第四話「傘」
ゴールデンウィークいかがお過ごしでしたか。土日に更新できてません、すみません。1週間に一回の投稿は守りたいと思います。もし見てくれた方は何でも構わないのでコメント残してくれたら幸いです。
―学校―
登校三日目にして学力テストである。日向は遅刻しなかったものの、この日が学力テストである事を忘れていたのはお約束の展開である。案の定結果は悪く追試が確定した。
「お前、部活もしてないんだから勉強ぐらい何とかならんか?そもそも中学生の範囲だぞ?ちゃんと今まで勉強して来たのか?」
先生に質問攻めにされ何も反論できない日向は、素直に自分の欠点を認め決意する。
「先生、俺何としてでも追試をクリアします!」
日向の作戦はカラオケに行ったメンバーに勉強を教えてもらう事だったが、悉くその作戦は潰れていった。
「今週は部活あるから、すまん」
「ごめんね、委員会あるあら」
「マネージャーの仕事忙しくて…ごめんね」
「悪いなサッカー部遅れちゃいけないんだ」
日向もここまで断られると、人に頼る事を止めて自力で解決するしかないと思い込み始めていた。
……最後は柚記か。もし駄目だったら人に頼るのは諦めよう――
「うん。いいよ」
「ほ、本当に⁈」
「私図書委員だから、先生に言えば図書室使えると思うよ」
柚記の協力もあり二週間真面目に頑張った勉強の末、何とか無事に追試をクリアすることが出来た。日向は追試クリアの嬉しさと同時に、柚記との仲が深まった事にも嬉しさを感じていた。
―教室―
雨が降っている。追試を無事にクリアしたあの日から三日程経過した放課後、何気ない会話が飛び交っていた。水門が窓際で外の様子を確認している。
「今日は雨だし室内練習かな。日向は追試終わったけど勉強していくのか?」
「するわけないだろ~かえってゲームでもするよ」
「ほんと日向はど・ん・か・ん・ね!それだから勉強もできないのよ」
ため息をついてから呆れた様子で理彩が物申してきた。
「はぁ?何のことだよ」
日向は理彩の言っている事が理解できず少しばかり苛立っている様子だ。
「それじゃ私委員会の集まりから、またね」
「俺も室内だろうけど部活行ってくるわ!」
理彩と水門は教室にいる日向と信助の二人を残しそれぞれの行くべき場所に向かう。
「んだよあいつら、信助は今日部活か?」
机に右肘を置き掌で顎の下から頭を支える姿勢をとり、日向は拗ねながら言葉を発している。
「今日はさすがに野球部もミーティングだな。今は道花を待ってるってわけよ」
「そっか。なら俺は帰るとするかな、じゃあな」
「おう!また明日学校でな!」
日向はポッケに手を入れ考え込みながら一人昇降口へと向かう。
……みんな何かしら出来てて、それに続けられてて良いな――
昇降口に着き、下駄箱から靴を取り自分の傘を取ると一人の女の子がいる事に気づく。
「あれ、柚記?教室にいないと思ったらここにいたのか。何してんだ?」
柚記は日向の声だと気づいたのか髪がなびくのを押さえながら振り返る。
「雨が止むのを待ってるの、傘忘れちゃって」
「え、あ、そ、そっか」
柚記が振り返った際の姿が日向の目に美しく映ったのか日向は緊張気味だ。
「は、入ってく?」
自分の口から予想外の言葉が出てしまった事に気づき日向は急いで次の言葉を探す。
「ほ、ほら~あれだよ!柚記に勉強教えてもらったから追試合格できたし!そのお礼って言ったらなんだけど…」
焦っている事を少しでも悟られないように視線を合わせようとするが、逆に目が泳いでいる。
「フフ、いいの?」
「うん」
二人は雨が降りしきる中、一つの傘に入り帰り道を進んでいく。日向の左肩が濡れているのは何気なく柚記の方に傘を寄せているからだ。柚記は学校から歩いていける距離に家があるらしく日向は家まで送り届ける事にした。
「ゆ、柚記は趣味とか興味あるものとか、ないの?」
「う~ん、何だろう。服とか?あ、ここ左ね」
そんな何気ない会話が続いているが、厚い雲から降る雨は止む気配を一向に見せない。
