表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストーリー・フェイト  作者: 白糖黒鍵
RESTART──先輩と後輩──

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

191/261

終焉の始まり(その一)

 そこは第一(ファース)大陸の辺境にある、どこかの森の中。周囲には街はおろか小さな町や村などもなく、故に人もいる訳がなく。


 その為普段────というより、行く当ても定めず、ただ自由気(まま)に、己が儘に放浪を続ける旅人くらいなもの……と、ここはそう言いたいところなのだが。実のところ、そういった旅人でさえも、この森を通ることはない。彼らは通ろうとは考えもしないだろうし、そう思いたくもないだろう。




 人喰いの森────と、誰も彼もが異口同音にそう呼び伝えている、この森だけは。




 最初は単なる噂の、信憑性の欠片もない、ホラの与太話でしかなかった。何処にでもあり、誰からも耳にする、恐ろしい魔物(モンスター)の棲家、巣窟、縄張り────そういった類の。


 だがこのような辺鄙なただの森が、そんな世界(オヴィーリス)中の秘境魔境(ダンジョン)にも勝るとも劣らない、危険な場所であるとは誰もが考え難く、誰もが思わないでいた。


 ……しかし、『火のないところに煙は立たない』────そんな第三(サドヴァ)大陸の極東(イザナ)にあるその(ことわざ)が指し示す通り、人が。旅人であったり、噂の真偽の程を確かめようと好奇心に踊らされた者だったり。そういった諸々の理由でこの森に入った者たちは。


 皆、その全員が全員、一人として。帰って来た者はいなかった。その人数が徐々に増える度、噂は真実味を帯び始め。やがて内包されていた恐怖は人から人へと伝わり。村や町、そして栄えた都市街にも伝播し、そうした末に。


 恐ろしい魔物(モンスター)の棲家、巣窟、縄張り────そういった類の。


 このような辺鄙なただの森が、世界(オヴィーリス)中の秘境魔境(ダンジョン)にも勝るとも劣らない、危険な場所であると誰もが考え、誰もが思うようになり。




 人喰いの森────最初に誰かがそう呼んで、いつしか誰もが皆全員、そう呼ぶようになっていた。




 ガララガラガララ──そんな人々が一様に恐れ怯える人喰いの森を現在(いま)。一台の馬車と、それを囲うようにして方陣を組みながら歩く、五人の冒険者(ランカー)たちがいた。


「にしてもこれがかの悪名高い、人喰いの森……けど、今のところその呼び名を実感できそうにないな」


「所詮噂は噂ってこった。もしくはおっかなびっくらこいた臆病者(ビビリ)の、傍迷惑な誇張表現だったんだろうさ」


「いや、それはどうだかな。事実この森を訪れた奴は漏れなくお陀仏、あの世へ逝ったことは確かなんだ」


「まあまあ。僕ら冒険者番付表(ランカーランキング)入りの冒険隊(チーム)、『噛狗』であれば。例えこの森が噂通りの場所であったとしても、難なく突破できますよ」


 と、互いに軽口を叩き合う四人。そんな様子を良しとせず、彼らの先頭を歩く男────この冒険隊『噛狗』の隊長(リーダー)であるヴォルフ=ブリードが叱責するように、四人へこう言う。


「わかっているのか、お前たち。これは遠足などではない。いつまでも遊び気分でいると、死ぬことになるぞ」


「わかってますよ隊長。何せ今回の依頼(クエスト)は大仕事。前金百万Ors(オリス)の報酬一千万Orsなんです。大金の為にも気なんて抜いちゃいられませんって」


「……ああ、だったらそれでいい」


 ヴォルフに嗜められ、隊員の一人が彼にそう返事する。しかし、その声色からも十二分に察せられる通り、気が緩みに弛んでいることは明白であり。当然そのことを見抜いているヴォルフは、半ば呆れたような表情を浮かべるのだった。


 ──全く……これはそろそろ、替え時か。


 自分の過ちならばいざ知らず、他人の不出来の為にこちらまで迷惑を被るなど、堪ったものではない。この依頼を達成した後、冒険隊(チーム)から誰を追い出し、そして冒険者組合(ギルド)の誰を穴埋めに使おうかと、ヴォルフが考える────のと、ほぼ同時のこと。


「ん?何だぁ、こりゃ」


「霧か……?」


 と、冒険隊の二人が言う通り。唐突に、この周囲に薄らと霧が立ち込み。瞬く間に、その霧は濃くなる。それはもう、少し先も、一寸先ですらも見通せない程に。


「……全員止まれ」


 毅然としたヴォルフの声が森全体に響く。それに続き、他の冒険隊(チーム)の面々も言われた通りその場に立ち止まる。


「どうするんです、隊長(リーダー)。こんなところで立ち往生なんてごめんですぜ」


「そうですね。できれば日が落ちてしまう前に森を抜けたいですし……」


「黙っていろ。馬車を囲むようにして、円陣を組め。今は少し、様子を見る」


 この程度のことで早々に色めき立つ面々に、堪らず苛立ちながらも、ヴォルフはそう言って彼らを律する。そして自分でも言った通り、彼は霧に包まれ覆われた周囲を見渡す。


 先程、つい今し方まで。天気に異常も、気候に変動も、特には見られなかった。それ故にこのような霧の発生は考え難い。いや、あり得ない。山の中でもないというのに。


 ──青天の霹靂とは正しくこのことか……。


 と、内心そう呟きながら────徐に、ヴォルフは腰に下げている得物の柄へと、手を伸ばした。


「総員、戦闘た






 ザシュッ──そして毅然とした声で、冒険隊の面々にも各々の武器を手にし、戦闘態勢に移るよう指示を飛ばそうとしたヴォルフの首が飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