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五、骸骨剣士タガルトン

五、骸骨(がいこつ)剣士タガルトン


 那華田達は、津婆の小屋の裏手の薄暗い竹林の小道へ進入した。しばらくして、開けた場所に出るなり、両開きの三つの門扉の前へ突き当たった。

「ここに、門番は居ないようでござるな」と、是々清が、周囲を見回しながら、口にした。「そうですね。“げえとたあがあ”とか言うのは、見当たりませんねぇ」と、那華田も、同調した。確かに、人っ子一人見当たらないからだ。

「さっさと、行っちゃおう。あの婆ちゃん、ちょっと、惚けて居るんだよ」と、洋介平が、提言した。

「そうでござるな。邪魔が入らぬ内に、先を進むでござる」と、是々清も、賛同した。

「何か、勘違いをしているような…」と、那華田は、呟いた。言葉を履き違えているような気がするからだ。

「先ずは、左からだったね」と、洋介平が、左端の門扉へ、歩を進めた。そして、「えい!」と、押した。その刹那、「うわ!」と、弾き返されて、後方へ、数回もんどり打った。

「む! 結界でござるか!」と、是々清が、語気を荒らげた。

 その間に、那華田は、洋介平の所へ歩み寄り、「洋介平さん。大丈夫ですか?」と、気遣った。中々、激しい転がり方だったからだ。

「だ、大丈夫だよ。ちょっと、びっくりしたけどね」と、洋介平が、返答した。そして、立ち上がった。

「拙者が、結界を打ち破ってくれようぞ!」と、是々清が、大上段に構えながら、今にも斬り掛かろうとしていた。

「ちょっと、待って下さい!」と、那華田は、慌てて、声を発した。結界ならば、力ずくで、どうにかなるものでもないからだ。

「那華田殿、何か策でも有るでござるか?」と、是々清が、尋ねた。

「それは、ちょっと…」と、那華田は、口ごもった。結界を破る策など、知る由も無いからだ。

「ならば!」と、是々清が、仕切り直した。

「津婆さんに、結界の解き方を、教えて頂いてみては、どうでしょうか?」と、那華田は、提案した。津婆ならば、結界を解く方法を知っていると思ったからだ。そして、「洋介平さん、津婆さんの所まで、戻って下さい」と、指示した。自分よりも、洋介平の足の方が、速いだろうからだ。

 その直後、「おっちゃん。それは、無理だよ」と、洋介平が、拒んだ。

「どうしてですか?」と、、那華田は、洋介平を見やった。面倒臭がって、行きたくないのだと思ったからだ。

「おっちゃん、これで、どうやって戻れって言うんだい?」と、洋介平が、口を尖らせながら、右手で、来た道を差した。

 那華田も、その方へ視線を向けた。その瞬間、「え?」と、目を見開いた。道が、竹に覆われて、忽然と消えていたからだ。そして、「確かに、無理ですね…」と、言葉を続けた。確かに、道が無い以上、戻れと言うのは、無理難題だからだ。

「退路が絶たれた以上、力ずくでも、進むしかないでござるな」と、是々清が、淡々と言った。

「しかし、洋介平さん見たいに弾かれるんじゃあないんですかねぇ」と、那華田は、難色を示した。力業では、厳しそうだからだ。

「何かの合言葉的なものを言ったら、開いたりして…」と、洋介平が、口にした。

「そうでござるな。(まじな)いが掛けられているのでござるから、呪文さえ判れば、すぐに開けられるでござるのだが…」と、是々清も、溜め息を吐いた。

 その直後、那華田は、目を見開くなり、「あっ!」と、声を発した。カリヴァーが、自分を転生させた際に発していた言葉が、脳裏に浮かんだからだ。そして、「あのぉ〜。ひょっとしたら、門を開けられるかも知れませんよ」と、自信無さげに申し出た。旨く行くかどうか分からないからだ。

