チャージ2 最初の街のゴブリン
【次へ進む】をクリックすると、武器選択へと移った。
▲お気に入りの武器を選んでください。
ズラッと並ぶ武器の数々。
かなりの数だ。
剣に大型剣、槍にハンマーに鞭。
おやっ? 銃や爆弾もあるのか、この世界は。
子どもなら武器選びだけで数時間かかりそうだ。
大人もだけど。
ただ、俺は本格RPGにはかなりのブランクがある。
勘を取り戻すためにも、最初は無難なもので行こう。
この『鉄の大剣』がいいな。
無骨な金属製の大型剣。
スキンヘッドの大男、ラズリーにお似合いだろう。
それに俺の経験上、どんなゲームでも大きな剣は強い!
武器を選び終えると、ステータス画面が表示された。
▼ラズリー=ロドリゲス▼
腕力 35
体力 39
速さ 25
魔力 9
抵抗力 27
魅力 5
《二つ名》 なし
《スキル》力を溜めまくる
《装備》
武器・鉄の大剣
体・粗末な腰巻き
▲このキャラクターで始めますか?
【ゲームを始める】【やり直す】
ふうん。
腕力と体力が高く、魔力と魅力が低い…
ほぼラズリーの見た目通りのステータスだな。
…おや?
スキルも既に所持している。
【力を溜めまくる】か。
いかにも一面ボスが持ちそうなスキルだな。
強いスキルなのかな?
最近のゲームはスキルが重要だと聞くけど。
俺は武器や魔法が重要だった世代の人間だから、よく分からないが…
まあいいか。
俺は【ゲームを始める】をクリックした。
▲お疲れ様でした。
あなたの分身となるキャラクター制作は終了です。
旅は、テンペスト王国の小さな街から始まります。
一足先に世界各国、数千万人ものプレイヤーがあなたを待っています。
発する言語は即座に翻訳され、コミュニケーション問題は起きません!
それでは自由な冒険者となって、この世界を楽しんで下さい。
素晴らしい英雄となって、この世界を救ってください!
ゲームが始まります!
♦︎♦︎♦︎
…
……
……程なくして、俺は噴水のある広場に現れた。
どうやら小さな街の広場のようだ。
牧歌的な音楽が流れてくる。
なんか懐かしいな。
まさにRPGの最初の街って感じだ。
ずっと遠くには汽車のような乗り物が走っているのが見える。
ふむ…
ファンタジー世界とはいえ、科学もそれなりに発展した世界のようだ。
広場は結構な賑わいを見せていた。
多くのプレイヤーが集まってる。
みんな、なかなか格好イイキャラを作ってるなぁ。
自撮りから作ったのかな?
おっ…髪が虹色の人もいるな。
肌が紫色の人も。
俺には考えもつかないデザインだ。
感心する。
世界中にプレイヤーがいるというだけあって、いろんな感性があるな。
ただ、この辺りのみんなは俺と同じゲーム初心者だろう。
ふっ…
俺ほどの元・ゲーム少年なら、彼らの格好を見れば予想がつく。
俺の装備と同じような、貧相な衣装だからだ。
みんな黙々と武器を振ったり、ジャンプしたり、前回り受け身をしたり木によじ登ったりしている。
動作の練習か?
かなりシュールな光景だな。
それに、ぶつぶつ独り言を呟いているな。
何をしてるんだろう…?
…ああ、そうか、ヘルプと話してるのか。
ヘルプの姿は他人には見えないんだっけ。
あれ? そう言えば、俺のヘルプのロゼッタはどこ行った?
俺の周りをウロチョロしてるんじゃなかったのか。
どこかの壁に引っ掛かったか?
《ラズリー!
コッチです! コッチに来てみて下さーーい!》
ロゼッタの声だ。
振り返ると、大きな噴水の側で俺を手招きしていた。
言われるままに噴水に近寄ってみる。
すると…
滝のように流れる噴水に、俺の姿が映し出された。
「うおおっ」
俺の姿がラズリーになっている…!
ムキムキマッチョだ!
髪の毛がない! 眉毛すらない!
低くて渋い声になっている…!
骨折した左足も動くぞ…!
自分自身と全く同じ様に動かせる。
VRゲームは初めての経験なのだが…話に聞く以上のシンクロ感だ。
《あはははは、ビックリしましたか?
意外と可愛らしい驚き方しますねぇ、ラズリーは!》
ロゼッタはお腹を抱えて笑っていた。
…いや可愛いのは、お前だろ…
さて、それじゃ。
オレもみんなの真似をして、木登りの練習でもするべきなのかな。
それとも…
「のう、そこの若いの!」
「えっ? 俺ですか?」
びっくりした。
近くの木に登ろうとしたところで、
突然ベンチに座った老人が声をかけてきた。
「最近この辺りでもモンスターが増えたのう」
「は、はい、そうですか…」
「さっきも、そこの路地裏でゴブリンを見たんじゃ。
物騒な世の中じゃ」
…
ああ…
これは多分NPCだな…
一瞬気づかなかったが。
世界には色んな感性があるにしても、
老人をキャラメイクするプレイヤーは少ないだろう。
《NPCさんは目を凝らしてみると、名前や役名が見えますよ》
目を凝らして見ると『ベンチに座るお爺さん』という名前が浮かび上がった。
やはりNPCか。
この世界には従来のRPGのように、NPCも普通にいるようだ。
路地裏のゴブリン…
きっと初心者の練習用モンスターだろう。
考えてみれば、木登りの練習なんて要らないな。
さっそくゴブリンで実戦練習だ!
よし行くぞ、ロゼッタ。
壁に引っかかるなよ!