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六、津婆、再び。

六、津婆、再び。


 那華田達は、見慣れたオンボロ小屋の前に出た。

 洋介平が、長剣を足下に突き立てるなり、「おっちゃん、ここは…!」と、右手で、オンボロ小屋を差した。

「しかし、拙者らは、先に進んでいた筈でござる。お婆の所へ戻る事など有り得ぬでござる」と、是々清が、否定した。そして、「ひょっとすると、茶氏の罠かも知れないでござる!」と、語気を荒らげた。

「そうですね。用心するに越した事は…!」と、那華田は、言葉を詰まらせた。洋介平が、単独で、小屋へ向かって行ったからだ。

「拙者が、連れ戻すでござる!」と、是々清も、追い掛けた。

 間も無く、二人が、中へ消えた。

 その直後、「わぁー!」と、洋介平の悲鳴が、響いた。

 次の瞬間、「!」と、那華田は、緊張した。今度は、罠かと思ったからだ。そして、盾を左腕に掛けるなり、右手で、長剣を引き抜いた。その直後、恐る恐る歩を進めた。罠ならば、少し間を置くべきだと考えられるからだ。しばらくして、小屋の戸口へ到達した。

 突然、洋介平が、顔を出した。

 その途端、「どっひゃあー!」と、那華田は、尻餅を突いた。まさか、洋介平が、現れるとは、思って居なかったからだ。

「おっちゃん、何を驚いているんだい? 遅いから、呼びに行こうとしていたんだよ」と、洋介平が、しれっと言った。

「悲鳴が、聞こえましたので、どうなっているのかと思いましたので…。でも、無事で良かったです…」と、那華田は、安堵した。何事も無かったようだからだ。

「おっちゃん、立てれるかい?」と、洋介平が、右手を差し伸べた。

「すみませんねぇ…」と、那華田は、その手を両手で掴むなり、立ち上がった。次の瞬間、はっとなった。デジャブだからだ。

「おっちゃん、早く入ろうよ。婆ちゃんが、待ち兼ねているからね」と、洋介平が、急かした。

 那華田は、我に返り、「はいはい」と、返事をした。そして、盾と剣を持ち直した。

 間も無く、二人は、屋内へ進入した。

 程無くして、「よう来たのう!」と、津婆が、上機嫌で、声を掛けて来た。

「は、はあ…」と、那華田は、怪訝な顔で、生返事をした。津婆に化けた別人かも知れないからだ。そして、「あのう。私の存じてます津婆さんですか?」と、単刀直入に、尋ねた。駆け引きが、苦手なので、直球(ストレート)な質問しか出来ないからだ。

「ふぉっふぉっふぉ。お前の頭頂部は、まだ覚えておるぞ。まさか、そなたは、わしの顔を早くも忘れてしまったのか? 寂しいのお…」と、津婆が、寂しげに、溜め息を吐いた。

「い、いえ! そんな事は!」と、那華田は、慌てて否定した。こんなにも早く再会するとは、予想外だからだ。そして、「私達は、どうして、ここの前へ出たのでしょうか?」と、眉根を寄せながら、尋ねた。何かしらの理由(わけ)でも在るような気がしたからだ。

