・・・相変わらず、元気がいいな
「この公園におびき寄せてくださるなんて流石は柊さんですね!
広いところに来ればあたしたちが戦いやすいですもんね!」
空から颯爽と登場してきた西條さんはさっきまで俺が殺されかけていたことなどお構いなしで
俺に一方的に話しかけてきた。
「別にそういう意図ではなかったんだけどな・・・
いや、まあそういうことにしておくよ」
西條さんの圧に気圧された俺は歯切れ悪くそう返した。
この細くて華奢で小さな身体のどこにそんなエネルギーが詰まってんだろう。
身長は俺より30センチ近く小さいのに・・・
少なくとも俺の5倍はバイタリティがありそうだな、なんて思う。
「でも、あたしたちが来たからにはもう安心ですよ!
ねえ、紗希?」
「ええ、そっ・・・あはは
もう千織行っちゃったみたい」
腰に手を当てて得意そうに雪峰に話しかけていた西條さんは
雪峰さんの返事を待つことなく瞬間移動でもしたみたいに・・・
いや、正確に言えば異能によって高速移動を行いグリフォンの目の前にいた。
それだけじゃない。
気が付けば瞬く間に西條さんの右ストレートがグリフォンの左頬から嘴あたりを粉砕していた。
瞬きしたせいで殴った瞬間は見逃したけど。
反射的にグリフォンは咆哮を上げて西條さんへ噛みつこうとしたが
攻撃のスピードがあまりにも遅すぎる。
西條さんは体を捩じってグリフォンの攻撃をうまくいなすと、今度は右頬へ左フックが炸裂し
続けざまに右ローキックでグリフォンの前足を破壊した。
どうやらこの数秒で流れるようにコンボを決めてしまったらしい。
格ゲーでも中々こんな綺麗に決まらないぞ・・・
「・・・相変わらず、元気がいいな」
気が付けば西條さんは一方的にグリフォンをタコ殴りにしていた。
あまりのスピードに闇夜の中で青白い残像ができたおかげで
遠目にはまるでグリフォンの周りを蛍が待っているかのように見えた。
高速移動であらゆる角度からの打撃を加える西條さんの姿を
俺の肉眼では全く捉えることができていなかった。
あまりに一方的な展開に
流石に観念したのか、グリフォンは大きな翼を広げて夜空の闇に溶けて逃走を試みようとしたのだが・・・
「逃がしませんよ!!!とりゃあー!!!」
飛び立って地面から数メートル空中に浮かんだグリフォンに
脚力のみのジャンプで追いついた西條さんは
広がった2メートル弱ほどの片翼を掴んで、そのまま重力の力も利用しつつ
強引に引きちぎってしまった。
「キィーーー!!!」
途端に再びグリフォンの悲鳴に似た断末魔が公園に鳴り響き、制御できなくなった戦闘機の如く地面に激突した。
本当、見かけによらず野蛮な戦い方をする子だな、西條さんは・・・
気が付けばグリフォンは、西條さんにボコボコにリンチされ、翼も捥がれてしまい
公園の照明に照らされた身体から黒曜石の破片のような残骸をキラキラと光らせながら、地面崩れ落ちてしまった。
終わってみればさっきまでの俺の死の決意は何だったのか、というくらい
あっさりで一方的な決着だった。
立ち上がろうにもうまくいかないようで、弱った虫のように何度も折れていない後ろ足で地面をひっかいて藻掻き続けていた。
「もう終わったのか・・・」
「・・・」
「ふう!・・・もう!大丈夫ですよ!」
そんな壊れたおもちゃのようになったグリフォンの様子を遠目で見ていた俺たちに
気が付いた西條さんが手招きをしてくれた。
俺と雪峰さんは恐る恐るといった感じでゆっくりと、グリフォンの残骸に近づいた。
「・・・早かったな」
「あたしに掛かれば朝飯前ですよ!
しかもここなら広いから周りを気にせずに戦えますしね」