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第二話「初日の終わり」

土日に出せなくてすみません。噓つきは泥棒の始まり皆さんも気を付けましょう。でもいずれはこの物語がないとどうしようもなくなっちゃうぐらいあなたの心を盗みます。

第二話は入学式後の自己紹介がメインのお話です。

 教室が騒がしい。入学式を終えた僕たちは式中の拘束感から解放された事で、大いに自由感を満喫していた。中には一人の者もいるが、大抵は二人以上のグループでいる。日向も後者の枠から外に出ている訳ではなく、小学生から親友の信助と入学式で知り合った水門と一緒にいた。

ガラッッッバンッ!!

 突然予想だにしていなかった爆音で教室前方のドアが開き、教室は静寂に包まれる。

「おっとすまんな、大して力は入れてなかった気がするが…」

 そこにはこのクラスの担任と思われる一人の女性の姿があり、先程の尋常ではない爆音と恐怖言動から、ただ者ではない人が先生になってしまった事をこのクラスの全員が悟った。教卓に向かうその姿は、顔面偏差値の高さとは裏腹に独特なオーラを纏った鬼教師そのものであり、クラス全員が息を飲みこむと同時に初めて息が揃った瞬間でもあった。

「とりあえず皆席についてくれ、これから席替えをしたいと思う。反対意見があっても、既にこれは決定事項な訳で何がなんでも実行するがな」

 先生が黒板にチョークで教室の見取り図と机の配置を簡単に書き、でたらめに数字を書いている。僕たちは言われるがままに動き、先生が事前に用意していたくじ引きを引いていた。くじ引きと言えど祭りのようなくじ引きではなく机の上に番号の書いてある紙が伏せてあり、当然番号が分からないようになっている。その引いた番号と黒板に書いた番号が一致した席になる仕組みである。

……仕組みは理解した。だけど、引いた番号をクラス全員の前で宣言してから自己紹介をするなんて流れ聞いたことが無い。次は俺の番か――

「十三番を引きました。日向です。えっと、趣味はゲームで部活は今のところ入るつもりはありません。よろしくお願いしまっす」

……こんなものだろう自己紹介なんて、さっさと席に着くかな――

 日向が何のひねりもないごく普通の自己紹介を終え、席に着く間も他人の自己紹介は続いている。日向は窓側で前からも後ろからも三列目に当たる席を引き当てた。

……窓側なのは良かったけど、まさか真ん中とはな。これは授業中に眠るのも弁当を食うのも難しそうだな――

 そんな集中して授業を受ける事を真っ向から反対するような事を前提に考えていると、一人の女の子の自己紹介に気がついた。

「十番を引きました。(たちばな)柚記(ゆずき)です。あ、あの今朝遅れたのは教室で寝過ごしてしまって、その、明日からは寝坊に気を付けます!」

 教室で笑いが起きている。

「あ、あと皆さんこれからよろしゅくお願い…しま…す…」

 橘柚記の天然さが溢れる挨拶で、緊張と先生のオーラで張りつめていた教室の空気が変わっていた。一礼を終えた橘柚記の頬の色もまた、赤く変わっている。そんな橘柚記は正面を見る事が恥ずかしくなったのか視線を逸らす。だがその先には今朝、体育館に向かうまで一緒にいた日向の姿があった。

……俺と橘さんの目が合っている――

 橘柚記にとって本来はたった一秒程度の時間である。しかし日向は一秒以上の時の流れを感じていた。一秒という秒数になるまでには細かく無限に等しい数があり、その無限に等しい一秒未満の数を確認するような時間と言えば分かるだろうか。日向と柚記の間には音もなく、周りの人間の情報が一切遮断されたような空間を少なくとも日向は感じていた。そして日向が我に返ったときには、橘柚記は目の前にはいなく既に着席をしていた。

 席決めの為のくじ引きと、自己紹介がセットになっている小規模イベントが終わるのに約三十分の時間を要していた。

「よし、一通り終わったな」

 先生が締めの挨拶をするらしい。

「今日から1年D組の担任をすることになった伊藤(いとう)麻美(あさみ)だ。担当授業は古典だから分かっているとは思うが、お前らと関わるのは古典の授業と、朝とその日の終わりのホームルームだけだ。まあ、あとは無いと思うが、おまえらの内のバカが悪さをして説教の為に大事な時間を無駄にして呼び出すときぐらいだな!」

 最後の付け足しの言葉だけ鬼の形相になっている事を確認したクラスメイトは、誰もが先生の逆鱗に触れないよう心に誓った。

「今日はこれで解散になるが、部活体験に行くやつは忘れずにな。それと明後日は、学力テストになる。赤点者同様に強制追試になるから、くれぐれも休まないようにすることだな。では解散!」

 日向は明後日に学力テストがある事を知り、憮然として声も出ない中初日は終了した。

―放課後―

 1―Dのホームルームが終わるのを確認した直後、一人の教師が教室に入ってきた。今朝日向と柚記の遅刻を叱った体育会系の男である。

「おい日向、ちょっと来い」

 そう告げた直後、日向を連れ廊下に直行する。

……や、やっぱりか。そりゃ、あの時は切羽詰まって珍しく正解に近い考えが浮かんできて言い逃れできたけど、遅刻した事は消えないしな。入学早々反省文パターンかなこれは――

