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◇
「いや、グサリかしら……」
そう呟きながら私はあの日ではなく、最近のアルフレッド様の行動、更にはテレシア様と一緒にいる姿を思い出す。剣で背中を突っつかれている気持ちで。
何しろ、もう体裁とかのレベルではなく、貴族社会の中であの行動は本格的にまずい状況になっているので。
つまりはこれ以上、彼らが何か問題を起こせば婚約者の私も連帯責任を取らされるところまで来ていると……
まあ、ただし、流石に体をグサリと刺し貫かれることはないだろうけれど。
「多分……」
そう呟いた直後、私は「いけないいけない」と、頭を振る。
それから、深呼吸後に彼らのことを頭から追い出し、学院の中庭へと移動も。
今日は気分転換も兼ねて花壇に水やりをしようと思っていたので。何か楽しいことを考えながら。
もちろんアルフレッド様以外のことで……
なのに、そう思った直後、今日の私には運がないらしく、中庭の隅辺りから悩みの種である彼らの話し声が聞こえてきてしまったが。
「ちょうど良い、いつも何を話しているのか聞いてみない?」
エドガーの声も突然……と、私は振り返る。
「でも、盗み聞きは……」
「いや、彼らに迷惑をかけらている君には聞く権利があると思う。それに、今後の君の為にもなるかもしれないから」
「ああ、なるほど」
私は確かにと納得する。
それから、エドガーと共に彼らが何を話しているかバレないよう近づいていき……
「ねぇ、ジラール様ぁ、セーラ様って凄く冷たいですよねぇ。本当にあなたの婚約者なんですかねぇ?」
「あ、ああ、最近セーラの商会から資金援助が止まってしまったしどういう……いや、それよりドナール男爵家とヌース商会って仲良いみたいだね。今度、僕を紹介してくれないか?」
「えーー、今はそんな事どうでも良いじゃないですかぁ」
「い、いや、どうでもって……」
「ねぇ、それよりもベント様ぁ、アイリス様のこと知ってます? あの人、最近、怖そうな男性達と一緒に話してたんですよぉ」
「な、なんだと、人に不貞行為だとか言ってあいつこそ酷い……いや、それよりもダスティンという男を知ってるかい?」
「知りませんよぉ。あっ、もしかして私が浮気してると思ってるんですかぁ!? 酷いわぁ!」
「ち、違うんだよ!」
「アルフレッド様ぁ! 皆が私を虐めるんです。きっとフリージア様の差し金ですわ! 早くどうにかして下さいよぉ!」
「フリージアはそんな事……」
「この前、アルフレッド様の事を悪く言ってましたよ。役に立たない人だって! 酷くないですか!」
「なっ、彼女がそんな事を!? くっ、私がどれだけ辛い思いで頑張っているのかも知らないくせに……」
「そうですよぉ。アルフレッド様は頑張ってますよぉ。あんな悪女にアルフレッド様は似合いませんよぉ!」
「……確かにそうだな」
「だからぁ、アルフレッド様の事を誰よりも見ている私が沢山慰めてあげますよぉ」
「テレシア、君は私の事を良くわかっているな。フリージアとは大違いだ……。最近は君が気になってしょうがない。それで……」
ただ、これ以上、友人や自分を愚弄する会話を聞いているのはもう我慢の限界……と、勢いよく飛び出し、驚く四人に必死に怒りを抑え込みながら言ってしまったが。
「そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……」
そして、さっさと立ち去ろうとも……したのだけれど、エドガーの代わりにいつの間にか側にいて四人を睨んでいるセーラ様とアイリス様に驚きかかけてしまって。
まあ、なっただけで目で合図をしてきた二人と共にその場をすぐに立ち去ったけど。
何も言ってこず、更には追いかけてすら来ない婚約者に幻滅しながら。
