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ストーリー・フェイト  作者: 白糖黒鍵
RESTART──先輩と後輩──

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RESTART(その三)

「で」


 凛然とした先輩の声が、エンディニグル・ネガの嘲った高笑いを貫いて断つ。そのまま、先輩はその場から歩き出し、僕よりも前に一歩踏み出し、エンディニグル・ネガの目の前まであと数歩というところで立ち止まった。


「先輩ッ!」


 最初こそ不覚にも呆気に取られてしまって、止めることもできずにただ黙って見てしまっていた僕だったが。すぐさま我に返るや否や、先輩を呼び戻そうとする。


 先輩がこちらに振り返った瞬間、僕は堪らず息を呑む。声と同じく、その表情も凛としていて。そして何よりも、綺麗だった。


 呻き声一つすら漏らせず、何も言えなくなってしまった僕に対して、一瞬だけ先輩は優しく微笑みかけ。すぐにまた、エンディニグル・ネガの方へと向き直る。


「さっきからガタガタ御託ばっか並べて抜かしてっけどさ。結局お前、何がしたいんだ?」


 先輩にそう訊ねられたエンディニグル・ネガが、ゆっくりと一回、首を回す。そうして今度は教会の天井を仰ぎ見るのだった。


「……何が?何がしたいか、だと……?」


 天井を仰いだまま、エンディニグル・ネガは静かに呟き、そして先程とは打って変わって静かに笑い始める。肩を小刻みに揺らしながら、微かな笑い声をくつくつと漏らす。


 数秒、数十秒────そして。






「復讐だァッ!!!お前をぶっ殺したいに決まってんだろうが、ええ!?ラグナ=アルティ=ブレイズゥッ!!」






 と、今にも血涙が流れ出るのではないのかと思う程に血走った目を、そのままぽろりと零れ落ちそうなまでに見開かせて。唾を宙に飛ばしながら、エンディニグル・ネガがそう叫んだ瞬間。


 先輩だけを取り残すようにして、その背後にあった全てが────こちらが気がつく頃には既にもう、諸々悉(もろもろことごと)く、跡形もなく消失していた。


 教会の至る箇所から、危なげな軋んだ音がひっきりなしに聴こえる。またしても壁を失ったことで、もはやこの教会が倒壊するのも時間の問題だろう。


「……ぐ、は、はぁ……!」


 そんなことを他人(ひと)事のように呆然と考えた後、僕は思わず忘れてしまっていた呼吸を再開させ。しかし、咄嗟に構えた剣はそのままに、佇むエンディニグル・ネガから目を離さない。


「何考えてるんです!?先輩!」


 と、堪らず糾弾するかの如く叫んでしまう僕に、少しの間を置いて、先輩が僅かばかりの申し訳なさを含んだ声音でこう返す。


「啖呵は前に出て切んなきゃ、格好つかないだろ」


 ……まあ、実にそれは先輩らしい理由だった。しかし、僕としてはなるほどそうだったんですねと、頷く訳にはいかない。


「だからって「それに()()()()()、あいつは」


 透かさず続けようとした僕の言葉を遮って、あくまでも先輩は依然平然とした声音で以て、冷静にそう言う。


「ほう、わかっているじゃあないか。ああそうだ、殺さんよ。この程度では殺さんさ、貴様だけは尚更……殊更に、な」


 と、不快で嫌味な嘲笑を浮かべながら、エンディニグル・ネガもまたそう言う。


 ──……それくらいのこと、僕にだってわかっている。


 まだ一言二言、短い間で交わした程度だが。しかし、それでも十二分にエンディニグル・ネガの悪辣さと醜悪さは伝わり、理解できた。この手の輩が、ただでさえ恨み辛みが募りに募った相手を、一捻りで一思いに殺したりする訳がない。


 存分に甚振(いたぶ)り、弄んでから。そうして初めて、ゆっくりと、じっくりと手にかけるだろうことは。考えるまでもなく、そして火を見るよりも明らかだ。


「……だからって、看過できる訳ないでしょう……!」


 改めて、先程遮られた言葉を。僕は震える声で先輩に伝える。


「それに、クラハなら絶対助けてくれるって思ってたし」


 すると先輩はこちらに振り返って、揺るがない信頼の声音で以て、僕にそう言うのだった。


 ──……さっき僕のこと(ずる)いって、言ってましたけど。あなたのそういうところが、一番狡いと思います。


 と、本当なら口に出してそう言いたかったが。その曇りも淀みもない瞳で見つめられては、とてもではないが口が裂けても言えそうになく。僕は小さく嘆息するしかなかった。


「さて……では長話もそろそろ終いとしようか」


 そう言い終えたエンディニグル・ネガから、魔力が静かに放たれる。それは触れただけで肌が微かに痺れ、息が詰まるような圧を否応にも感じてしまう────だが、それでも()()()()()()()()()


 性能(スペック)の低下は否めない────と、先程エンディニグル・ネガは言っていた。確かにその言葉通り、今やあの圧倒的で絶対的だった強大感は、確実に薄れているのだ。


 ──こいつを見過ごす訳にはいかない。僕が今ここで、やるしかない……!


 僕は長剣(ロングソード)の柄をより力を込めて握り締めながら、静かに息を吸い、ゆっくりと吐いて。そして、エンディニグル・ネガを正面から真っ直ぐに見据える。


「……あぁ?人間、何だその目つきは?よもやよもや、この我に、このエンディニグル・ネガに挑む訳ではあるまいな?ハハハッ!」


 と、酷く面白おかしそうに(わら)うエンディニグル・ネガに対して、僕は告げる。


「そうだ」


 瞬間、エンディニグル・ネガの嗤い声が止まり────






「エンディニグル・ネガ。僕がお前を、討つ」






 ────それに構わず、僕は続けてそう言い放った。

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