「那華田殿。何かを思い付いたのでござるな!」と、是々清が、にこやかに尋ねた。

「ええ。まあ…」と、那華田は、冴えない表情で、曖昧な返事をした。確信が持てないからだ。

「おっちゃん、駄目で元々なんだから、やりなよ」と、洋介平も、後押しした。

「そうでござる。失敗したら、拙者が、打ち破るまででござる!」と、是々清が、力強く口添えした。

「ははは…。分かりました…」と、那華田は、苦笑した。二人の期待が、重圧(プレッシャー)だからだ。そして、ぎこちない足運びで、左端の門の手前へ、進み出た。少しして、深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。間も無く、「ソー・クー・ヴェノラ!」と、叫んだ。しかし、何の音沙汰も無かった。

「やっぱり、駄目だったかあ~」と、洋介平が、ぼやいた。

 那華田は、振り返り、「すいませんねぇ〜」と、頭を下げた。そう都合良くは行かないのが、世の(つね)だからだ。

「那華田殿。後は、拙者に任せるでござる!」と、是々清が、意気込んだ。

 那華田は、頭を上げるなり、右へ避けた。結局、是々清の力業に頼るしかないからだ。そして、呆けた表情で、落胆した。役に立てないのが、情けないからだ。

「おっちゃん。最初から、当てにしてないから、大丈夫だよ」と、洋介平が、にこやかに、声を掛けて来た。

「そうですか…」と、那華田は、嘆息した。余計に、惨めだからだ。

 その直後、「でやあぁぁぁ!」と、是々清が、門へ向かって、大上段から斬り掛かった。次の瞬間、袈裟(けさ)斬りで、一閃した。

 程無くして、門扉が、斜めにずれた。

 その刹那、「あ…」と、是々清が、拍子抜けした。そして、「切れたでござる…」と、呆気に取られた。

「何だか知らないけど、あっさりと切れちゃったね〜」と、洋介平が、あっけらかんと言った。

「そうですね。是々清さんも、今回は楽が出来て、良かったですね」と、那華田も、同調した。結果オーライだからだ。

「いや。これは、拙者の実力ではござらん!」と、是々清が、異を唱えた。そして、「どうやら、那華田殿の呪文が、結界を打ち消したでござる!」と、理由を述べた。

「嘘だぁ〜」と、洋介平が、否定した。そして、「おっちゃんに、そんな能力(ちから)が有るなんて、信じられないよぉ〜」と、言葉を続けた。

「そ、そうですね」と、那華田も、右手で、後頭部を掻きながら、肯定した。通用したとは、到底、思えないからだ。そして、「しがないおっさんですので…」と、卑下した。偶々、旨く行っただけの事だからだ。

「う〜ん。那華田殿が、そう申すのでござるのなら、そういう事にするでござる」と、是々清が、聞き入れた。

「じゃあ、行こう!」と、洋介平が、先立って、門扉の前に立った。

「洋介平殿、危ないでござる!」と、是々清が、慌てて、忠告した。

 その間に、洋介平が、手を付けるなり、「大丈夫だよ」と、押しながら、返答した。そして、「門扉がずれてて、びくともしないよぉ〜」と、剥きになりながら、ぼやいた。その直後、髪の毛が、逆立ち始めた。

「よ、洋介平さん! だ、大丈夫ですか?」と、那華田は、うろたえながら、気遣った。よくは、判らないが、明らかに、何かしらの異変を視認したからだ。

「おっちゃん、何を言っているんだい? 逆に、力が、ギンギンに、みなぎっているよ!」と、洋介平が、力強く返答した。その直後、「ふん!」と、気を吐いた。次の瞬間、爆発を生じさせた。

 その刹那、瞬く間に、黄色い煙で、視界が利かなくなった。

「洋介平さん、短いお付き合いでしたが…」と、那華田は、言葉を詰まらせた。まさか、自爆をするとは、思ってなかったからだ。

「那華田殿。泣いている暇は、無いでござる…。拙者らは、先を急がなければならないでござる」と、是々清が、淡々と言った。

「た、確かに…」と、那華田も、頷いた。今は、洋介平の事を悲しんでいる場合ではないからだ。そして、「煙が晴れましたら、行きましょう。洋介平の犠牲を無駄にしない為にも…」と、言葉を続けた。先へ進む事が、洋介平の犠牲を無駄にしない手向(たむ)けだからだ。

