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捕まえる立場の軍人に「気をつけなさい」なんて、煽っているとしか思えないが、ヘレナはこう言うことを本心で言う人間だ。思ったことはすぐに口出るタイプなのだ。
すると、入れ替わるようにを男が訓練場に入ってきた。昔気質の角刈りに、日焼けた頬に丸眼鏡をちょこんと乗っけている。その男と目が合うと、エイラは背筋を伸ばして敬礼をした。彼の名前はターナー・ラザフォード。ラザフォード家の次男で階級は中佐にあたる。ターナーの父、ウォーロンはこの≪東部≫の総統を務めている。典型的な二世型ではなく、実力もあり若手のホープと、上層部の期待も厚いと聞く。
エイラの敬礼を見て、ターナーも敬礼を返す。上官であれば返礼の義務はないが、大真面目な性格で有名だった。
「そこで、プレスコット少尉とすれ違ったが、何か話していたのかね?」
ターナーとヘレナは婚約しているという噂がある。もちろん、単なる噂にすぎないのだろうが、こう言ったことを尋ねるのはタブーで、誰もその真相を知らない。ちなみに、エイラは信じていない。
「はい。ですが、大したことではありません。それよりも、私に何の用でしょうか?」
訓練場の中にはヘレナしかいない。それに、彼はわざわざ軍の古い訓練場に足を運んだりしない。自分の家の敷地に、最新鋭の訓練場を所有しているからだ。
「君に合わせたい男がいる。悪いが訓練は中断して、付いてきてくれないか?」
「もちろんです」
「歩きながら話そう」
二人は訓練場を出た。エイラの方から切り出す。
「ラザフォード中佐。その会わせたい男とはいったいどんな方なのですか?」
「至って普通の青年だよ。名前はジルクニフ・リンストンと言う。君には、彼の護衛をしてもらいたい」
「護衛ですか……私一人だけでしょうか?」
「そうだ。君一人だけだ」
護衛の任務は決して珍しくない。だが、チームで行うのが基本で一人でというのは聞いたことが無かった。
「変わった任務だと思ったかい?その考えは正しいよ。――さて、ここだ」
ターナーが立ち止まったのは、客人用の応接室の前だった。ターナーはドアノブに手をかけ、
「ああ、そうだ。重要なことを忘れていた。ノースピート少尉。この部屋の中で見聞きしたことは他言無用だ。無論、ここまでの会話も含めて」
エイラは大きく、頷いて「了解しました」と答えた。それを聞いて、ターナーはゆっくりと扉を開けた。部屋の中央には一対の革張りのソファが置かれていて、そこに男が座っている。エイラは、その男の顔を見て目を瞬かせた。
目の前の男は、今朝の夢で現れた青年に瓜二つだった。