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ストーリー・フェイト  作者: 白糖黒鍵
RESTART──先輩と後輩──

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キミョウナフウケイ

修正しました。

 自分がどんな状況に置かれているのか。一体どんな現実に晒されているのか。それを改めて再確認して、再認識して。


 結果打ちのめされ、打ち(ひし)がれ。寝室から立ち去り、一階のリビングへと戻った僕は────この手に、先輩の得物を握っていた。


 例の、十字架(ロザリオ)を模した剣の柄を、独り握り締めていた。


 今はもう、ただただ逃げたかった。逃げ出したかった。


 だから、僕はこの剣と向かい合う事にした。


 元は魔石であったそれは、僕には到底得体の知れない物体にしか見えない。正直、こうして手に触れることも憚れる。けれど、今では都合が良い。


 ……この現実から一時でも目を逸らせられるなら、もうどうだっていい。


 一回目の【鑑定】をかけた時は、意味不明で訳のわからない情報と雑音が視界を通して、脳内に流し込まれ。そして二回目の【鑑定】は弾かれた。


 全く以て、理解ができない。こんな事は、これまでの冒険者(ランカー)業では初めての事だ。


「………」


 よく臭いものには蓋をせよと言うが、まさしくこれの事なのだろう。


 人間という生物は愚かにも好奇心というものがある。気を紛らわせる為でもあったが、本音を言えば僕は、結局この剣に対しての興味を捨て切れずにいた。


 少々見た目が変わった変哲のない、ただの綺麗な剣。だがその中身はとんでもなく不明瞭(ブラックボックス)。だからこそ、そうであるからこそ。


 こうして、僕は否応にも惹かれてしまうのだろう。


 そして、遂に。三度目の正直というやつで、僕は【鑑定】をかけた。






 瞬間、剣から放たれた光の奔流が、僕の手の内側を抉り侵入し突き進み、刹那にして僕の脳天に到達し意識を破砕した。




















 ──────それは、全ての空だった。朝と、昼と、夜を滅茶苦茶に混ぜ合わせ、無理矢理に統合させた、全ての空の色であった。


 そして其処の中央に浮かんでいるのは────太陽。深淵から抜き取ったように昏く、常闇を写し込んだように黒い、漆黒の太陽だった。


 その漆黒の太陽に、周囲に浮かぶ全ての雲が、空と共に吸い寄せられていく。雲は互いに繋がり輪を作り、空は不可思議な模様を描き出す。


 何とも幻想的で────終末的な風景だった。それを、僕はどうする事もなく、ただ呆然と眺めていた。


 そして、気づいたのだ。


 ──……え…?あれ、は…………。


 いつからそこに立っていたのか。先程からか、それとも最初からか。


 白く眩き輝きを放つ髪は、風もないのに揺らめいている。


 その右手には十字架(ロザリオ)を模したような剣が握られており、その刃先は光で覆われ、また地平線を引くかのように伸びていた。


 こちらに背を向けるその人は、浮かぶ漆黒の太陽を眺めているのか頭を少し上げている。


 それから唐突に、ゆっくりとこちらの方に振り返った。


 その顔を見て、僕は思わず目を見開かせる。何故なら、その顔は──────






















「……っ……?」


 気がつくと、僕は床に倒れていた。……何故か妙に身体が重い。


 上半身だけを起こして、周囲を見渡す。まだ外は濃密な闇に覆われているようだ。


 そうして、ふと気づいた。僕のすぐ側に、先輩の得物であるあの剣が転がっている事に。鞘代わりに包んでいた布も剥がれ、あらぬ方向へ飛んで落ちて広がっていた。


「僕は、一体……いやそれよりも何で床に?僕が落としたのか……?」


 心からの疑問を呟きながら、その剣を拾い上げる。


 ……やはり、こうして眺めれば。形状の変わった、ただそれだけの、本当に変哲のない剣だ。


 布も拾い上げ、剣身を包みテーブルへと置いて。僕はソファに座り込み、目を閉じる。


 ──……明日も早いんだ。いい加減、もう寝なきゃな……。


 未だ、僕の迷いは消えていない。先輩へ対する認識は……変わっていない。


 それでも、構わずに。この現実から逃げ出したくて、何も考えたくなくて、思考を断ち切りたくて。


 そうして僕は────意識を放り捨てた。

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