17
太陽が丁度、真上に着た辺りで、エイラたちは帰路に着いた。
ヘレナとは、森を出た辺りで分かれた。リネットたちも、このまま石切場を尋ねるということで、その場で解散となった。妖精は、なぜか森の出口まで付いてきて、森を出る直前で、ジルクニフと話をしていた。援けてもらった、お礼として何かを受け取ったようだった。
「何をもらったの?」
だだっ広い、田畑の間を歩きながら尋ねた。ジルクニフは、礼の品を手のひらに載せて、エイラの前に差し出した。一見は、花びらのようだ。青色で、表面は少し艶々している。
「なにこれ?」
「さあな」
「妖精は何かいってなかったの?使い方とか、なんのためのものなのか、とか」
「肌身離さず、持っているようにと言われた」
「お守りみたいなものかな?」
「さあな」
ジルクニフはそれを懐に仕舞った。
「ところでさ、ジルって、何者?」
「どこにでもいる、普通の一般人だ」
「そんなわけないでしょ~。ターナー中佐と知り合いで、同時詠唱ができて、銃弾を受けてもなぜか無傷。これだけで、既に普通の人じゃないもん」
茶化すように言うと、ジルクニフは少し早足になって、
「ただの、ちっぽけな人間さ」
「じゃあさ、なんで「おつかい」みたいなことやってるのか位は教えてくれない?」
エイラは、ジルクニフのやっていることを「おつかい」と名付けていた。これが最もしっくりくる呼び方だったからだ。
「友人の頼みなんだ」
「友人って?ターナー中尉?」
「いや、別人だ」
「でも、変わった頼み事だね。その……ニーラ人の助けになってやってくれ、みたいな感じでしょ?」
「いや、少し違う。ニーラ人に限ったことではない」
「そうなの?」
「はっきりと頼まれたわけではないんだ。だから、そいつの望みがこれで正しいのか、分からない。だから、俺は俺にできることをすると決めた」
「なんかさ、ジルって時々、要領を得ないこと言うよね。回りくどいっていうか、抽象的っていうかさ。そういうの、やめたほうが良いよ。面倒くさいから」
「お前は、その率直すぎる発言を直すべきだ」
「欠点だと思ってないから」
「お前の直すところはまだある」
「何?」
「≪エルソレーション≫の使えない軍人は初めて見た」
「あ、あれは違うって!てんぱっててさ、初めての実戦だったし……」
「実戦が初めて?戦争には行かなかったのか?」
「私、去年までは南部に居たの。だから、前線には行ったことなくて」
「なるほど。にしても、酷い出来だった。あれで、護衛とは笑わせる。……まあ、もう終わりだがな」
「終わりって?」
「お前の、護衛任務だ」
「え?」
「ターナーから聞いてないのか?」
「うん。……でも、そうだよね。ログウッドの案内人として、私が適任だったからってだけだもんね……」
最初は、嫌々、承諾した任務だった。護衛の対象は変人だし、何をするのかも、さっぱり分からない。でも、今は、もっと続けたいと考える自分がいた。エイラは、その気持ちに素直に従うことにした。
「ねぇ。もう少しだけ続けさせてくれないかな?」
「どうして?」
「見てみたいの。ジルが何をして、何を成すか。学べることがたくさんあると思うから」
ジルクニフは、どこか、そっぽを向いて、
「好きにすればいい」
「え?ほんとに?いいの?」
「こっちも、護衛が何度も変わるのは目障りだからな」
と、少し嬉しそうな声で答えた。