「そうでござるな。拙者が、未熟なばかりに、洋介平をこのような最期を…」と、是々清も、悔やんだ。

 やがて、煙が、晴れた。

 那華田は、数歩先に、人影を捉えるなり、「どっひゃあー!」と、素っ頓狂な声を発した。何と、洋介平が、腕組みをしながら、立って居るからだ。そして、「あの爆発で…」と、信じられない面持ちで、目をしばたたかせた。木っ端微塵に、吹っ飛んだと思っていたからだ。

「洋介平…。お主、どうしてでござる…?」と、是々清も、訝しがった。

「何だい、二人共? おいらは、この通り、ピンピンしているよ!」と、洋介平が、不機嫌に、言った。そして、「勝手に、殺さないでよね!」と、言葉を続けた。

「いや、あの場合は…」と、那華田は、異を唱えた。どう見ても、自爆にしか見えなかったからだ。

「洋介平、説明をして欲しいでござる…」と、是々清も、要請した。

「そうですね。私としても、そこのところは、お説明(はなし)して頂かないと…」と、那華田も、口添えした。このままでは、消化不良を起こしかねないからだ。

「OK。説明してあげるよ」と、洋介平が、上から目線で、承諾した。そして、「おいらにも、正直、判らないんだけど、思いっ切り押した瞬間、黄色い空気のような塊を見た気がするんだよ。一瞬だけどね」と、語った。

「じゃあ、煙は、黄色い塊が、爆発したものですかね…」と、那華田も、見解を述べた。そう考えれば、合点が行くからだ。

「洋介平。そのような術を隠して、拙者を試していたでござるか?」と、是々清が、凄んだ。

「隠してなんていないよ。おいらも、今回が、初めて使うんだよ」と、洋介平が、何食わぬ顔で、回答した。

「確かに、洋介平さんは、隠し事の出来るような子供じゃないでしょう」と、那華田は、口を挟んだ。術が使えるのであれば、とっくの昔に、披露している筈だからだ。そして、「何かの弾みで、術が使えるようになったのかと思いますが…」と、考えを述べた。

「なるほど。那華田殿の申す事も、一理在るでござるな」と、是々清が、理解を示した。

「洋介平さん。先刻(さっき)のように、気張って貰えませんか?」と、那華田は、要請した。同じ状況(シチュエーション)を再現してみる価値が有りそうだからだ。

「う〜ん。分からないけど、やってみるよ」と、洋介平が、冴えない表情で、応じた。そして、少し腰を落とすなり、「うーん…!」と、気張り始めた。程無くして、先刻のように、髪の毛が、逆立ち始めた。

「洋介平さん、ありがとうございます。もう良いですよ」と、那華田は、告げた。確認出来ただけで、OKだからだ。

「だ、駄目だよ! 途中で、()められないよ〜!」と、洋介平が、切羽詰まった表情で、返答するなり、那華田へ向いた。

「どっひゃあ! 私を狙わないで下さい…!」と、那華田は、うろたえた。まさか、自分をロックオンされるとは、思わなかったからだ。そして、咄嗟に、背を向けるなり、尻を高くしながら、頭を伏せた。逃げる間も無いからだ。次の瞬間、「あ…」と、すかしっ屁を放った。恐怖のあまりに、思わず出てしまったからだ。

 間も無く、「臭っ!」と、洋介平が、口にした。

 少し後れて、那華田は、突き上げた尻の上を何かが通過したのを感じ取った。程無くして、頭を向けている竹林の方で、爆発音が、轟いた。その瞬間、「ふぅ〜。間一髪でしたね…」と、安堵した。辛うじて、危機を回避出来たからだ。そして、立ち上がり、振り返った。その直後、仰向けになっている洋介平を視認するなり、「洋介平さん! 大丈夫ですか!」と、駆け寄った。無理をさせたのだと思ったからだ。

「おっちゃん…。無事だったんだね…」と、洋介平が、弱々しく応えた。そして、「おいら、もう駄目…みたい…」と、言葉を続けた。

「わ、私が、変なお願いをしたばかりに…」と、那華田は、半べそを掻いた。洋介平にとっては、かなりの負担だったからだ。

 その間に、是々清も、寄って来るなり、「む! ここにも、瘴気が、蔓延しているでござる。ひょっとすると、この所為かも知れぬ」と、是々清が、開口一番に、告げた。

 その瞬間、那華田は、はっとなった。先刻のすかしっ屁が、原因だと察したからだ。そして、「じゃあ、少し離れましょう。私達も、瘴気にやられては、元も子も無いので…」と、しれっと、提言した。すかしっ屁を至近距離で嗅いだ事が原因だと考えられるからだ。