「な、なんですか?」

「お前今朝の事覚えてるよな」

「は、はい」

「お前、陸上部入らないか?」

「マ・サ・カ・ノ勧誘ッッ!」

「い、一応聞きますが、なんで俺なんですか?」

「それは勿論、今日の走り良かったからな!体力付けたら良い所目指せるぞ!」

「今朝の走りは遅刻しそうで急いでいただけです!それに部活は長続きしないので、申し訳無いですが入れません」

「少しでいいんだ。なあ、陸上部入らないか?」

「いや、本当に勘弁してください!今日はバイトあるんで失礼します!」

 日向は嘘をつくことが、この場から逃げる最善の手段だと考え足早に帰った。だがこの逃げという手段は、先生がより日向に興味を示すきっかけになるとは、この時の日向は思ってもいなかった。

「やはりあの走り、良いなッ!」

「はあ、はあ、はぁ~。今日は何でこんなに走らなきゃならないんだ。」

 日向は廊下の角を曲がり、教室の前に陸部の顧問であろう奴がいないことを確認すると、再び遭遇しないよう警戒をしながら教室に戻った。

「お、戻ってきたか日向、おかえり!」

 くじ引きで日向の前の席を引いた水門が、日向の帰りに気がつき周りの目など気にせずに大声で声をかけてきた。勿論、日向は大声でただいま!なんて言うはずもなく、周りの不思議そうな視線に囲まれながら自らの席に着く。

「なあ日向、お前部活入らないんだっけ?」

「うん。自己紹介でも言ったけど、俺は部活には入るつもりないよ」

「そっか、じゃあサッカー部入らないか?」

……この流れさっきもあった気が――

 日向は嫌な予感がしながらも、走って逃げる事なく会話を続ける。

「部活はしないって言っただろ、まあ一応聴くけど理由は?」

「さっき陸部の先生に勧誘されてただろ?それにあのダッシュ!速かったな~何か運動してたのか?」

……全部見ていたのか――

「足が速いかは知らんが、部活は入らないしそもそも出来ない。」

「できない?」

「日向は小学生の頃から、何事も続いたことが無いからな」

 日向と水門が話しているのを気になったのか、一人でいる事が苦になったのか、日向と小学生からの付き合いである信助が口を挟んできた。

「信助が全部言ってくれたな、そういうことだ。認めてるし、治してこなかったから悔しくはないけど、こればかりは否定もできね」

「そ、そうか。まあ、そう言う事ならしゃーないな。改めてにはなるけど、信助も日向もこれからよろしくな!楽しくしようぜ!」

 一度は空気が少し重くなったものの、水門が機転を利かせ空気の重さを低減させる締め方をした。そのおかげもあり良い流れで再び日向も信助も水門の挨拶に快く返事をした。

「よろしく!」

「よろしくな!」

「さて、そろそろ俺はサッカー部の部活体験にでも行くかな」

「よし、信助帰ろうぜ!」

「何言ってんだ?俺はこれから野球部の部活体験に行くんだぞ」

「そ、そうだったな。お前は根っからの野球バカだったもんな。しょうがない一人で帰るか」

 日向は深いため息をつくと、鞄を持ち帰路に就く。

「あ、あの…」

 日向が教室前方のドアから出ようとしたまさにその時、一人の女の子が話しかけてきた。

「け、今朝は起こしてくれてありがとう。誰も起こしてくれてなかったら、きっと入学式には出られてなかったよ。本当にありがとう」

 柚記はどうやら放課後に友達と話している最中、日向が帰宅するところを見かけわざわざお礼を言いに来たらしい。

「い、いや気にしないでよ。えっと…橘さん?」

 日向は忘れるはずもない橘柚記の名前を、変に誤解される事がないよう確認するように名前を呼ぶ。

「うん、橘だよ!あ、帰るところだったよね、引き止めちゃってごめんね」

「全然大丈夫、大丈夫!じゃあ俺は帰るね、また明日」

「うん、また明日ね」

 日向は先程の友達二人に見捨てられ、一人で帰らなければならない辛さなど一瞬で吹き飛んだ様子で学校を後にした。

―マイホーム―

「ただいまー」

「あんた今日入学式に遅刻したでしょ!」

 日向のお母さんは日向が靴を脱ぐ暇も与えないほど即座に叱ってきた。

「それを言いたいのも分かるけど、息子が帰ってきたのにおかえりも無しかよ」

 日向は呆れた顔でため息をついた。

「お母さん恥ずかしかったんだから!周りのお母さん方も笑ってたんだからね!」

「そんな事分かってるよ!ったくうるさいなー、眠かったから仕方ないだろ!」

 疲れているせいか、いつもより苛立っている事を日向自身も感じていた。これ以上苛立つのも疲れるだけだと考え、二階にある自室へと向かう。

「ゲームするなら早く寝なさいよー、それか部活やりなさい!」

 日向母が下から叫んでいる内容は日向にも聞こえていた。

……長続きしないから、部活はやらないって何度も言ってるだろ――

 吐き捨てたい言葉は胸に抑え、怒りを抑えるために日向はゲームを始めた。

「くっ、ふうわぁ~~~」

 伸びと大きなあくびをした後、日向はベッド横にある時計を確認する。

「ウゲッ、もうこんな時間か…不思議とゲームだけは長続きするんだよなー」

 明日の事も考え日向はゲームデータをセーブし電源を切る。布団にダイブし、日向もシャットダウンしたのであった。


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