二、ある意味、最強かも…。
二、ある意味、最強かも…。
間も無く、「さあて、これから、二度目の人生を謳歌しましょうかね」と、頭頂が薄くなった男は、意気揚々と歩き始めた。その瞬間、白い霞がかった物が振り掛かるなり、纏わり付いた。そして、有無を言わさずに、強い力で、奥の方へ追いやられた。
そこへ、「拗士君。こんな虫、捕まえて、どうするんだい?」と、縮れ頭で、出っ歯の少年が、覗き込みながら、嫌そうな顔で、尋ねた。
「今度の大会に、参加させようかと思うとるんよ~」と、拗士が、棒読み口調で、返答した。
「わしは、虫に転生したと言うのか…?」と、頭頂が薄くなった男は、推察した。そして、「これは、虫捕り網みたいですね…」と、冷静に、状況を分析した。そう考えると、合点が行くからだ。
「クラスで馬鹿にされたから、こんなのを?」と、出っ歯の少年が、冴えない顔で言った。
「まあね」と、拗士が、返事をした。そして、「クラス最強昆虫選手権大会で優勝して、馬鹿にした奴らを見返してやるんよ!」と、熱っぽく言った。
「まあ、カブト虫やクワガタ虫が、定番だけど…。でも、昆虫だったら、何でもOKだから、それもアリだろうけど…」と、出っ歯の少年が、言葉を濁した。
「藻蛇君、何だか気に入らないみたいだけど、絶交する?」と、拗士が、高圧的に、示唆した。
「僕は、そんなつもりは無いよ。今日は、機嫌が悪いみたいだから、僕は帰らせて貰よ。また明日…」と、藻蛇が、腫れ物を触るような物の言い方で取り繕いながら、立ち去った。
「カブト虫やクワガタ虫に匹敵するなんて、わしは、いったい…」と、頭頂が薄くなった男は、ニヤッとなった。拗士という少年は、見所が有ると思ったからだ。そして、「まあ、大人しく、捕獲されましょうかね」と、その場に腰を下ろした。拗士の役に立ってやっても良いと思ったからだ。間も無く、居眠りをこき始めた。
不意に、「拗ちゃま、虫は、捕まったの?」と、女性の声がした。
その瞬間、頭頂が薄くなった男は、はっと目を覚ました。
少し後れて、「はい、ママ!」と、拗士が、意気揚々に返事をした。
「じゃあ、ちょっと、見せて」と、母親が、要請した。
「はい、ママ!」と、拗士が、すぐさま応じた。間も無く、面長の母親の顔の前へ、差し出された。
少しして、「どれどれ?」と、母親が、覗き込んだ。その刹那、視認するなり、「む…!」と、露骨に嫌な顔をした。そして、「これは、捨てなさい!」と、指示した。
「ママ~! 明日まで、お願い! ケースから出さないからさ! 明日のクラス最強昆虫大会が終わったら、処分するからさ!」と、拗士が、すかさず、必死に頼んだ。
母親が、顔を離すなり、「分かったわ。でも、ケースに入れたら、絶対に出しちゃあ駄目よ」と、すんなりと許可した。
その瞬間、「やったぁ!」と、拗士が、歓喜の声を上げた。その直後、家の中へ駆け出した。
その途端、頭頂が薄くなった男は、激しく揺さぶられた。しばらくして、動きが止まった。そして、「ああ~! 目が回るぅ~」と、言葉を発した。こんなに、揺れが激しいとは、思ってもなかったからだ。
少しして、「屁をこかないでくれよ~」と、拗士が、クレーンゲームのアームのように、左手の親指と人差し指で、摘まむなり、網から丁重に出された。そして、小物入れ用の立方体の箱へ移した。その直後、透明のプラスチックの蓋で、上部を塞いだ。その途端、密閉空間となった。間も無く、立ち去って行った。
少しして、「あれ? このような状況は、前にもあったような…」と、頭頂が薄くなった男は、口にした。既視感があったからだ。間も無く、既視感を気にする事無く、天を仰いだ。転生した姿が、気になったからだ。その直後、プラスチックの蓋に、自身の姿が映っているのを視認した。次の瞬間、「なるほど。確かに…」と、頷いた。藻蛇と拗士の母親の嫌そうな反応に、合点が行くからだ。そして、「確かに、カメムシでしたら、ある意味、最強チート生物ですね」と、納得した。カメムシの放つガスは、何人たりとも、逃げ出す臭いだからだ。程無くして、「ふわぁ~」と、欠伸をして、横になった。自分の姿も判り、急に、退屈になったからだ。やがて、眠りに就いた。次に、目を覚ますと、周囲は暗くなっていた。
突然、何かしらの音がするなり、天井から強い光が差し込んだ。
その瞬間、「な、何ですか!」と、頭頂が薄くなった男は、驚きの声を発するなり、意図せずに、放屁をしてしまった。
瞬く間に、ガスが、容器内に充満した。
その直後、「クサッ!」と、頭頂が薄くなった男は、再び、逝ってしまった。しかし、今度は、カリヴァーに会う事無く、昇天するのだった。
カリヴァーが、転生の間で、その一部始終を見ていた。