「そうでござるな。拙者も、少々、立ちくらみがして来たでござるので…」と、是々清も、賛同した。

 那華田は、先刻の爆発音がした方を見やった。その直後、竹林の一部が、吹っ飛んでいるのを確認するなり、「あの竹林の方へ移動させましょう」と、提案した。風通しも良さそうだからだ。

「そうでござるな。洋介平も、ここよりかは、具合が、良くなるでござろう」と、是々清も、頷いた。

 間も無く、二人は、洋介平を吹っ飛んでいる所まで、移動させた。そして、際の所へ下ろした。

「那華田殿。瘴気が、流れているとなると、進むのは、難しいでござるな…」と、是々清が、口にした。

「そ、そうですね」と、那華田は、苦笑しながら、相槌を打った。どうにも、自分の(オナラ)だとは、言い出しにくいからだ。そして、「私が、先を歩きましょうか?」と、申し出た。原因が判っているからだ。

「そうでござるな。那華田殿は、瘴気の中でも、平気のようでござるからな」と、是々清も、快諾した。そして、「怪異の類いならば、拙者が、相手をするでござるよ」と、力強く言った。

「その時は、宜しくお願いします…」と、那華田も、承諾した。流石に、魔物の相手は、無理だからだ。

 そこへ、「あれ? おいら、どうしちゃったんだろう…」と、洋介平の声が、割り込んだ。

「洋介平さん、気が付かれたんですね!」と、那華田は、歓喜の声を発した。洋介平の意識の回復が、喜ばしいからだ。

「瘴気が、抜けたでござるな!」と、是々清も、嬉々とした。

 程無くして、那華田は、説明を始めた。

 しばらくして、「なるほど。おいら、気を失って居たんだね…」と、洋介平が、納得した。そして、「おっちゃんは、大丈夫かい?」と、気遣った。

「私は、大丈夫ですよ。幸い、瘴気の影響は受けて居ませんよ」と、那華田は、白々しく回答した。心苦しいが、話を合わせておいた方が良いからだ。

「そっか。まあ、足手まといにならないでよねぇ〜」と、洋介平が、上から目線で、言った。

「そりゃあ、どう言う意味ですか?」と、那華田は、顔をしかめた。少々、聞き捨てならないからだ。

「何も出来ないのって、おっちゃんくらいだよ」と、洋介平が、指摘した。

 その瞬間、那華田は、はっとなった。確かに、戦う術が無いのは、自分だけだからだ。そして、「く…!」と、歯噛みした。役立たずだと言われているようなものだからだ。

「洋介平。本当の事でも、それは、言ってはいけないでござる」と、是々清が、追い討ちを掛けるように、窘めた。

「役立たずで結構です! さあ、先へ行きましょう!」と、那華田は、先立って、左の門へ向かって、歩き始めた。役立たずなりにも、意地が有るからだ。

 少し後れて、二人も、続いた。

 間も無く、那華田達は、進入した。しばらくは、なだらかな山道が続いた。そして、勢いそのままに、中腹に差し掛かった。

 突然、赤銅の西洋甲冑が、右の脇道から飛び出て来るなり、立ちはだかった。そして、間髪容れずに、楕円形の盾を構えながら、那華田へ、突進した。

 那華田は、避ける間も無く、「どっひゃあーっ!」はね飛ばされた。そして、坂道をもんどり打って、数回転がった。やがて、停止した。

「おっちゃん! 大丈夫かい?」と、洋介平が、気遣った。

 その間に、那華田は、体勢を立て直すなり、右手を上げた。取り敢えず、反応だけは示しておきたいからだ。そして、周囲を見回した。状況を把握しておきたいからだ。少しして、西洋甲冑から数メートルはね飛ばされている事を理解した。その手前では、洋介平が、安堵の表情を浮かべているのを視認した。更に、その先では、是々清と西洋甲冑が、剣を交えながら、膠着(こうちゃく)している姿を視界に捉えた。