……このまま雨が止まなければいいのに――
時はあっという間に過ぎ二人の会話も落ち着き始めた頃、橘家前に到着した。
「日向、ありがとね!」
「大丈夫だって!さっきも言ったけど、これはお礼も兼ねてるんだよ」
「でも本当にありがと!じゃあさ今度一緒にどこか行かない?」
日向は辺りを見回し他に誰もいないことを確認する。
「お、俺に言ってるのか⁉もし俺に言ってるなら全然オーケーだよ!」
「ハハ、日向しかいないじゃん」
柚記は少し考え込む素振りを見せ、やがて一つの答えを出した。
「うん、買い物行こうよ!」
―教室―
「昨日柚記と二人で帰ったって本当か⁉」
日向と柚記が約束を交わした翌日の朝、既にいつものメンバー内で噂になっていた。そんな噂を聞きつけ、仲のいいメンバーは朝から日向をからかいにきている。
「昨日相合傘してたじゃない!私昨日教室に戻るとき見たんだからね!それで何話してたの?」
水門と理彩のテンションはいつも通り朝から高く日向に事情聴取のようだ。
「べ、別に傘忘れてたから入れてあげただけだよ」
「デート行くんでしょ?」
親友に関する事だからか、いつにもなく道花が質問をしてきた。
「マジカッ!いつの間にそんな関係になったんだ?日向がどんどん遠ざかっていくのが見えるぜ」
「え、そうなのか?」
水門は日向の返事を待つ前に道花の質問をあっさりと信じ、切れのいい突っ込みを入れては勝手に自分の妄想に肩を落としている。信助は分かっていながらも明らかにからかい口調で話に乗っている。
「話が飛躍しすぎだ!別に大したことじゃなくて一緒に買い物に行こうって話になっただけだよ」
「大したことあるじゃねーかッ!」
全員が口をそろえて反論してきた。勿論、他のクラスメイトも今の大きな声でこちらに注目してしまった。
「て、ていうかデートはさておき、俺と柚記が一緒にどこかに行くって道花は何で知ってるんだ?」
「だって昨日の夜柚記から連絡あったからね。日向と相合傘してたでしょー?って聞いたら買い物に行く話も聞けたってこと!」
そんな話を日向たちがしていると先生が入ってきた。柚記は後ろのドアから先生よりほんの少し遅れた程度で教室に入れ遅刻ではなさそうだ。
「ホームルーム始めるから席に着いてくれー」
日向の周りに集まっていた四人を含むクラスメイトはそれぞれの席に戻っていく。
「で、どこに買い物しに行くんだ?」
「まさか買い物だけで終わらす気じゃないでしょーね?」
先生の声に紛れひそひそ声で前と右の席の水門と理彩が質問をしてくる。
「場所は決めてないけど買い物だけじゃだめなのか?」
「映画とかランチとかには行かなきゃ!」
「おーーい!そこうるさいぞ!」
先生もさすがに声に気づいたのか叱ってきた。黒いオーラもメラメラし始めている。
「す、すみません!」
三人は即座に謝ったが水門と日向は黒いオーラに反応したのか立ち上がって謝っている。
……ったく俺まで怒られたじゃねーか。つーか本当にただの買い物だし何もないよな――
日向は柚記の方を見ると不思議とまた目が合ってしまった。柚記はニコッと微笑んだので日向もニコッと笑ったが、ぎこちない笑顔だったのか柚記は声に出ないよう笑いを抑えていた。
……学校で柚記と日程決めようと思ったけど、あいつらにからかわれそうだし時間の取れる夜にメールしようかな――
―日向マイホーム―
「買い物の事なんだけど今週の日曜日とかどうかな?」
夕飯を食べ終えた日向はスマホを片手に自室の椅子に腰かけ一人柚記からの返信を待っている。買い物が待ち遠しいのか頭の中でプランを練り始めている内に返信がきていた。
「日曜日空いてるよ!何時にしようか?」
日向は柚記からの返信を受けた途端に笑顔になっている。
「駅前に十時集合でどうかな?」
「分かった!それと私もだけど日向も寝坊しないようにね」
柚記からの返信にふと笑ってしまった日向は、前日は早く寝るよとだけ返信してメールの時間を終えた。その後は当日まで日を重ねるごとに日向の気持ちは高揚し続け、ついにその日を迎える。