ傷つけられて、身も心をボロボロで疲れているはずなのに、無理をさせてしまっていた。

 ふらついている体を瞬は支える。

 体が熱をもっている。

 呼吸も浅い。

 薬を飲んでいてもこれだけ熱が高ければ、しんどいはずである。

 立っているのも精一杯だろう。

 澪は本橋家に所属する医師に手術をしてもらい、一週間で仕事に復帰した。大組織のトップに立つ誇りがあるのだろう。 

そのことが、現在の澪を支えているらしい。

 原動力となっているようだった。

 その姿が、澪にはよく似合っている。瞬はこのまま、誇り高く気高いままでいてほしいと心から切に願う。

「澪様。その体で動いたら、傷にさわります。休んでください」

「今まで、両親を守ってくれて感謝している。瞬がいたからこそ、本橋家はやってこられた」

 瞬はピアスを外す。

 分身をもがれたようだった。

 それほど、このピアスは瞬にとって大切な物になっていた。

 澪にピアスを渡す。

「これは、瞬が戻ってくるまで大切に預かっておく」

 大事に箱にしまう。

 澪の動作だけで大切に思ってくれていることが伝わってくる。最後の最後まで仲間だと思ってくれている。考えてくれている。

 瞬の胸に熱いものが込み上げてくる。そこは、本橋家の執事たる者――感情を表に出すことはない。

 普段どおりに澪に接する。

「澪様」

「瞬が悪いわけじゃない。堂々としておけばいい。そうだろう?」

「ですが、澪様。私を擁護すると澪様の立場が悪くなります」

「気にするな」

「しかし、澪様」

「今、この中で一番傷ついているのはお前だよ。瞬」

 きっと、正と優里を守れなかったことについて後悔しているだろう。自分がそこにいればと、心の中で悔いているはずである。

 今は何も考えなくてもいい。

 ゆっくり傷を治してほしい。

 心を癒してほしかった。

 その中で、再び会える日を待っている。

 再会を信じている。

「私だけではありません。澪様だって傷ついているはずです」

「瞬」

「はい」

 瞬はいつも以上に背筋を伸ばす。

「私のことはいい。今は自分のことだけを考えろ」

「どうして?」

 瞬の呟きは澪には届かなかった。

「瞬?」

「どうして、あなたはそんなに優しいのですか?」

 なぜ、この人はこんなに優しいのだろうか。

 まるで、全てを包み込んでくれるような存在だった。

「瞬は勘違いをしている。私は優しいわけではない」

「お願いですから、もっと自分を大切にしてください」

「それは、瞬にも言えることだ。私は瞬のことを両親が残してくれた形見だと思っている。気持ちが同じであれば、また交わることがあるだろう」

『いずれ、また交わる日が来ると私は思っている』

 さすが、親子である。

 正と同じ言葉だった。

 どれだけ、自分がほしいと思う言葉をかけてくれるのだろうか。

「その言葉、胸に刻んでおきいつでも戻れるように整えておきます」

「瞬。この別れはさようならではないと思っている。だから、さようならは言わない」

「澪様。お戻りください」

 様子を見ていた涼が声をかける。

 瞬は澪の体を涼に預けた。

 澪の姿が見えなくなるまで、瞬は頭を下げ続けた。





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