 その間に、洋介平が、歩み寄って来るなり、「おっちゃん、痛い所は無いかい?」と、心配した。

「今のところは、特に…」と、那華田は、立ち上がり、返事をした。当たられた割には、痛み(ダメージ)が無いからだ。そして、「洋介さん、今は、是々清さんの加勢をお願いします」と、促した。是々清の負担を軽減させるべきだからだ。

「でも…」と、洋介平が、躊躇った。

「洋介平さん、あなたなら上手くやれますよ。あの竹林を破壊するくらいの威力なんですからね」と、那華田は、後押しした。そして、「これで、通用しなければ、それまでですけど、やってみましょう!」と、言葉を続けた。せっかくの能力(ちから)を使わない手は無いからだ。

「う、うん。やってみるよ!」と、洋介平が、奮起した。そして、「おっちゃんに、いきなりぶち当たって来たのには、何かムカついて来た!」と、髪の毛が、逆立ち始めた。

「私の分も、お願いしますね」と、那華田も、託した。今の自分には、反撃する力さえ無いからだ。

 間も無く、洋介平が、西洋甲冑の方へ向き直った。

「洋介平さん、盾を狙って下さい!」と、那華田は、指示した。力が分散されているので、洋介平の術ならば、通用するかも知れないと思ったからだ。

「分かった!」と、洋介平が、二つ返事で、承諾した。そして、すぐに気張り始めた。間も無く、髪の毛が、怒髪天のように逆立った。程無くして、「行っけぇー!」と、叫んだ。その直後、黄色い気の塊を放出した。

 次の瞬間、黄色い気の塊が、西洋甲冑へ向かって、真っ直ぐ飛んで行った。そして、瞬く間に、盾へ命中した。その刹那、爆発を起こした。その直後、黄色い煙に包まれた。

「よっしゃあー!」と、洋介平が、歓喜の声を発した。

「洋介平さん、喜ぶのは、まだ、早いですよ」と、那華田は、窘めた。煙が晴れるまでは、気を抜けないからだ。

「わ、分かったよ…」と、洋介平が、不機嫌に、返事をした。

 しばらくして、煙が晴れて、見通しが利くようになった。

 那華田は、真っ先に、西洋甲冑の方へ視線を向けた。どれ程の効果が出ているのか、気になったからだ。次の瞬間、「どっひゃあー!」と、驚きの声を発した。何と、予想以上の成果を目の当たりにしたからだ。そして、「これ程の威力とは…」と、驚愕した。盾を持っていた左半身が、吹き飛んでいたからだ。

 そこへ、「えいやー!」と、是々清が、目にも留まらぬ早業で、刀を切り返すなり、大上段へ振り上げた。そして、間髪容れずに、「はあああ!」と、気を吐きながら、振り下ろした。間も無く、頭頂部から一閃した。

 程無くして、西洋甲冑が、左右に分かれた。そして、是々清の足下へ、転がった。

「是々清の兄ちゃん、お見事!」と、洋介平が、称賛した。

 是々清が、振り返り、「いや。洋介平の助太刀のお陰でござるよ」と、謙遜した。そして、「助かったでござる」と、礼を述べた。

 その直後、那華田の足下へ、西洋甲冑の盾が、飛来した。

 その刹那、「どっひゃあー!」と、那華田は、尻餅を突いた。そして、目を白黒させた。またしても、同じ目に遭ったからだ。

「おっちゃん、ごめんよ〜」と、洋介平が、詫びた。

「ははは…。びっくりしただけですよ…」と、那華田は、苦笑した。まさか、盾が、飛来するとは、予想していなかったからだ。そして、「まるで、デジャブですね…」と、口にした。是々清達と出会った時の事が、記憶に新しいからだ。