それは、再び私達の前に現れたエドガーが用意してくれた学院の空き部屋でしばらく呼吸を整える為に休んでいても全く消える気配もなく。
要は彼らの信頼は今では地の底って感じで。
「今、飲み物を頼んだからすぐ来るよ」
それこそエドガーとは大違いで……
私はそう心の中で呟き、少し彼から離れた場所に座る。
それから、飲み物が来てしばらく無言でティータイムも。
ただし、エドガーが「実を言うと事情があって彼らの行動を調べていてね。だから、確実な話をするよ。ドナール男爵令嬢と君達の婚約者だけど、浮ついた関係ではない」
そう言ってきたことで思わず「そんなことは絶対にない」と、言葉を出しそうになってしまったが。
それは口を開きかけたセーラ様も……そう思っていたら、我慢できなかったらしく彼女は眉間に皺を寄せながら口を開いてしまう。
「あんなふざけた会話をしていてもですか?」
そうエドガーに質問をして。
ただ、「あれはドナール男爵令嬢が一方的にしている事だよ。まあ、けれども、彼らのあの言葉は酷いとは思うけど。あの言葉が嘘だとしてもね」
そう言ってエドガーが私の方に視線を向けてくるとセーラ様はすぐに何かわかったという表情に変わったが。
私と共に。
それから少しだけ遅れてアイリス様も。
エドガーの言葉に思い当たるふしがあったのか手を打ち納得した表情を浮かべたので。
「私達もあの会話は聞いていましたが、彼らはテレシア様の何かを探っているのですね」
私が頭の中で思っていたことを口にして。
「ふむ、騎士団に探りを入れさせているサマーリア伯爵令嬢はわかってしまったか。いや、もう二人もわかったみたいだね」
そう言ってくるエドガーの言葉に私達三人で微笑み合って。
まあ、すぐ真面目な表情にもなったが。
「けれども、あのやり方は駄目ですわよ」
そう言ってくるアイリス様の言葉に頷きながら。
「そうね。やはり、私達にも相談してほしかったわ」
「ええ、そうですよ。私達は婚約者という繋がり以外に家との繋がりもあるのですから」
「全く、そんなことさえ理解しないなんて」
「まあ、それには理由があるんだ。ドナール男爵家が悪徳と言われるヌース商会と違法取引をしている証拠を見つけて自分達だけの手柄にしたかったっていう」
「えっ……。でも、どうしてそんな危ないことをわざわざ彼らだけでする必要が?」
「現在、貴族連中の取り締まりを任されている第一王子、つまりは王太子殿下を職務怠慢で糾弾し、失脚させたいから……と言ったら?」
私達は思わず「ええっ!?」と、一斉に声を出してしまう。
だって、彼らが王家の争い事をしているとは露ほどにも思わなかったので。そんなことをすれば必ず火の粉がこちらに降りかかるだろうし。つまりは私達だけでなく、それぞれの親にも絶対に教えてくれるはずと。
そう考えていたらエドガーがわかりやすい理由を言ってくる。
まあ、ただし呆れてしまう理由だったけれど……
「ちなみに最初はドナール男爵令嬢の不貞行為を暴くだけだったらしいけれど、途中から欲が出たらしくて……いや、きっと彼らよりも優れている君達を認めさせたいってところじゃないかな? まあ、今じゃ、逆にドナール男爵令嬢という毒蜘蛛に半分絡め取られている状態なんだけど」
それこそ、心の底から……と、今までのアルフレッド様の行動に対して腑に落ちてしまう。
ただ、「それで、知ってしまった君達はどうする?」という質問に私は黙ってしまったが。
「信頼と信用がない人を身内にはしたくありませんので私は婚約解消をします。今までの件に、テレシア様へのプレゼントの明細書をお見せすれば、向こうは拒否すらできないでしょうから」
セーラ様がそう言ってきても。
だって、私の婚約は王命なのだから。
そう思いながらも、嘘を吐いてまでテレシア様から情報を聞き出そうとしているアルフレッド様を今後信用できるだろうか? そう疑問を抱いてしまっていたが。
