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病室に戻ると、怪訝な表情のジャレッドが出迎えた。
「さっきの誰?」
「ターナー中佐よ。名前くらい聞いたことあるでしょ?」
「誰それ?」
「ターナー・ラザフォードって言ったら分かる?」
「ラザフォードって、あの?」
「そう」
「マジかよ。姉ちゃん、そんな人と知り合いなの?」
「知り合いっていうか、ただの仕事の上司」
「へ~」
ジャレッドにとっては、姉の意外な一面だった。ジャレッドの思い描くエイラ像は、「少し天然の真面目人間」だった。世渡り下手で、交友関係も狭い。今年で二十一にもなるのに、彼氏の一人も居た形跡がない。
トントン。
再びのノック音。ジャレッドは、ターナーが戻って来たのかと思ったが、顔を覗かせたのは、ジャレッドの知らない男だった。スーツ姿の金髪発碧眼のシュルト人。直後、エイラは椅子から飛び上がった。
「ジル!?どうしてここに?」
エイラは、驚きから少し声が裏返っていた。ジャレッドは、目を更に細めた。男は、エイラの直ぐ脇に立つと、
「どこに居ようが俺の勝手だろ」
「そうだけど、どうしてこの場所を知ってるの?」
「ターナーから聴いた」
エイラはため息を零す。
「今は、弟と話してるからちょっと、外に出てて」
男の背を押し、病室の外へ押し出した。戻ってくると、エイラは何事も無かったかのように、
「で、本題なんだけど、今日の夜、どこかおいしいもの食べに行かない?」
「うん」
ジャレッドは上の空で返事をした。話の内容が入ってこない。
「流石に高すぎるのは無理だろうけど」
「……あのさ、さっきの人、姉ちゃんの彼氏?」
「はあ?違にきまってるじゃん。あの人は、えっと、仕事仲間……じゃないけど、とにかく彼氏ではないから」
「そんなに慌てられると、逆に怪しいんだけど」
「ほんとに違うから!」
「ふ~ん」
そんな姉の姿を見て、ジャレッドまで、気分が悪くなった。