「おっちゃん、立てるかい?」と、洋介平が、心配した。

「ええ。お尻の肉は、分厚いので、大丈夫ですよ」と、那華田は、返答した。腰を抜かした訳じゃないから、大丈夫だと判断しているからだ。

「そっか…。じゃあ、一人で立てるね」と、洋介平が、安堵した。そして、背を向けるなり、登り始めた。

「ちょっとは、(いたわ)って下さいよ!」と、那華田は、語気を荒らげた。薄情な態度に、イラッとなったからだ。

「それだけ、元気が有れば、大丈夫でござるな」と、是々清も、反転するなり、先を進み始めた。

「ま、待って下さい!」と、那華田は、慌てて、立ち上がった。二人に置いて行かれては、この先、魔物の襲撃から身を(まも)られないからだ。その直後、「あ…」と、盾が、視界に入った。自分の身を護るのには、最適の道具だからだ。そして、両手で、(ふち)を持つなり、「ふん!」と、腰に力を入れて、持ち上げた。その瞬間、大音量の放屁をした。

 突然、「タケ…。ント…」と、苦悶の声が、背後からした。

「え…?」と、那華田は、振り返った。その刹那、「どっひゃあー!」と、驚きの声を発した。竹の怪物が、突っ伏して居たからだ。そして、「私の屁の所為でしょうか…?」と、目を見張った。魔物さえも、突っ伏してしまう程の(にお)いに対して、戦慄(せんりつ)を覚えたからだ。その直後、「偶々ですよ」と、盾を引き抜き始めた。少しして、、クレーンゲームの要領で、持ち上げて、引き抜いた。程無くして、「早く追い掛けましょう…」と、忍び足で、その場を後にした。やがて、ある程度離れると、速足で追った。しばらくして、茶色く禍々しい鳥居が、見えて来た。その手前で、是々清達が、並びながら、立ち止まって居るのを視認した。間も無く、是々清の左隣へ到着した。

「那華田殿、奴が、本命でござる」と、是々清が、目もくれ無いで、間髪容れずに、告げた。

 那華田も、視線の先を見やった。そして、長剣(ロングソード)を構えた茶色い骸骨を視認するなり、「これが、“げぇとたぁがぁ”でしょうか?」と、小首を傾いだ。先に遭遇した茶色い骸骨と変わらない気がするからだ。

「おっちゃん、足手まといにならないでよね」と、洋介平が、上から目線で、忠告した。

「はいはい」と、那華田は、生返事をした。自分も、今回は、安全な場所から、見物するつもりだからだ。

 突如、骸骨が、那華田へ斬り掛かった。

「どっひゃあー!」と、那華田は、咄嗟に、両手で、盾を前面へ展開させた。その一瞬後、斬擊を受け止めた。その刹那、「ふぅ〜」と、安堵した。持って来て良かったと思ったからだ。