特にあの時、言っていた言葉を思い出せば。あれこそ、彼の本心なのではないだろうかと。
エドガーの話を聞いてしまったら限りなく……
そう考えているとアイリス様が勢いよく立ち上がる。
「私はじっくりとベント様とお話ししてみますわ。まあ、まともな話をする前に今まで散々、私に言ってきた事の言い訳を聞いてからですが」
更にはそう言うなり先ほど彼らがいた中庭の方に凍りつくような視線を向けて。もはや婚約は解消されるであろうと誰にでもわかる雰囲気で。
しばらくするとセーラ様、エドガーと共にこちらに視線を向けてきたが。
答えは決まっているでしょうという雰囲気で。
ただ、残念なことに期待に応えられる返事は私にはできなかったけど。
「私はアルフレッド様を支えます」
この婚約は何度も言うけれど王命、それにアルフレッド様は不貞行為をしたわけじゃないので。
つまりは傷つくことを言われたぐらいで婚約解消したいと願い出ても、せいぜい言葉のあやがあったと有耶無耶にされてしまうだけで。
まあ、仮にできたとしても、その後に王家によってローグライト公爵家が報復されてしまう可能性も否定はできないけれど……
つまりは私が我慢すれば良いだけなのだと。
それは事情を理解でき、黙ってしまう三人を見ていると改めてそう考えにも至ってしまって。
もちろん、本心は違っていたのでとても心苦しかったが。
それに腹立たしさも。特にお開きになった後、一人で廊下を歩いているさいにアルフレッド様に出くわしてしまったら。
「フリージア……」
しかも、声を聞いたら余計に。
だからといって顔には出さなかったが。
「安心して下さい。もう二度とあなた方の邪魔は致しませんので」
それこそ足早に横を通ろうとした際にアルフレッド様に邪魔をされ、手首を強く掴まれても。
ただし「君はいつだってそうだ! 私がどれだけ苦労してるのか知らないだろう!」
そう言われた直後につい睨んでしまったが。
「だから、相談なり手伝わせて欲しいと言いました。全て私の所為にしないで下さい!」
そう言いながら。
何しろ、流石に我慢できなかったので。いきなり掴んでくる非常識な者に対しては。
そして、自分が悪いのに睨んでくる相手には。
そう思っているとアルフレッド様がものすごい形相になり、こちらに向かって手を振り上げてくる。
ただし、顔を背けた私にいつまで経っても痛みはこなかったが。
おそるおそる顔をゆっくりと上げても。
エドガーがアルフレッド様の腕を掴んでいたので。私に向かって申し訳なさそうな表情をしてきながら。
そう思っていると、表情通りに彼は謝ってくる。
「すまない。遅れてしまって君に怖い思いをさせてしまった。それと第二王子、女性に暴力とは見過ごせませんが」
そう言うなりアルフレッド様を睨み、さっさと、離せとばかりに掴んだ腕に力も入れて。
だから、「痛っ!」と、アルフレッド様は顔を歪ませ、私の手首から慌てて手を離してきたが。
自分の腕を気にして摩りだしながら。
「痣になったらどうするんだ……」
そう呟いてきて。
エドガーが私の手首に優しく触れ、「酷いな。手の形になってしまっている。すぐに医務室に行こう」
そう言ってきた直後、バツの悪そうな雰囲気も出してきたが。
「一人で大丈夫です。私と一緒に行くとあらぬ疑いをかけられますから」
私が首を横に振るとなぜだか、安堵した表情にも。
まあ、私はもうアルフレッド様の方は見ずにエドガーの方に向き直ったが。
「なので、エドガー様。どなたかが私を追って来ないようにもお願いします」
何しろ、当分、アルフレッド様の顔は見たくないので。
それこそ、同じ場所で呼吸することさえ。
ただ、そう思っていたら今度はもう一人の顔を見たくない方に残念ながら出会ってしまったのだが。エドガーと別れて医務室に向かう途中の階段付近で……




