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五月病っていうのがガチの感染症だと思ってしまった人の話

作者: フィボナッチ恐怖症

 時は5月6日。その日パンデミックが起こった......と本気で思っている人がいた。そんな人のお話。


 朝、ぼくは学校に着いた。けれど、教室にはなぜか誰もいない。普段なら7人くらいいるはずなのに。珍しいこともあるもんだなぁ。

20分くらい誰も来ないまましばらくボーッとしているとゆっくりと教室の前のドアが開いた。


 入ってきた人は人には見えなかった。


「た、たす......け......て」


 顔はやつれ、足取りもなんとなくおぼつかない。雰囲気的にはゾンビになりかけのように見える。そして、倒れかかるように椅子に座った。


 さらに5分ほど経つと再びドアが開いた。クラスメイトの大半が授業直前になってなだれ込んできた。

しかし、他のみんなもなぜかさっきの人とおんなじような雰囲気だ。


 ぼくの友達の中島が隣の席に着いた。


「中野、やっほ」


「あ、あぁ......磯島......」


「元気がないけどどうしたのさ?」


「ちょっと病に......」


「休んだ方がいいって」


「いや、休んだってそれは延命措置に過ぎないよ......」


 中野は何を言ってるんだろうか。中野はさらに続ける。


「それだけじゃない、休めば休むほど後で重症化するんだ......」


 なんのなぞなぞだろう。


キーンコーンカーンコーン


 授業開始のチャイムが鳴った。それと同時に先生が入ってきた。先生は至って元気そうだ。


「はい始めるぞー。起立」


 しかし、ぼく以外の誰も席を立たない。ほら言わんこっちゃない。

少しするとポツリポツリとみんなが立ちはじめ、やっと授業が始まった。


 ぼんやりと授業を聞いていて、気づくと周りのみんなはもう前を向いていなかった。

机に突っ伏して死んだように動かなくなってしまった。


 ぼくは心配になったので、中野の脇腹を人差し指でつついてみた。


 まったく動く気配がない。ぼくは恐ろしい病気を目の当たりにしてしまったと思った。心配と同時にぼくも感染してしまうのではという恐怖に駆られた。


 人は他人を心配するよりも先に保身を考えるもの。ぼくは、この教室から逃げることにした。

何の考えも無しにぼくは席を立った。


 その途端にガシッと右手首を掴まれた。


「どこに行くつもりなんだ? 磯島、お前だけ逃げるのは許さないぞ」


 中野が強い力で引っぱってくる。

まさか......

すでにゾンビにでもなりかけているのか?

みんなみんなすでにゾンビになりかけなんだ。

このクラスの生き残りはぼくと、先生だけ。


 救援を呼ぼう。


 ぼくは携帯を出し、119と打つ。


「もしもし、クラスメイトが全員倒れてしまって、至急助けてください。×÷学校です」


 焦りすぎてその勢いで切ってしまった。


ぼくは仕方なく席に着いた。ちょうど先生は後ろを向いていたようで、何も起こらなかった。電話を掛けたことにすら気づいていなかったようで、助かった。


ピーポーピーポー


 救急車がやってきた。

するとすぐに隊員が教室に入ってきた。


「大丈夫ですか?」


 先生も流石に隊員には気づいたようで、


「どうかされましたか?」


 と問いかける。


「通報がありまして。通報したのはどなたですか?」


「ぼくです」


 手を挙げて示す。


「みんな倒れてしまって、新しい感染症のようでして」


「症状は」


「足元がおぼつかず、来るなりみんな倒れてしまいました」


「状況を確認してみます」


 隊員は隣にいた中野に話しかける。

しかし、中野はうめき声をあげるだけだった。


「もしかすると......」


 そう言って隊員は携帯を取り出し、何やら動画を再生し始める。

軽快なリズムと共に誰もが知る曲が流れ始める。


「アワビさんだ」


 その曲と同じくして、中野が激しく苦しみだした。


「病気が分かりました」


「何ですか?」


「五月病です」


「何ですか? それは。もしかして、五月の間は治らないんですか?」


「いいえ、ただ、休みが終わったのが嫌なだけです。アワビさん症候群っていうのも同じようなものなので試してみました」


「つまり、現実逃避ですか?」


「はい」


 ぼくは顔が熱くなっていくのを感じた。完璧にやらかした......


 五月病をこれ以降忘れまい。ぼくはそう自分に誓った。

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