 その間にも、骸骨が、猛烈に、攻め立てた。

 そこへ、「いい加減にするでござる!」と、是々清が、割り込むように、間隙(かんげき)を突いて、右側から斬り込んだ。

 しかし、骸骨が、刀身で、受け流した。

「しまったでござる!」と、是々清が、体勢を崩されるなり、那華田へ、寄り掛かった。

「お、重い…」と、那華田も、支え切れずに、そのまま倒れ込んだ。是々清と甲冑の重量を支えられるほど、屈強ではないからだ。

「くっ! 風前の灯火でござる…」と、是々清が、歯噛みした。

 そこへ、「させないよ!」と、洋介平が、叫んだ。

 その直後、(つぶて)のような黄色い気の塊が、割り込んで、骸骨の追撃を妨害した。

「二人共、今だよ!」と、洋介平が、声を掛けた。

 その瞬間、那華田と是々清は、転がって、“げぇとたぁがぁ”から離れた。そして、ある程度の所で、起き上がった。

 その間に、洋介平も、歩み寄って来た。そして、「あいつ、手強いよ」と、洋介平が、口にした。

「そうでござるな。しかし、奴を倒さね事には、先へは進めないでござる…」と、是々清も、同調した。

「ここは、作戦を立てるべきでしょうね…」と、那華田は、何気に言った。まともにやっても、勝てそうもないからだ。

「拙者は、考えるのは、少々、苦手でござる…」と、是々清が、口にした。

「だろうね」と、洋介平が、溜め息を吐いた。

「私も、苦手なんですよ…」と、那華田も、自嘲した。頭脳労働は、苦手分野だからだ。

 その刹那、「確かに!」と、二人が、声を揃えた。

「そりゃ〜ないですよぉ〜」と、那華田は、口を尖らせた。心外だからだ。

「まあ、冗談はさておき。流石は、“げぇとたぁがぁ”でござる。隙が無かったでござる」と、是々清が、感想を述べた。

「そうだね。おっちゃんは、囮にもなっていなかったけどね」と、洋介平が、見解を述べた。

「そうですね」と、那華田は、力無く、相槌を打った。情けないが、その通りだからだ。

「那華田殿。拙者が、先刻の者と剣を交えて、囮になるでござる。その間に、鳥居へ向かうというのは、どうでござろうか?」と、是々清が、提案した。

「そうですね。でも、結界が張られてましたら、洋介平さんのような目に遭うかも知れません…」と、那華田は、難色を示した。“げぇとたぁがぁ”を突破出来たとしても、鳥居に結界が張られていれば、そこまでだからだ。

「そうだね。それに、あの骸骨が、すんなりと、通してくれるとも思えないけどね」と、洋介平も、口添えした。

「なるほど。拙者の考えが、浅はかでござった。

「でも、初手としては、悪くはないでしょう」と、那華田は、口にした。是々清に、剣を交えて貰えば、行動が、し易いからだ。

「なるほど。今度は、拙者から打って出るのでござるな!」と、是々清が、意気込んだ。

「で、おいら達は、どうするんだい?」と、洋介平が、やる気満々で、尋ねた。

「骸骨の足下へ、先刻と同じ大きさの奴を放ってくれませんか?」と、那華田は、注文した。是々清に気を取られて、足下までは注意が行っていないだろうからだ。

「で、おっちゃんは、どうするんだい?」と、洋介平が、問うた。

「デヘヘぇ。見ているだけですかねぇ」と、那華田は、苦笑いした。自分の出る幕は無さそうだからだ。

「洋介平、良いではござらんか。那華田殿が、我らに策を授けてくれたのでござるのだから」と、是々清が、あっけらかんと言った。

「ちぇ! 何だか、楽をしている気がするな」と、洋介平が、文句を口にした。

「すいませんねえ」と、那華田は、詫びた。そう見られても、仕方がないからだ。

「洋介平。那華田殿を信じて、行動に移ろうでござる!」と、是々清が、戦意を高揚させた。

「はいはい…」と、洋介平が、生返事で応じた。

 間も無く、「いざ、参る!」と、是々清が、刀を右に立てるなり、「やあぁぁぁ!」と、駆け出した。

 少し後れて、骸骨も、長剣を振り上げながら、ゆっくりと向かって来た。

 程無くして、是々清と茶色い骸骨が、剣を交えた。その瞬間、甲高い金属音が、響いた。そして、互いに、その場から動かなくなった。

 その間に、那華田と洋介平は、是々清へ当たらないように、素早く右へ移動した。そして、数歩の所で、歩を止めた。

 その直後、「洋介平さん、私の合図で、放出して下さい」と、那華田は、告げた。その方が、洋介平も、専念出来ると思ったからだ。

「ちぇ! しょうがないね〜」と、洋介平が、渋々、応じた。

 那華田は、骸骨の足下を注視した。頃合いを見極めなくてはならないからだ。しばらくして、骸骨の両足が、足首まで土の中へ沈むのを視認した。是々清が、優勢に押していると察したからだ。その瞬間、「今です!」と、告げた。

 その直後、「O〜K〜!」と、洋介平が、待ってましたと言うように、返事をした。その刹那、「行っけぇー!」と、叫んだ。そして、ドッジボール(サイズ)の黄色い塊が、勢い良く放たれた。程無くして、ほぼ、狙い通りの場所へ命令させた。次の瞬間、黄色い爆煙が、生じた。