「そうじゃのう。わしにも、よう分からん! まだ、一つだけではのう…」と、津婆が、淡々と答えた。

「た、確かに…」と、那華田は、理解を示した。確かに、一つだけ解決したに過ぎないからだ。

「お婆殿。次は、どの門へ入るべきでござるかな?」と、是々清が、前のめりに、問い掛けた。

「お主は、前向きじゃのう」と、津婆が、感心した。そして、「次は、右じゃ」と、告げた。

「でも、結界が、張って在ったよ」と、洋介平が、口を挟んだ。そして、「おいら、酷い目に遭ったんだからね!」と、言葉を続けた。

「ほう。しかし、よく、門を開けられたのう」と、津婆が、驚きの表情をした。

「おっちゃんが、妙な言葉を言ったら、すんなりと開いたよ」と、洋介平が、あっけらかんと言った。

「ほう。妙な言葉とな?」と、津婆が、興味を示した。そして、「聞かせてくれんかのう?」と、要請した。

「おっちゃん、どうぞ」と、洋介平が、促した。

「ソー・クー・ヴェノラと言う言葉ですが…」と、那華田は、回答した。カリヴァーが、頭を(はた)かれた際、発した言葉だからだ。

 その瞬間、津婆が、身震いするなり、「想・空・辺・野良じゃと!」と、素っ頓狂な声を発した。

「な、何か、ご存知で?」と、那華田も、すかさず問い返した。只事ではない反応(リアクション)だからだ。

「う、うむ…」と、津婆が、頷いた。そして、「お主の出逢(でお)うた“かりばぁ”とは、とんでもない御方かも知れんぞ…」と、津婆が、声を震わせた。

「と、言いますと?」と、那華田は、問うた。確かに、とんでもない者という点では、頷けるからだ。

「その呪文は、ほとんどの結界や呪術を打ち消してしまう(まじな)いじゃ」と、津婆が、語った。そして、「無闇やたらに唱えるもんじゃないぞ…」と、忠告した。

「そうなんでしたか…」と、那華田は、納得した。ただの掛け声じゃない事だと判ったからだ。

「おっちゃん、とんでもない呪文を知っていたんだねぇ〜」と、洋介平が、右手の小指で、右の耳をほじりながら、感心した。

「何か、見下していませんかねぇ?」と、那華田は、指摘した。低く見られている気がするからだ。

「そんな事無いよぉ〜」と、洋介平が、右手の小指を抜くなり、先っぽへ息を吹き掛けた。

「お婆殿。その呪いは、誰にでも使えるのでござるか?」と、是々清が、質問した。

「聞いたからと言って、誰しも使えるものじゃない。恐らく、那華田しか、使えんじゃろうな」と、津婆が、可能性を述べた。そして、「お主は、“カリヴァー”に、何かをされたのかのう?」と、那華田へ、問い掛けた。

「確か、剣の先端に、トグロ状の物が付いていましたかねぇ〜」と、那華田は、口にした。そして、「それで、頭を(はた)かれましたね」と、言葉を続けた。それくらいしか、記憶に無いからだ。

「なるほど。ひょっとすると、お主は、“選ばれし者”かも知れんのう…」と、津婆が、推測を口にした。そして、「ただの亡者かと思って居ったが、どうやら、“黄帝”の下へ、必ず行かさなければならないようじゃのう」と、意気込んだ。

「おっちゃん。おいら達、“選ばれし者”だなんて、ゲームの主人公みたいだね!」と、洋介平が、能天気に、喜んだ。

「いや、私だけのようですけど…」と、那華田は、眉間に皺を寄せた。自分だけに向けられたようにしか聞こえていないからだ。

「そうでござるな。那華田殿だけのようでござる。洋介平、残念ながら、拙者達は、“選ばれし者”ではないでござる…」と、是々清も、言い聞かせた。

「ちぇ! やる気無くしちゃうよ!」と、洋介平が、不貞腐れた。

「すみませんねぇ。正直、私も、戸惑っているのですよ…」と、那華田も、眉根を寄せた。しっくり来てないからだ。

「わしも、半信半疑じゃよ。こんな頭頂部の薄いデヘ顔の中年独身男が、“想・空・辺・野良”の呪いを知っているのには、驚きなんじゃからな」と、津婆も、心境を述べた。

「確かに、何の武芸も無いのに、不思議でござるな…」と、是々清も、同調した。

「まるで、悪口を言われているような…」と、那華田は、顔をしかめた。口々に、ディスられている気がしたからだ。

「悪口じゃないよ。見たまんまだよ」と、洋介平が、淡々と言った。

「そりゃあないですよ〜」と、那華田は、溜め息を吐いた。偶然、知り得ただけだからだ。

「まあ、わしは、あくまで、可能性の話をしたまでじゃ。黄帝の下へ行けば、はっきりするじゃろうな。次の“げぇとたぁがぁ”の所へ向かうが良い。右側の門じゃぞ」と、津婆が、告げた。

「次は、右でござるか! 那華田殿。洋介平。いざ、参るでござる!」と、是々清が、意気込んだ。

「是々清の兄ちゃん、やる気満々だねぇ〜」と、洋介平が、おどけた。

 程無くして、二人が、飛び出した。

「またですか…」と、那華田は、表情を曇らせた。先刻と同様に、勢いで、出て行ったからだ。

「お主、手にしておる長物(ちょうぶつ)は、扱えんのじゃないのか?」と、津婆が、指摘した。

 その瞬間、那華田は、はっとなった。右手に、長剣を持っているのを忘れていたからだ。そして、「慌てていたもので…」と、苦笑いをした。剣を引き摺っていたからだ。

「そこの壁にでも立て掛けて置くと良いじゃろう」と、津婆が、右手で、指示した。

「は、はい」と、那華田は、言われるがままに、左側の壁へ立て掛けた。そして、「では、行って参ります!」と、一礼をするなり、踵を返した。程無くして、屋外へ出て行くのだった。

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