 その途端、骸骨が、右へ体勢を崩した。

「やあーっ!」と、是々清が、剣を払い除けた。そして、勢い余って、骸骨の頭部も跳ね上げた。

 少しして、那華田は、骸骨の頭部を捕った。そして、恐いもの見たさに、視線を向けた。その刹那、骸骨の頭部が、下顎を動かしながら、歯を鳴らし始めた。その瞬間、「どっひゃあ!」と、驚きの声を発した。同時に、足下へ投げ捨てた。まさか、動き出すとは思っていなかったからだ。その直後、咄嗟に、「ソー! クー! ヴェノラ!」と、叫んだ。この言葉しか思い付かなかったからだ。やがて、打ち鳴らす音も止んだ。少しして、足下を見やった。程無くして、「あ…!」と、絶句した。骸骨の頭部は見当たらないが、茶色い粉末を視界に捉えたからだ。

 突然、「おっちゃん、鳥居を見てよ!」と、洋介平が、素っ頓狂な声を発した。

「何ですか?」と、那華田は、冴えない表情をした。厄介事ならば、うんざりだからだ。そして、嫌々ながらも、鳥居を見やった。その直後、「こ、これは…!」と、息を呑んだ。鳥居の色が、茶色いから黄色に変色しているからだ。

 その間に、是々清も、左隣へ歩み寄って来るなり、「那華田殿。洋介平。どうやら、“げぇとたぁがぁ”を倒したようでござるな」と、にこやかに言った。

「そのようですね」と、那華田も、頷いた。先刻の禍々しさも感じられないからだ。そして、「まさか…ね…」と、呟いた。ソー・クー・ヴェノラの呪文の効果だとは、信じられないからだ。

「おっちゃん。盾と骸骨の剣は、お持ち帰りするんだろう?」と、洋介平が、尋ねた。

「ああ、そうでしたね」と、那華田は、はっとなった。すっかり忘れていたからだ。

「おいらが、取って来るよ!」と、洋介平が、意気揚々に、申し出た。

「私も、付いて行きましょう」と、那華田も、応じた。骸骨の残骸が、襲い掛かるかも知れないからだ。

「拙者も、同行するでござる」と、是々清も、申し出た。

 三人は、盾と骸骨の剣在る所へ移動した。間も無く、到着した。

 那華田は、真っ先に、盾を持ち上げた。一応、防御力だけは、上げておきたいからだ。

「おっちゃん、この剣、(つか)の所に、何か、(きず)が付いているよ〜」と、洋介平が、告げた。

 少し後れて、那華田も、足下へ視線を落とした。程無くして、古びた長剣が、視界に入った。そして、しゃがんで、柄の部分を注視するなり、「これは、アルファベットですねぇ」と、口にした。

「う〜ん。おいら、習っていないから、読めないよ」と、洋介平が、苦笑した。

「これは、“TAGARUTON(タガルトン)”と、彫られていますねぇ〜。どうやら、持ち主のお名前でしょうねぇ」と、那華田は、見解を述べた。辛うじて、読めたからだ。そして、「私は、扱えそうもないですねぇ」と、頭を振った。盾を持つだけで、精一杯だからだ。

「拙者も、二刀流は、無理でござる…」と、是々清も、断った。

「このまま置いて行くのも、勿体無いよ」と、洋介平が、異を唱えた。

「確かに、まだ使えそうですねぇ」と、那華田も、同調した。そして、「使える人に出会うまで、洋介平さんが、お持ちになられては、どうですか?」と、提案した。洋介平が、まだ、手ぶらだからだ。

「おっちゃん。おいらは、子供だよ。それに、刃物だよ! 危険な物を持つのは、ちょっと…」と、洋介平が、文句を言った。

「洋介平。お主は、手が空いておるでござる! 文句を言わずに持つでござる」と、是々清が、凄んだ。

「う…」と、洋介平が、怯んだ。そして、素直に、両手で、長剣を持ち上げた。。その直後、「う、重い…」と、言葉を発した。

「ははは。鍛練でござるよ」と、是々清が、笑い飛ばした。

「笑い事じゃないよ!」と、洋介平が、怒鳴った。

「じゃあ、私のと交換します?」と、那華田がは、申し出た。盾と剣を交換しても良いからだ。

「い、いや。遠慮するよ」と、洋介平が、断った。そして、「早く、潜り抜けよう!」と、空元気を出して、鳥居の方へ歩き始めた。

 少し後れて、二人も、続いた。

 間も無く、那華田達は、鳥居を潜り抜けるのだった。

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